表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
最強の無能力者  作者: まさかさかさま
第一章・動き出す指針
12/65

十話

 二ヶ月ぶりの更新です。

 ほったらかしにして申し訳ありませんでした。出来ることならお詫びの印として今すぐ首を吊りたいところですが、近くに縄が無いことが無念でなりません。

 これからもちょくちょく更新は続けるつもりなので、まだこの作品を見捨てていないという心の広い方、どうか宜しくお願い致します。

 全体の構成は出来ているのですが、如何せん、推敲すればするほど矛盾点やミスが山のように掘り起こされてしまう駄文なもので、現在進行形で手を焼いている次第です。

 おそらく、いくつか前の話を書き換えることがあると思いますが、随時、前書き後書きにて報告致します。

 それではまたお会いしましょう。いつもご愛読、本当に有難う御座います。マジ有難う御座います。

「さ、飯食べよっか良人」

 パンッ。

 俺の席に焼きそばパンと牛乳を置き、その辺の席を寄せて座る行地の頬を叩く。

「何するのさ!」

「びっくりして、つい」

「いい加減、びっくりしたら僕の頬叩くクセ止めてくれる!?」

「お前は火傷した時に手を引っ込めないでいられるというのか」

「条件反射のレベルなんだ!」

 そんな何百回目になるか分からない会話をしながらも、席に着く行地。いやでもな、これは行地、叩かれても仕方なくないか?

「で、何で居んだ?」

 だってこいつ、例の能力暴走事件で一週間、神屠学園から出禁をくらっていたのだ。ここに居てはいけない筈である。

「そんなに現世が恋しかったか? ん?」

「僕の家を異界みたいに言うなよっ」

 こうして見ると至って元気で、身体のどこかに異常があるとは思えない。いや、頭が病気だがそれは元々である。

「あのね、昨日、病棟と研究棟で精密検査して貰ったんだ。それで能力暴走の原因が見付かったんだよ」

「へえ、そんで?」

「脳に異常があった」

「ああー……、今に始まったことじゃねえけどな」

「違くてっ。ここんとこに水が溜まってたんだってさ」

 行地は後頭部の辺りをトントン、と指で叩く。

 後頭部。それは能力発動には欠かせない、主に能力の操作を担っている場所だ。能力の操作には多大な集中力が要される。そんでもって、人が集中力を発揮するのは後頭部に意識を集めている時なんだそうな。よってここに何か異変が起きれば、集中するために集めた意識が妙な作用を起こし、能力の威力が変化したり思いがけない方向に飛んだりする。

 ときたまテレビで報道される『暴走者』は、後頭部と、あと何だったかがいかれちまった人間のことらしい。補足すると、『暴走者』とは能力の制御が出来なくなり精神が壊れ、持ち前の異能力で手当たり次第周りのものを破壊する人間のことである。

「水? どうやって入るんだ、そんなとこに。それに水が入ったからって、あそこまで異常な暴走を引き起こすもんなのか?」

「さあ。専門家じゃないからなんとも。ただ水は抜いたから、もう大丈夫なんだって。学園からも登校許可が下りた」

「?」

 変な話だ。おかしい。いくら危険がなくなったからと言って、それが謹慎を解く理由にはならない。大体、一応は“校庭を半壊させた罰”という意味も込めての自宅謹慎なのだ。いくら事故だからといって罪が不問になるほど神屠学園は甘くないし、というか“どのような事情があるにせよ、能力暴走による責任は本人が負うもの”と法律で決まっている。交通事故と同じだ、不可抗力でもやった方が悪い。

 それ以前に、行地の頭に水が入った原因が分かっていないのだから、行地を自由にするのは危険だろう。また何かの拍子に水が入って暴走したらどうする。

「どうしたんだい、腑に落ちない顔して」

「……何でもない」

 別にいいか。せっかくこうして無事な悪友の顔が見れたんだ、野暮ったい話は無しにしよう。

「ところでどうすれば頭に水が入ると思う? 外科医の人も不思議がってた。出すのは簡単だけれど入れるとなると相当な手間が掛かるって」

「うーん、脳の液があーだこーだして水になったとか?」

「適当な」

「専門家じゃないからなんとも、だ。つうか結構簡単なんだな、脳から水出すのって」

「世が世だからねえ。ヘルメットみたいの被せられて、はいお終い。偉大だね念粒子」

「世も末だなあ」

「その内普通に死人が生き返ったりしそうで怖いよ、現代医学の発達とか念粒子の汎用性とか」

 死人が生き返る、か。その言葉に、妹の顔が頭に過ぎる。

 『念末念糸』。天才医少女。治療。再生。蘇り。人体実験。鎮静剤。薬物乱用。凍った瞳。後遺症。動かない下半身。

 ――美唯。

「……あのう」

「うわっ!?」

 いきなり妹と同じ顔が目の前に現れたので、思わずマヌケな声を上げてしまう。ビビッた、想像がいきなり出現しやがったのだから。

「は、はわわ、すすすみませんすみませんっ」

 奈々乃だ。物凄い勢いで飛びのき、ペコペコ頭を下げられる。いや、そこまでされると逆にこっちが悪いことしているような気になるんだが。

「まあまあ、落ち着いて奈々乃さん。こいつ不良だけどそんな怖いやつじゃないから。こう見えても家では、お人形さんぐへらへらとか妹はあはあとか言ってるぐらい可愛いもの好きだし」

「ほええええ」

「信じんなアホ!」

 ほええええじゃねえっ。これだからアホの子はっ。

 とりあえずパンッ、と行地の頬を右手でお仕置きしておく。

「へぶらりいっ」

 図書館みたいな鳴き声を発する野郎である。あと言っておくが俺は不良じゃない。決して違う。成績が悪くてクラスで浮いてて友達が行地ぐらいしかいないだけの無能力者だ。不良などというプーな輩と一緒にすることなかれ。

「ほら、すぐ僕の頬を苛める。そんなだから影で不良人とか言われるんだよ」

「中学時代の不名誉を掘り返すなっ」

 中学時代なんて思い出したくもない。まあ、つい一ヶ月前までは中学生だったんだけどな。それでも不良人はやめてほしい、ちょっと上手いこと言ってるのが無駄にムカつく。全く、人の黒歴史を掘り返しやがって。

「それにしても、へえ。やっぱ見れば見るほど美唯ちゃんにそっくりだね、奈々乃さん。双子みたい」

 奈々乃の顔をまじまじと観察しながら行地。そういえばこいつと奈々乃が会話するのってこれが始めてなんじゃないのか。美唯の知人であるところの行地は、入学初日から奈々乃のことを気にしていた。そりゃそうだ、下手したら当初は、俺の妹が飛び級したとでも思ったかも知れない。で、気になって声を掛けようとしたところ、猛ダッシュで逃げられて軽くショックを受けて以来、奈々乃とは距離を置いていた行地である。

「ね、ね、何? 良人とはどういう関係? こいつの妹さんとはもう会った? ていうかその髪飾り面白いね」

「ひうううう」

 今回がチャンスとばかりに、にこやかに質問攻めする行地。だがそのフレンドリーさは奈々乃には逆効果だったらしく、俺の背に隠れて小さくなってしまう。ただでさえ友達と話しているところを見たことがない、極度な人見知りの奈々乃だ。そんな積極的に来られてはたまらないだろう。

 それと髪飾りの件に関しては同意である。数字の八の形を模した髪飾りだ。そういや昨日は七の髪飾りだったような気がする。何か意味があるのだろうか? ちなみにデザインが地味にカッコイイ。

「あちゃあ、小動物みたいな子だね」

「違う、アホの子だ」

 そこは譲らないぜ。だが抗議は軽く流され、

「ところで奈々乃さん、何の用なの? 良人に用事があって来たんだよね」

「あ、えと、あのその」

 口篭る。なんだこいつは、もっとハキハキ喋れないのか。見てるとこっちまでそわそわしてくる。なんだろう、保護欲的なものを駆り立てられる。くそう、好き勝手に人の妹の顔使いやがってからに。

「こ、これっ」

 と、手に持っていたピンク色の箱を見せてくる。何? くれんの?

「これは弁当ですっ」

 他に何があるんだよ。

「しかもここは学校ですっ」

 当たり前だろう。

「よりにもよってお昼休みですっ」

 何がよりにもよってるのだろうか。

「そして私はお腹が減っていますっ!」

 知らねえよ。

 ドドン、と、何がしたいのか強い口調で言い切る奈々乃。ただの挙動不審である。

「行地、翻訳」

「“お昼一緒にどうですか?”」

 おお、存外に高性能だな行地翻訳機。ノリの良い悪友だ。

「つうか、それぐらい一言で言えんのか」

「そんな滅相も無いっ」

 何がだよ。小分けにした方が礼儀正しいとでも思ってんのか。

「そ、それで、お昼は……」

「断る理由もない。勝手に椅子持ってきて食えばいい」

「よろしいのですか!?」

 そこまで驚かれても困る。

「うん、全然いいよ、歓迎歓迎。ねえ、良人」

 行地も嬉しそうだ。まあ、基本的に軟派思考だから美少女とか大歓迎なやつなのである。友人の妹でもな。友人の妹でもなっ!

「ありがとうございます」

 ぺこりと九十度のお辞儀を残し、弁当を持って自分の席に帰って行く。椅子を取りに行ったのだろう。律儀なやつだ、その辺の使えばいいだろうに。

「……良人、何で怖い顔してんの?」

「いや別に」

「あそう」

「……。ところでお前、あれか。奈々乃と話せて嬉しいか? あ?」

「え? そりゃ、まあねえ、可愛い子だし。というか美唯ちゃん思い出すねえ。最近全然見てないから何か懐かしいよ」

「そうか。なるほど。死ね」

「ええ!?」

「お前、あれだからな。次ふざけたこと抜かしたら、お前、あれだからな」

「怖いよっ」

「それと誰が美唯を名前で呼んでいいと言った! 頭割るぞ!」

「理不尽なっ!」

「この前な、妹がお前のこと聞いて来たんだ。行地さん元気にしてる? とか、行地さん家に呼ばないの? とか」

「へ、へえ」

「貴様なんぞにはやらんからなっ!」

「何言ってんの!?」

「くそう、いつの間に仲良くなりやがってテメエら。誰がお前のこと義弟だなんて呼ぶか気持ちわりいっ!」

「それは僕も嫌だよ!」

「今後妹に指一本触れたら暗殺します」

「なぜに丁寧語っ」

「“み”か“い”の字を発した瞬間首が飛ぶと思って下さい」

「うわあ、めちゃくちゃ言って――」「はいどーん」

 パンッ、

「へぶらりっ。……うう、横暴だあ」

 ……。

 はっ!? 俺は一体何を?

 えー、確か奈々乃が椅子取りに行ってから……何だっけな、思い出せない。たまにあるんだよ、数秒間記憶が飛ぶ時が。一度病院で診てもらった方がいいかも知れない。

「? どうした行地。赤いぞ頬」

「ううう……。久々に良人のシスコンモードに遭った……」

 わけ分かんねえ。またアホなことをほざいてる。まあ、今日も行地は相変わらず行地だな。

 していると、椅子を抱えて奈々乃が戻って来た。俺から見て左側に行地が居るので、右側に椅子を付けて弁当を置く。

「どうぞお手柔らかに頂きます」

 合掌し、弁当の布を解く。面白い日本語使うなこいつは。奈々乃語と呼ぼう。

「私、あの、始めてなんですよ、こういうの。一緒にお弁当食べたりするのって」

 美唯手作り弁当を開けながら返答する俺。

「ふうん。友達居ないのな」

 人のこと言えた立場じゃないけど。

「うっわ、デリカシー無っ」

 購買で一つ百円、しかも賞味期限切れしたため半額シールの貼られた一個五十円の貧相な焼きソバパンの袋を開け、小声で言う行地。よく聞こえなかった。何つった? デリバリーが無い? 意味分かんね。

「は、はい、その、恥ずかしながら……。家の事情とか、色々、ありまして」

 奈々乃の顔が曇る。こいつもこいつで大変なんだな。他人の家の事情なんざ知ったことではないけれど。

「へえ。どんな?」

「軽く聞くなよっ」

 また小声で何か言っている。

「その……。私の家族、ちょっと特殊でして……両親、と呼べるべき人がいなくてですね……」

 弁当の蓋を開けたまま、箸の動きを止める奈々乃。

 対し、美唯の愛情たっぷりの弁当をもりもり食いながら俺。

「死んだのか? それともお前、捨て子とか?」

「最悪の聞き方だよっ。最悪だよこの男っ」

 さっきからやかましい。

「……えっと。…………」

 黙り込んでしまう奈々乃。おっと、地雷踏んだかもな。そうか、あんまり聞かれて気持ちの良いものじゃないよな。今更空気が重くなっていることに気付く。

 しまったなあ、話題変更しないと。どうにかしてこの話を終わらせよう。という訳で、話の流れをシャットアウトしに掛かる。

「まあ、あれだ奈々乃。俺は思うぜ。そんな下らない話はどうでもいい、と。ドラマじゃないんだし、んな話されてもなあ。俺だって親いねえし。つうか友達が出来ないのはお前の責任だろう」

「ええい、このゴミクズ野郎めが!」

 バシュウウウウウウ、と行地のパック牛乳が噴火し、俺の顔面を直撃する。

「くさっ、この牛乳くさっ! お前これ腐ってるだろっ!?」

「うるさいバカ! 学食のおばちゃんがいつもタダでくれるんだアホ! 金ないんじゃタコ! 信じらんないよカス! 人の辛い家庭事情をずかずか無神経に踏み荒らしてこのブタ野郎! あまつさえ下らないだってミソ野郎! メタンガスでも食らってろミジンコ! そんでもって大気圏にでも飛ばされればいいんだエイゴリアン!」

「エイゴリアン!?」

 突然ブチ切れ、焼きソバパンを握り潰し激昂する。勿論、これだけ大声を出せばクラス中の視線を浴びるのは必然で、何だどうした喧嘩か、とクラスメイト達が一歩引いた距離で注目する。何人かと目が合い、そそくさと見て見ぬ振りをされてしまう。

 だが奈々乃の反応は以外なもので、

「ふ、ふふ、あはははははっ」

 可笑しそうに笑っていた。

「あ、あはははははは、はは、面白いですね、良人さんも行地さんも、ふふふっ、」

 それは彼女が俺達に見せる、初めての笑顔であった。

 俺も行地も完全に呆けてしまう。先ほどの勢いはどこへやら、ストンと席に付く悪友。それにしても楽しそうな笑い声だ。見ているとこっちまで笑みが零れて来てしまいそうなほど。

 ……へえ、

 なんだ。

「そんな風にも笑えるんじゃないか」

「へ?」

 キョトンとする奈々乃。

「いやなに、俺はてっきり、お前はもっと暗いやつなのかと思ってたけどな」

「え、あ……あ、いえ、違うんですよ、これは」

 やっと自分に集まる視線に気付いたのか、顔を赤らめる。

「はは、あんな下らない話してる時よりも今の方がよっぽど可愛い」

「っんなっ!? なななな、なにをっ、なにを言っとるのでありんすか!? あ、あのあの、はわわわわいあん!!」

 壊れた。この奈々乃語の解読はちょっと難しい。ハワイアンとか言ったぞ。

 くっそ、惚気話かつまんねーリア充実爆発しろなどとブツクサ言いながら興醒めし、それぞれ自分の飯やお喋りに注意を戻すクラスメイト。どこがどう惚気なのだろうか。

 とりあえずはスクラップ中の奈々乃を落ち着かせるため、先ほどの会話の続きとして、少しだけ激励の言葉を送ってやる。

「ほらな、家庭事情がどうたらで友達が出来ないなんて嘘っぱちだ。言い訳がましいんだよ。お前の家に何があるのか知ったこっちゃねえけど、それだけ魅力的に、楽しそうに笑えるんだ。それなのに、お前自身が自分には友達が出来ないと思ってんだから出来るもんも出来ないだろう。人の価値を決めるのは家じゃない、親でも家族でも家庭環境でも出身でもない。ちょっと不運だったからって何だ。不運だっただけだろう。ふて腐れてんじゃねえ、これから幸福になればいい」

 まあ、ひたすらプラス思考なだけの現実逃避だけどな。それっぽいこと言ってるだけの戯言である。だけれど幸運は幸運であると思うやつだけに見えるもんだろう。

「でも私、実際友達居ませんし……」

「俺と行地とは絶好なのか。泣くぞ」

「そうだよ、泣いちゃうぞ」

 いつの間にかノッて来る行地。なんだこいつ。

「それにもう、色々大変で嫌な目には遭って来たんだろう? やったな、おそらく人世の不運は使い果たしたぜ。これから良いこと尽くしの勝ち組だな。ラーメン奢れ」

「そう、ですね。そうですよねっ。何言ってるのかよく分からないですけど、勝ち組ですよね私!」

「その通りだ! ラーメン奢れ!」

「そうだよね! ラーメン奢れ!」

「そうですね! ラーメン奢ります!」

 

 さて、

 お分かり頂けただろうか。

 これが友人から体良く飯をたかる方法である。

評価をするにはログインしてください。
この作品をシェア
Twitter LINEで送る
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ