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「ど、どうしたんだ? なんかやつれてないか? 白藤」
「いやー……。ヒーローってさぁやっぱりヒーローやってるだけあって強いよね……」
「そりゃあ伊達と酔狂でボランティアしてるんだから強いよ? 当たり前だろ」
「だよね……」
「なんだ。俺の強さが今頃分かって惚れ直したってそういう話か」
「そういう話ではない。全然違う」
「じゃあなんだよ」
「月曜日にさ、赤に会った。偶然。赤いマスクして商店街歩ってたから絶対に赤に違いないと思って襲いに行ったんだけど――」
「襲ったんだけど?」
「対決にはちゃんと事前の準備運動が必要だって力説されて、走り込みやら腹筋やら背筋やら縄跳びやら階段うさぎ跳びやらヨガやらストレッチやら大車輪やらカバディやらインディアカやらに付き合わされて体力が尽きた。対決する前に。その後、いい汗かいたからって銭湯に連れていかれて、冷たい牛乳の一気飲みを強要されて、お腹壊して、お腹壊したって言ってるのに飲みにつれて行かれて、泣きながらビール飲まされて、宴会芸を強要されて、店が閉店時間になったんでやっと帰れると思ったら、今度はカラオケに連行されて、三時間も赤のドスの利いたドヘタクソな演歌聞かされて……。狂うかと、死ぬかと思った。会社に入ってはじめて命の危険を感じた」
「――そりゃあ、御愁傷様」
「私も部下もボロ雑巾みたいになっちゃって、火曜日は有給使って休んでどうにか体力と気力を回復させたんだけどね、でも、水曜日には会っちゃったの。黄に。スーパーで」
「あ、あー……。なんか話の落ちは見えたけど聞くよ」
「水曜はスーパーマルバツの特売日で、黄はその特売セールの日に決まって現れるって情報を得てね。来て欲しい気持ちと来て欲しくない気持ちとが半々で店の前で待ってたわけ。で、もう来ないのかなーと思い始めた七時頃、大量の荷物抱えて黄が店から出てきたの。店に来ないどころかずっと買い物中だったのよ。噂の通り黄色のシャツを着て全身からカレーの匂いをさせてたからそれが黄だって思って戦いを申し込んだんだけど……」
「だけど?」
「今手が離せないからって荷物持ちさせられて、黄の自宅までみんなで行ったの。そしたら、荷物持ちのお礼にってカレー食べてけって言われて、八時前だったし、私たちもお腹空いてて、じゃあそうですかって御馳走になろうと思ったら、黄はスパイスの調合から始めちゃって、煮込むのに八時間はかかるっていわれて、そんなに待ってられないし帰るって言ったんだけど。言ったらなんでか泣きつかれて、拝み倒されて黄お気に入りの若手芸人番組を九時間見させられて、結局次の朝六時にカレーを食べさせられて帰って来た。朝からあのスパイシーな料理はへヴィ過ぎた」
「だろうな」
「なんか、もう、こんな調子で本当にヒーロー五人も倒せるのかなって落ち込んじゃって。疲れた」
「そ、そうだろうな」
「だから悪いんだけど今日の戦いはキャンセルしてもいい? 胃腸の調子整えたい」
「ああ、ゆっくり休めばいいと思う」
「うん。ありがと。そうする」
「……気を、付けてな」
「うん」