恐怖
恐怖
「『どのような恐怖が最も怖いか』
それが今回の議題だ」
「怪物。異形のモノ。その姿こそが、最も根源的な恐怖だ。
理解不能で、視覚から直接衝撃を与える恐怖こそが至高だ」
「いいや。やはり、人間から受ける恐怖こそ至高。普通の見た目の人間が突然
性格を変えて襲ってくる。その恐怖よ」
「いいや。それならば、一人の人間よりも集団の恐怖だ。
村落の因習、秘密結社、恐怖とはこれだ」
「感染、パニック、宇宙からの侵略者…」
「それはSFじゃないか?」
「洋館」
「やはり幽霊。幽霊の存在こそが恐怖の根源だ」
「心理的恐怖。
周りがおかしいのか、自分がおかしいのか分からなくなる。
自分の内面が変わっていく恐怖こそが最高だ」
夜も更ける
話題は尽きない
ふと参加者の一人が気付く
いつの間にか、主催者が精巧な怪物の仮面を被っていることに
獣の目、血に飢えた牙、よく出来ている
あまりに良く出来すぎている
まるで…
他の参加者が気付く
いつも優しい執事が今夜はおかしい
別人のような笑みを浮かべ、独り言を言っている
「罪。罪。罪。罪。罪。罪……
…バレなければ罪はない。バレなければ。バレなければ。バレなければ…」
こちらを見た
別の参加者が気付く
外に数十の火が見える
松明の火
人々が近づいて来る
槍に、何か獣のようなものを串刺しにしているのが見える
あれは…何だ…?
また別の参加者は気付く
自分の腕に緑色の斑点が広がっていることに
そして突然思い出した
その斑点の原因は
幼い頃UFOに攫われた際に腕に埋め込まれた、微小な生物のせいだと
もう一人の参加者は気付く
この洋館が微かに揺れていることに
この洋館の先々代の主人が描かれた肖像画が、突然赤黒いシミに覆われたことに
笑顔で幸せそうな写真の中の家族の、首が、手が、足が、消えていることに
床から血が滲み出し、ネズミの死骸が端に多数転がっていることに
また他の参加者は気付く
人がこちらを見ている
身体が透き通っている
目が合った
逃げる間もなく、気付いたら目の前にいた
冷気が肌を刺す
凍える彼岸の瞳から、もう目が離せない
逃げられない
最後の参加者は気付く
自分達が話していた恐怖が
現実に自分達の目の前にある
こんなことはあるはずがない
滑稽で笑った
笑いが止まらなくなった
ああ
このままでは
俺はおかしくなってしまう
怖い 怖い 怖い
このままでは
このままでは
笑いが止まらない




