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最強の無能力者  作者: まさかさかさま
第一章・動き出す指針
2/65

一話

 例えばの話。

 そう、これは例えばの話。

 もし登校中、路地裏で一人の女の子が襲われていたとしたら。もしその子がクラスの同級生で、美少女と呼ばれるべき類の子だとしたら。

 しかも、携帯の充電は切れていて、警察に通報は出来ない。

 こういう場合、俺は一体どうすればいいのか?

 選択肢は三つ。


 一、なけなしの勇気を振り絞り、女の子を助ける。

 二、何も見なかったことにする。

 三、そわそわする。


 俺的には三がオススメ。

 これならば、助けようとはしましたが足が竦んで動けませんでした。見捨てるつもりはなかったんです。その他の素通りしてく奴らよりずっと良い子です。僕は悪くない。

 と、労力を要さずに自分への言い訳が成り立つ。

 という訳で俺は、そわそわしながら路地裏の光景を傍観。

 ああ、助けないとなー。

 でも俺には無理だしなー。

 足が震えて動けないなー。


 ……。


 アホらし。

 別に足なんぞ震えていないし、自分への言い訳なんかどうでもいいし、他人がどうなろうと知ったことではない。

 なのに俺は何をやっているのか。

 まあいいか、素直に見なかったことにしよう。

 さあ登校登校。達者でな、名も忘れた同級生。


 普段の俺ならそうしていただろう。

 だが今回は場合が違う。


 例えばの話。

 そう、これは例えばの話。

 もし登校中、路地裏で一人の女の子が襲われていたとしたら。もしその子がクラスの同級生で、美少女と呼ばれるべき類の子だとしたら。

 しかも、携帯の充電は切れていて、警察に通報は出来ない。

 更に、ここにもう一つの要素が加わる。

 もし、襲われている女の子が、寝たきりの妹と瓜二つだとしたら?


 選択肢は三つ。

 俺が選ぶのは----。


「おはよう、お二人さん。仲良く二人で登校かい? 俺も混ぜてくんねえかな」


 ----選択肢、四。陽気に挨拶。


 突如現れた闖入者に、ビクッと顔を向ける妹似の少女。

「あ、え、ええと……あ、あの、助け……て」

 少女が妹と同じ顔で、そんなことを言う。恐怖に歪んだ顔で、助けを求める。

 ちっ、まったく人の心をもてあそぶ面である。

「やあ、名も忘れた同級生」

 ところで、こいつの名前、なんだっけか。そもそも入学式はつい三週間前だったから、覚えていなくても仕方ないだろう。いや、普通なら三週間もあれば同級生の名前なんて自然に覚えてしまうものだと思うが、覚えていないものは覚えていない。

 実に俺の気を引く容姿だったため、顔だけは覚えていたのだが。いくらなんでも、妹の顔を忘れることはないからな。

 さて、そんなことより、どうしたものか。

 ついしゃしゃり出て来てしまったが、何をどうすればいいのか全く考えていなかった。

 まあ、あれだ、まずは状況確認からだ。何事においても、周囲の状況を把握しなくては始まらない。

 場に居るのは、俺と、名も知らぬ妹似の同級生と、そして名も知らぬ同級生を襲っている白い学生服を着た女生徒。

 ややこしいから仮に襲われていた方を“名無しの奈々子”、襲っていた方を“白子”としよう。

 白子の特徴は、白い制服に、肩に掛かるぐらいの真っ白な髪の毛、白く綺麗な肌、腕にはアンティークな変わったデザインの白銀の腕時計。全身白ずくめである。なんか、どこかで見たことがあるような気がするが、はて。

 で、状況を簡単に一文にまとめると、『白子が奈々子の首にナイフを突きつけている』だ。

 金目当てのカツアゲにしては随分と物騒な得物である。単なる一学生が裸で持っていていいような代物ではない。

「……あんた」

 どうやって血と涙と金を流さずに場を収められるか思考していると、小さくも透き通った聞き取りやすい声で、白子が俺に話し掛けてきた。

 ん? と、意識と視線を向ける。暗くて顔はよく見えないが、その表情は多分渋面だ。

 そして、ゆっくりと口を開き、言葉の続きを呟く白い少女。


「そんなだから死ぬのよ」


 白い少女は、確かにそう呟いた。 

 そう、“呟いたのだ”。俺の耳元で。

「----っっ!」

 いつの間にここまで移動して来たのか。

 彼女はつい先程まで奈々子に詰め寄り、ナイフを突き付けていた。距離にして、七メートルぐらいあっただろうか。

 それが次の瞬間には、耳元で俺に囁いていたのだ。

 まるで、“移動する”という描写を抜き取ったかのように。まるで、俺との“空間”など元から無かったかのように。

 背筋に凍りつくような悪寒が走る。

 彼女はナイフを持っていた。彼女はすぐ横に居る。そして俺は、今さっきの場面の目撃者。この状況から次の彼女の行動を予測するに、ろくでもないことが起きるだろう。

 即ち、すぐにでもナイフで首を掻っ切ることの出来る位置に白子はいる。

 脳が命の危機を察知し、なかば条件反射のように白い少女へと振り返る。

 ……が。

 誰も、居ない。動いた気配すら無かった。

 最初から誰も居なかったかのように、忽然と姿を消してしまっていた。


 ……何がしたかったんだ?


 俺が現れたから逃げていった、のか? 全く訳が分からない。それに、こちらを見るあの渋面。あの言葉。俺のことを知っているのか?

 いや、いい。今は助かったことを素直に喜ぼう。ただの不良女子か何かだと思ったが、まさかあそこまで危ないやつだったとはな。

「おい、大丈夫かお前。えー、と……名無しの奈々子」

 ぺたん、と座り込んでいる妹似の少女に語りかける。気が抜けてしまったのだろう。何故こいつが、あのような危なっかしい女に追い詰められていたのかは分からないが、やはりそれこそ俺の知ったことではない。世界は広い。どこぞの物語の主人公のように、事あるごとに他人様の人世なんぞに介入していたらキリがない。

「……ななこ? あ、ええと、はい、大丈夫です。助けていただきありがとう御座います」

 ぺこりと深くお礼を述べる奈々子。見事な九十度だ。あだ名を三角定規に改名してやってもいいぐらい綺麗な九十度だ。

「あの……異無さん、でよろしいんですよね、お名前。同じクラスの」

 何が不安なのか、おずおずと尋ねる。まあな、とだけ一言。

「お、そういや時間やばいな。じゃ俺はこれで」

 早くしないと遅刻するぞ、と背を向け退散しようと路地裏から出る。

 はあ、柄にも無いことするもんじゃないな。少し急がないと間に合いそうにない。俺のクラスの担任教師は“大人も泣く鬼教官”で有名だからな。泣く子が黙る方が有益だというに。

 思考を切り替え、急ぎ足で学園のある方向へと----

「あ、あのっ!」

 走り出そうとすると、先程の少女が路地裏から飛び出て、声を掛けてきた。

「何だ?」

 手短に聞き返し、

「な、名前っ」

「だから、異無。異無(ことなし) 良人(りょうと)だ。さっき、お前自身言ったろ?」

「い、いえあの、そうじゃなくて、ですね。えと、私、の名前……」

「何だ、もったいぶってないで早く言え。担任の火雷(からい)に殺されるぞ」

「す、すみません」

「いいから」

「う……はい。奈々乃、です。奈々乃 水羽(ななの みう)です」

「あー、はいはい」

 それだけ言い残し、さっさと走り出す。とんだ時間を食ってしまった。

 妹がまだ寝たきりじゃなかった頃は、元気過ぎて手に負えないぐらいのやつだったんだがな。俺の妹と違って随分ノロノロした奴だな、奈々乃。

 ……奈々乃……奈々子。

 おしい。一字違いだったか。


◆◇◆◇

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