三十一話
『うん。いやわかってたけどね、君が来ることは。前回君がここに来た時にもフラグ立てたしね、ぼく。近いうちに君はまたここに来るだろうって』
……。
『それでもって、あれかい? ピンチになったから本能の奥底に眠りし未知なる力が目覚めるううううう、みたいな?』
……。
『あー、だからさ、あんちくしょうをぶった切りたいから最後の月牙天衝を授けろ、みたいな展開でしょ、これ』
……お前が何を言っているのかよく分からない。
『あそう。君の解釈はどうでもいいけど。ただね、あまりに予想通りというか案の定というか……ありきたりだねえ』
何が。
『君、少年漫画とか読んだことある?』
嗜む程度には。
『じゃあ分かるでしょ、ぼくが言いたいこと』
……。
『なんだい、その“ぼく物語りの中の人物だから難しいことはよくわかりません”みたいな顔。腹立つわー』
……。
『まあこの場合、シリアスな場面に楽屋裏的ふざけたことぬかしてるぼくの方がイレギュラーで淘汰されるべき存在なんだけど……もうちょっと捻った展開はなかったのかと思ってさ』
……。
『ぼくは思うんだ。主人公がピンチに陥ったら内なる力が覚醒して何とかなっちゃうみたいな展開、もうやめない? って。都合良過ぎない? って。人生っていうのは、成す術が無かったなら成す術が無いなりに成す術が無いまま成す術無く進むものなんだよ。それをどうだい君達“主人公”ときたら、なんだかんだ理由こじつけて、負けそうになったりヒロインが死にそうになったりするとタイミング良くパワーアップしやがる。心象世界に突入して必殺技もらってきたり、心奥の秘められし扉が開いていきなり強くなったり、仲間殺されてバーサクモード入って敵を殲滅したり』
……。
『もうわかってるよ皆。“ああ、ここで主人公覚醒ね”って。凄い安心感だよ、主人公が死なないことがわかってるんだから』
……。
『うん。まあその通り、今が正にそういう展開だ。君はこれから、ぼくから『負価壊』を借りてパワーアップすることになってる。深夜君に勝てないから。もしくは嫁を助けたいから』
……。
『『負価壊』は去年、異無君が学園の下でせっせと働いてた頃にぼくがさんざん貸してあげた能力のことだ。『最強の無能力者』の異名を確固たるものにする最大の要因の一つだったと言える』
現、一体何が言いた、
『説明だよ! 観測者への! 本当に察しが悪い。君とぼくだけ理解しててもそれを観測してる側の存在が理解しなきゃ意味がないだろう』
……なあ、お前はさっきから何を言ってるんだ?
『ふむ。まだ何言ってるのかわけ分からんって顔してるからぶっちゃけた話ししていい?』
……。
『ここは物語りの中だ!』
……。
『そして君は主人公だ!』
……。
『ぼくはその物語りを管理するものだ!』
……。
『でも管理するの飽きた!』
……。
『だから三兆年ぐらい前にぼくはこの物語りを乗っ取った!』
……。
『三兆年と言ってもぼくの主観時間だし、そもそもぼくは物語りの外に存在するものだから、ぼくがいくら気が遠くなるほどの時を過ごそうと、君達が存在する世界の時間とは全く無関係だけどね。ここでぼくが一秒を過ごそうと百年を過ごそうと、君達の居る物語内での時間に変化はない』
……。
『というより、ぼくの言う“物語り”って言うのは、四次以上の次元的要素全てをひっくるめて鑑みたものだから、三次元までの出来事しか把握出来ない君には少し理解がし辛いかも知れないけど』
……。
『“この物語り”の元々のあらすじを教えてあげよう』
……。
『昔々あるところに白令 深夜という少年が居ました。深夜君はとても正義感の強い少年で、世の中の理不尽に抗い続けました。で、なんだかんだで深夜君はラスボスに勝って世界を変え理不尽は無くなりました、終わり』
……。
『ちなみに“その頃の物語”だと、君は悲惨な死を遂げるだけのただのモブキャラだったよ』
……。
『でもぼくが君を主人公に祭り上げた』
……。
『そっちの方が面白そうだったから』
……。
『深夜君が主人公だった、あの頃の君達が送るつまらない、ありきたりな物語なんかなくたって、もっと面白い少年漫画ならとある少年ジャンプに沢山連載されてるんだ。わざわざぼくが管理する物語が、某人気少年漫画らの超劣化版みたいな展開を送る必要はない』
……。
『だからぼくがめちゃくちゃにした』
……。
『とりあえずまずは、主人公の深夜君をとち狂わせてみた。主人公っていうのはいわゆる物語の基軸だからね、世界中の歯車が噛み合わなくなって大混乱だったよ。その変わりようといったらもう、愉快過ぎて笑いが止まらなかったね』
……。
『主人公の崩壊さ。深夜君は主人公ではいられなくなった。だから世界は新たな主人公を求めた。でないと物語りが成り立たなくなるからね』
……。
『そこでぼくは君に眼を付けた』
……。
『理由はなんだったかな、忘れたけど、おおかた“このなんでもないキャラが主人公張れば面白い”みたいなことを思ったんだろうね』
……。
『“物語り”に気付かれないよう、君を主人公に仕立てるのには骨が折れたよ』
……。
『でも失敗した』
……。
『君を主人公にすることは出来たけど、ぼくの“不正”が“物語り”にバレちゃってね。ぼくはこの“世界と外の狭間”に追放されたんだ。そして、バレたからにはちゃんとその“不正”への対処も行われる。ぼくが君を主人公にした事実は“物語り”自身によって消去されてしまった』
……。
『でも甘いね、“物語り”のシステムも。この狭間内からでもいくらでも手を加えられるんだから。ぼくの遊びは何にも妨げることは出来ない』
……。
『そして、再び君を主人公にするために、ぼくは君に“絶対の試練”と、“ある人物”に“ある能力”を授けた』
……。
『“絶対の試練”とは、即ち死だ。君の死は確定している。ぼくが確定した。君は近い内に死ぬことになっている。人一人の死を確定することなんて造作もないよ、それぐらいの操作なら狭間からでも出来るんだ』
……。
『“ある人物”とは、即ち時旅 葉だ。ちなみに彼女の元の名前は織田 真理っていうんだけど、あまりに微妙な名前だったからぼくがもっと“らしい”名前に改名してあげた。君の名前も最初は……いや、これは言わないでおく、君の精神衛生上よくないから』
……。
『そして、“ある能力”とは即ち時を操る能力のことだ。君もその一端には触れたはずだよ。まあ、それは能力というかもはや神の所業だけどね。それだけ強大な力でないと、ぼくが確定した君の死に対抗することは出来ないから』
……。
『そう。君の死を確定し、時旅さんに時間操作の力を与えることで、ぼくは新たな物語りを作り出したんだ。時を巻戻す時旅さんと、その中心に居る君。それだけ特殊で特異で巨大なイベントを担う二人を、“物語り”は物語りの主人公として認めた。認めざるをえなかった』
……。
『時を巡る二人の運命と命運が螺旋状に絡み合い、禍々しい果実を宿す時、ようやく物語りは動き出す。ぼくが望んだ最高に意味不明で混沌とした物語りが始まるんだ。それまで君には頑張ってもらわないと』
……。
『――――という嘘を考えたんだけど、どう思う?』
百点。一千万点中のな。
『やったね、この前話した嘘話の百倍の点数だよ』
どうでもいいから早く力貸せ。
『はいはい。結局そうなるんだね。覚醒覚醒。パワーアップで敵をぎったんぎったんだ。一年前から変わらないね君は。じゃあ頑張って、主人公君』
◆◇◆◇
受かりました! 編入試験!
試験が終わった当日、問題用紙を持ち帰って親と一緒に答え合わせしたら英語が零点だったんでもう諦めてたんですがね。代わりに国語が満点でプラマイ五十。合格発表見た時は、神が存在していないということを疑いました。神の存在を信じたとも言う。一秒以上、三秒以下の範囲で。
語学力があるのか無いのか謎ですね……どうでもいいですかそうですか御免なさい。
というわけで、ようやく復帰です。といっても、以前のように毎日毎日しつこく更新し続けられるとは言えないですけれど……。
怖いですよね、執筆って。一ヶ月サボると簡単には元に戻れないです。別にそれは執筆に限った話ではないですけれどね。
なかなか、気力が惰性を上回る回数が増えないのです。言い訳させてもらうと、一応やる気が無いわけではないんですよ? やる気は百ですが、怠惰は百五十みたいな感じですね。人間の感情は一本の帯グラフで成り立つものではなく、複数の棒グラフや円グラフなど様々な統計方が三次元的四次元的に折り重なって出来ているのです。それは必ずしも、人間の理性で判断、統制しきれるものではありません。
まあ要約すると、ぶっちゃけめんどくさい! その考えが甘えだということぐらいはわかっていますがね。
うーん、もっと頑張れ私!
というわけで、また会えることを祈って。