表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
最強の無能力者  作者: まさかさかさま
第一章・動き出す指針
4/65

三話

 “得意能力”と“補助能力”の違いは分かるよな?

 分かってなさそうな顔の超どクズが居るな、臨時復習だ。

 能力者の才能は、基本的に一つだけに偏っていてな、生まれつき伸びやすい能力が決まっている。その伸びやすい能力が“得意能力”だ。それ以外の能力は全部“補助能力”。オマケだ。

 “補助能力”も伸ばそうと思えば伸びるが、“得意能力”に比べれば十分の一程度しか成長しない。だから俺達は一つの能力に絞り訓練していくことになる。

 まあ、こんなもんだ。そろそろ授業を再開するからな。

 これから能力の測定方法を説明する。

 よく聞いておけよ、どクズども。テメエらどクズの脳みそは食用ミソで出来ているから人間様の言語が理解出来ないのはよく分かるが、そこは脳を最大加速させて各自補え。ミソでも億回回転させれば何かの足しにはなるだろう。

 あそこに正方形のブロックが見えるだろ? あれが測定器だ。

 一言で説明すると、あれに全力で“得意能力”をぶつけろ。それだけでいい。そうすることによって、自動的に“補助能力”の値も逆算し読み取ることが出来る。

 どうだ、どクズでも分かる火雷先生の簡略講義は。

 本当なら、エジソンもビックリのウルテクが使われていて、もっとコツだとかやり方があるんだが、テメエらどクズに言っても無駄だろうな。

 つうわけで、俺が今から手本を見せてやる。その節穴かっぽじってよく見ておけ、節穴でも億メートルぐらい見開けば何かの足しにはなるだろう、おい、聞いてるか、おいコラ俺の授業で寝るとはいい度胸だな、俺はそんな度胸の持ち主が大好きだ、ぶっ殺しがいがあるからぬぁあありゃあぁああああああああああああ!!


「ぎぃいあぁああああああああああああああああっっ!!」


 能力測定の授業中。

 火雷(からい)に連行されていく悪友、火巻(かまき) 行地(ゆきち)を、俺は体育座りで見送る。

「た、助けて良人! 殺される! 殺されるうっ!!」

 学習能力の備わっていない哀れな悪友に、俺は親指を立て、

「グッドラック」

 更に親指を反転し下に向け、

「地獄で会おうぜ!」

「なんでそんな良い笑顔で---」

 そこで行地の絶叫は途絶え、代わりにドゴォドゴッドゴンッ、行地のすぐ横にある測定器を連打する火雷の拳。

 普通に爆風が行地に直撃している気もするが、そこはそれ、さすが凄腕教師にして超能力者、ちゃんと深手は負わないよう調整している。大事はないだろう。

 うん、大事はないだろう、きっと。大事は、ない、はず。


 ……。


 南無南無。

 クラスメイト達の合掌と爆音が鳴り止み、こちらに戻ってくる担任教師。バックの煙が妙にマッチしている。

 かつて測定器だったソレが『測定不能、測定不能』とピーピーわめいている。

「こんな感じだ」

 どんな感じだ、とは口が裂けても言えない。クラス一同引いているが、全員ピッと、

『サー、イエッサーであります!!』

 軍隊ばりの敬礼である。ここ三週間でしっかり染み付いてしまっていた。

 それから一人ずつ能力の測定が行われていく。つっても所詮は落ちこぼれクラス、全員が全員E判定ばかり。ランクはS、A、B、C、D、Eの六つあるが、そのうちのEだ。

 更に“測定不能”というのもあるが、これは論外だろう。それ即ち“超能力者”の域である。

 軒並みA級能力者以上の集う特級(エリートクラス)でも数人しか存在しない“超能力者”。そんな法外な力をもってしなければ辿り着けないランク“測定不能”。

 通常の人間では、夢に見ることすらおこがましい、天より上のランクだ。ましてやこんな雑魚の集まりが出せるはずもなく。

 だからこそだろう、今日このクラスの能力測定は驚愕の結果となる。


 出てしまったのだ。“測定不能が。しかも数人”。


 測定不能一人目、篤木(あつぎ) 圧土(あづち)

「ふむ、軽くやるかの」

 篤木 圧土。

 その学生とは思えない、老練の兵士のような悟った雰囲気と、その学生とは思えないオッサン顔が特徴の大柄な男子生徒だ。

 というか本当にコイツは生徒なのだろうか。あの白髪交じりの毛色は生徒のものなのだろうか。

 年齢査証って案外簡単なのかも的なことを邪推していると、クラスメイト達の間にざわめきがはしる。何事かと皆の視線を追うと、それは篤木の身体に集中していた。それを見て、俺も少し驚く。

 あの独特の光方は、念粒子か。

 念粒子は通常、人の目で視認することは出来ない。それが、こうして目に見えるほど、念粒子の凝縮された光の粒があいつの全身を覆っているのだ。こんな芸当、訓練したって到底出来るものではない。

 こいつはもしかして、もしかするかも知れない。


「篤木流拳術道場師弟、篤木 圧土、いざ参らん!」


 何だか仰々しいことを言い放ち、凄まじい踏み込みを見せる篤木。

 踏みしめた地面が掘り返されるほどに、力強い豪走。「あのどクズはグラウンド整備の刑だな」と火雷が呟くほどに、力強い豪走。

 計測器は一体、どのような値を示すのか、クラスメイト達から期待の眼差しが向けられる。


「喰らえい『筋骨流粒(ドーピングパウダー)』、必っさ----ぐぉおおおおおおおっっ!!」


 ずざああああああああああああああああぁぁっっ。

 自らの踏み込みで砕いた地面に足を取られ、思い切り地面を滑る篤木。なんとも素晴らしいスライリングを見せてくれるじゃねえか。

 軽く測定器を通り過ぎていったが、大丈夫かあいつ。

「ぐおおおおおおおおお! 皮が! ワシの皮がああああああ!」

 この日から篤木のあだ名は“摩り下ろし大根”になったという。


『測定不能、測定不能。能力を使用して下さい、能力を使用して下さい』

 測定器が嘲笑うかのように鳴り響く。


 測定不能二人目、彦星(ひこぼし) 香苗(かなえ)

「ツッチー……もう少しやりようはなかったですか?」

「む、むう、すまぬ……。少々露骨過ぎたかの……」

「やり過ぎです。馬鹿丸出しです。部下失格です。豆腐の角に小指ぶつけて爆散すればいいです」

「うう、殺生じゃ、香苗殿」

 何を話しているのかは聞き取れないが、シュンと落ち込む篤木。まあ、あの二人はいつもあんな感じだ。

 それにしても、同じ敬語口調でもえらい違いだな、彦星と奈々乃は。彦星の言葉には常に毒が塗ってある。

「仕方ないです。香苗がE判定の手本を見せてやるです」

「指導鞭撻の程を願う、香苗殿」

 ピッ、と巨漢の篤木が超小柄の彦星に敬礼する様は、なんとも壮観である。どうでもいいけど、何故あんなに敬礼が似合うんだ篤木。本当に老練の兵士なんじゃないか?


「では、行くぜです! 『異信伝身(トランシーバー)』!」


 声高々に妙な掛け声を上げると、一転静まり返り、目を瞑る。

 集中しているのだろう、周りの景色と一体化しているかのような自然体……って、あ?

 彦星の姿が消えてしまった。本当に景色に溶け込んでしまったのか、どこにもいない。ついさっき立っていた場所には足跡だけが残っている。


「……はーっ……はーっ……」


 しばらくの時間が経ち、パッと姿を現す。何故か肩で息をしているが、何がしたかったのか全く分からない。

「しまったです! 香苗の能力は完全受動型です! 放出とか不可能です!」

 完全受動型? そんなもの聞いたことがない。そもそも、例え攻撃不可能な能力でも、その能力によって何かしらの変化さえ与えれば測定は出来る仕組みのはずだ。

 何はともあれ『測定不能』の機械音が鳴る。篤木と同じで、この場合の測定不能はE以下なんだろうな……。

 ご愁傷様。


 測定不能三人目、奈々乃 美羽(ななの みう)


「はわわわわ」


 はわわじゃねえ。

 何がそんなに彼女を不安にさせるのか、キョロキョロ右見て左見て右見て、よしコイツのあだ名を横断歩道にしよう、と血迷うぐらいには挙動不審だ。

「え、ええと、お、お手柔らかにお願いしますっ」

 ペコリ。

 おい、ついに測定器にまで挨拶し始めたぞあいつ。いくらなんでもテンパり過ぎだ。

 くそう、イライラする。ああ、イライラする。

 あの顔であんなに不安そうな顔しやがって、あああイライラする!

 俺は見兼ね、「落ち着けアホ」と声を掛ける。


「あ、はい間違えましたっ。お手柔らかに参りますっ、ですね」


 頑張りますっ、とでも言いたげに、胸の前で両手をグッとする。

 いや、お嬢さん、そういう問題じゃなくてだね?

 というか、お手柔らかに参りますって何だ。あれか。手加減します的な意味合いか。

 なんにしてもアホな子である。

 再び前を向き、測定器と相対する。

 奈々乃は両手を前に出すと、念粒子を練るために集中する。あの構え方は、おそらく放出系統だな。

 にしても、へえ、集中力はなかなかのものだ。


「えいっ」

 ちょろちょろちょろちょろちょろちょろ。


 威力はミソカスだがな。

 小さな掛け声と共に、奈々乃の目の前の空間から放出される水流。いや、あれを水流と呼ぶのはおこがましいか。

 ホース程度、いやいや、ジョウロ程度、いやいや、あれはそう、もはや湧き水のレベルだ。

 あれで一体何をしようと言うのか。お花さんにでも水をあげるつもりなのか。

「んんんっ」

 力を込めているようだが、特に水の出が増すわけでもなく、相変わらずちょろちょろな湧き水。

 これは、ど級の低能力だ。見るに耐えない。

 だが、奈々乃の足元の水溜りが、それなりの大きさに成長し始めた頃。同じく、見兼ねた担任教師が声を掛けようとした頃。


 ザザザザザザザザザザザッ。


 蠢いた。水溜まりが。

 水溜りだったものは、奈々乃の意志に応えるように、その形を整え始める。

 まず半径五十センチ程のドーム状の水溜りが出来上がり、水のドームは徐々に徐々に流動していき、何かの形を模そうとピチャピチャ蠢く。

 校舎が出来、体育館が出来、寮が出来、窓が出来、木が出来、人が出来、徐々に徐々に“あるもの”を模していく。

 これは……ちょっと凄いな。思わず感心してしまう。

『おおー』

 クラス一同も感嘆の声を漏らす。ほう、と火雷が口の端を上げているのだからビックリだ。

 そして、完成する。

 奈々乃が水で創造したもの、それは、

「“ここ”か」

 つまり、異能力者研究兼育成機関『神屠学園(みとがくえん)』の完全模写だ。

 ちゃんと人や鳥まで動いていて、校舎の中まで形作られているところが凄い。

 そして驚くことなかれ、これを何も見ずに造ったということは、“『神屠学園』の構造を完璧に記憶している”ということである。

 これだけ大きな学園を完全把握だ。それがどれだけ途方もないことかは考えるまでもない。

「で、出来ました。これが私の能力、『愚天使(ピュアドール)』です」

 ちなみに、特徴ある能力には、“能力名”が授けられることがままある。命名者は学校の教師や親、師、友人と様々で、能力だけでなく、その能力者本人の人柄や本質にちなんでいることもよくある。篤木と彦星の叫んでいたアレもたぶん能力名だろう。


 『愚天使(ピュアドール)』……か。


 命名者は一体どういった意味を込めたのか、特に意味はないのか。まあ、もし意味があったとしても、あまり良い意味では無い気がする。

 ……何でもいいか。

 気を取り直し、再び奈々乃を見やると、おっと、目が合ってしまった。

 やりましたっ、とでも言いたげに胸の前で両手をグッとする。

 いや、しかしお前、測定器には何の変化も与えてないからな?

『測定不能、測定不能。能力を使用して下さい、能力を使用して下さい』


「はわわわわ」

 はわわじゃねえ。

 どれだけ記憶力が良かろうと、やっぱりアホな子はアホな子だ。


 測定不能四人目、火巻 行地。

「ここからは僕のスーパー行地タイムさっ!」

「お前、それ言ってて恥ずかしくねえ? てか今までどこ行ってた?」

「ずっと気絶してたよ。まったく酷いじゃないか見捨てるなんて」

「てか生きてたんだ」

「酷いっ」

「地獄は楽しかったか?」

「勝手に死んだことにしないで」

「逆に何でまだ生きてんの?」

「酷いっ」


 一通りの馬鹿会話を終え、測定器の直線状に立つ行地。

 ちらちらとこちらを見てくるのが腹立たしい。なんだあいつ。殴ってほしいのか。

 ギロと火雷に睨まれ、ビクッと前を向く。しっかり調教されてしまっている。早く始めないコイツが悪い、というか大体いつもコイツが悪い。

 すーっはーっ。

 大きく深呼吸をし、右手を構える行地。なんか様になってはいるが、認めたくないので認めません。

 コイツの得意能力は、『属性系統』の中でも特に威力の高い炎属性。

 『属性系統』っつうのは、火や水などの自然物を操る系統の能力のことで、最もオーソドックスで扱い易い異能力だ。

 この『属性系統』以外にも二つの系統があるんだが、そこはそれ、俺は説明が本分ではないので省略。講義なんてものはどこぞの暴力教師にでも任せておけばいい。

 というか、大丈夫なのかあいつ。能力使っても。

「……だいじょ、……上手く……また……ない……だから……絶対……克服……」

 ぶつぶつ言っているが、そこは旧知の仲ということでスルーしてやる。

 あいつはアレをやらなければ能力を発動出来ないのだ。心的外傷(トラウマ)ってやつで。

 もういいのか黙り、念粒子を生成、掌に集める。ちなみにこのタイムラグも能力の良悪に関わっていたりする。行地の場合はこれが特に遅く、学園下から二位の汚名の後押しをしていたりする。あの呟きもマイナスに含まれるのだから現実は厳しい。

 結構な退屈な時間が流れ、ようやく念粒子が溜まったらしい、

「よし」

 呟き、


 ドゴオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオ、


 巨大火炎弾を放出。

 景色が赤く染まり、一瞬夕日が出たのかと錯覚する。

 放った本人は後方に吹っ飛び、二転三転、地面に叩き付けられ呻く。

 紅蓮の火炎弾は、地面を横幅何メートルにも亘り抉り取り、自転車並の速度で校庭を蹂躙する。

 それはまるで、太陽のようで。

 それはまるで、恒星のようで。

 破壊の爪痕を残す。

 灼熱の焼痕を残す。

 愚鈍に、重厚に、圧倒。

 暴虐に、暴挙に、暴走。

 常識なんてちんけな現実は、悪夢に囚われた病人のように舞い踊る。

 その威力は枚挙に暇がない。


 皆、唖然とする。

 あの火雷ですら目を見開き思考停止している。

 無理もない、知っていた俺も、行地ですらも愕然としているのだから。


 というか一番驚愕していたのは他でもない俺だった。

 

 オオオオオオオオオオオオオオオオオ、

 と。

 “目の前に迫り来る”紅蓮の火炎弾を前に、あまりに不意打ち過ぎる火炎弾に、俺は反応することが出来ないでいた。


「は?」


 肌を焼く感覚。

 身が消失する感覚。

 全身が焼失する感覚。

 あつい。

 ああ、


 これ死ぬんじゃね?


 何も見えなくなる。


 蘇る過去の記憶。


 なに走馬灯なんか見てんだよ、俺。


 ……。


 最期に見たものは、白い少女の手だった。


 気がする。


◆◇◆◇


「! ……!?」


 ……なんだ?


 何が起きた?

 まるで白昼夢でも見ていたかのように、俺の意識は戻る。

「確か、俺、行地の火炎弾に焼かれて、――――」

 だがしっかりと地に足をつけ、俺は突っ立っていた。

「――――ない。?」

 いや、確かに目の前まで炎が迫って来て、それで、それで、

 生きてんじゃん。

 は? 意味が分からない。幻覚? 白昼夢? 気のせい?

 いや違う。微妙に肌に残っている自分の体温ではない熱さが、それらを否定する。何よりも前髪が軽くこげていることが証拠だ。

 じゃあなんだ? 目の前で火炎弾が消えたのか?

 それも違う。

 俺は今自分がいる場所を確認する。

 するとどうだろうか。

 さっき立っていた場所より十メートルほどずれた位置に、俺は立っていた。

 移動、、した?

 俺の周りに居た生徒も、ついでと言うようにこちら側に移動して来ていた。皆顔を見合わせ、首を傾げている。

 と、そんな場合ではない。いや、このことはあとで考えるとして、肝心の火炎弾の行方だ。どうなった?

 先ほど俺とその他諸々のクラスメイトが立っていた位置は、黒々と焼き焦げ抉れている。その“抉れ”は道のように続いていて、辿ってみると、あった。黒く抉れた道の、最先端。

 そこに、未だ止まることなく進み続ける火炎弾が。


「……あ……あ……」


 火炎の能力者は、その目に何を映しているのか、酷く怯えていた。

 そして、

 水操の能力者は、その目に何を映しているのか、酷く笑んでいた。


「! くそっ」

 我に返ったのか、火雷が咄嗟に念粒子を練る。

 両拳に爆炎を宿し、全身に雷光を纏い、俊足の超能力者は、まだ歩みを止めない特大火球に向かって特攻する。一瞬呆けてしまったとはいえ、この判断力はさすがエリート暴力教師と言ったところ。アレを止めなければ更に被害は拡大してしまう。

 不幸中の幸いにして、火炎弾の速度は自転車並。あの超能力者教師のスピードにかかれば、追いつくことは容易い。

 予想通り、火雷は火炎弾の後ろに回りこむと拳の炎を一層強め、手加減なしで殴りつける。おそらく、一番脆い箇所を正確無比に。


 ズドンッ、


 一回目のクリーンヒット。


 ズドッズドン、ズゴッ、ガゴッ、

 二回目、三回目、四回、五回、六回七回八回九回、十、十一、十二、十三十四十五十六……、


 一発でトラック一つを破壊出来そうな重い烈拳を、何度も何度も、何度も、加速度的にジャブは速くなる。

 衝突音が、ドゴッドゴからドドドドに変化する頃、ようやく火炎弾全体をひび割れが覆いつくし、爆裂する。


 チュドオオオオオオオン、


 という轟音に、皆安堵の溜息をつく。力と力が相殺されたことにより、爆発は今の程度で済んだ。高等部の校庭にぽっかりクレーターが出来てしまったが、まずは脅威が去ったことに胸を撫で下ろす。


「修繕費とかヤバイんだろうなあ……」


 どうでもいいことを嘯き、自信を落ち着かせる。いやどうでもよくはないが。

 ところで火雷は大丈夫だろうか。いくらヤツでも、あの爆風に巻き込まれればさすがに……。

 その心配は杞憂に終わる。

「あっちーな、チクショウ! くそっ、どうすんだよこの背広、使いものにならんぞ! 高かったんだがなあ。後であのアホに拳と請求書叩きつけてやらんと……。まったく手の掛かるどクズめ!」

 ブツクサ言いながら、何事もなかったかのように、いつもの渋面で炎の中から出てくる。

 今ならこの人を英雄と呼んでやってもいい。

 当の本人、行地はというと、

「――――っ! ――――あ――!! ――――ああっ!」

 恐怖に支配された顔で、過去の事件でも思い出しているのか、うずくまり何事か呻いている。

 仕方ないやつだ。ちょっくら気付けでもしてやろう。

「おーい、こら起きろー、行地さーん?」

 とりあえず頬を掌で往復しておく。

 スパパパン、うん、いつもの行地の頬だ。実に良いはたき心地で。

「いたっ、いたたたたた、痛い痛い痛い」

「ほれほれほれー」

 スパパパパパパパ、

「ちょ、おまっ、いた、待て、痛いって、い、いた、や、やめ、痛い痛い、やめろ、いたいたいた、やめろごらあああああああああああああ!!」

 あ、キレた。

「うおっとと。貴様の攻撃なぞ当たらんよ、フハッ!」

 ヘナチョコパンチが飛んできたので、軽くいなしておく。はん、蝿が止まって見えるな。

「おま、良人、お前! それが傷心中の幼馴染に接する態度!?」

「ふっ、手を差し伸べてやっただけさ」

「ビンタしてただけでしょ!?」

「いや、見ようによっては手を差し伸べていたようにも……」

「見えないっ!」

「そりゃただの往復ビンタだしな」

「開き直るな!」

 よしよし、ノーマル行地復活だ。

 まあ全身擦り傷だらけなことを除けば無傷だな。俺は行地の身体に怪我が無いかを確認し、右手を差し伸べてやる。

「ほれ」

「……え? あ、ああ、うん」

 虚をつかれたのか一瞬驚き、俺の手を取り立ち上がる。

 まったく世話の焼ける阿呆め。


 行地は落ち着いたし、火雷は生きてたし、まあ良かったが……さて。

 問題は、この目の前のクレーターだ。


 どうして行地の能力が暴走した?

 なぜ、行地の能力は俺を襲った?

 行地は測定器に向かって炎を放ったはずだ。

 俺は行地の斜め後ろに居たのだから、間違っても俺の方向に飛んでくるなんてことは……いや、それもありえる、のか? 能力が暴走したのだから、妙な方向に飛んでもおかしくはない、かも知れない。それがたまたま俺の居た方向だった? そうなのか?

 分からない。

 そして最大の謎。

 どうして助かった?

 あれは確実に直撃だった。

 だが俺はこうして生きている。


 何かが、俺を助けた?


 あのタイミングで?

 有り得るのかそんなこと。


 ……意味が分からない。


◆◇◆◇◆

評価をするにはログインしてください。
この作品をシェア
Twitter LINEで送る
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ