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プロローグ ーアーリャと魔王と始まりの章-

10年ほど前から書いていたものを、この度公開させていただく決心を致しました。

ロシデレさまとは違う名前のアーリャさんの物語、暖かく見守って頂けると幸いです

 ――カリ……カリ、カリカリ。

 羽根ペンが走り、筆記体のように斜めの文字を、滑らかに綴っていく。


 

 ――俺が今現在暮らしているこの世界においてすでに、『魔王』という存在は全く珍しくもない。誰が最初にそう言いだしたのかは知らないし、誰かがそう呼び出したのかもしれないけど、これも知らない。

 でもいつからか、俺たちみたいな存在は総称して『魔王』って呼ばれる。

 人によっては覚醒しちゃった連中、なんて呼んでたこともあるね。

 『魔王』がいるってことは、そこは剣と魔法とおとぎ話が席巻するファンタジーの世界なのか、といえば、そうでもあるしそうでもない。

 どういうことかって?

 ここは間違いなく、現実の『地球』だ。西暦でいうと二千二十年。皆が知ってる世界の延長。

 科学と電気が世界を維持する、超現実的な世界。そこにファンタジーはない。

 代わりに剣と魔法とおとぎ話の方は、俺たち自身が体現してる。

 なにしろ『魔王』なんていうからには、俺たちはもちろん人間じゃない。何から何まで常識が通用しない、全く別の存在だ。

 『たち(・・)』ってことはつまり『王』が大量にいるということで、しかもそれが『魔の王』というからには、強大な力――具体的には一撃で地球をぶち壊したり、変な合成術で世界を作れちゃったりするような人たちがいっぱいいるってことだ。

 覚醒って何?と聞かれると答えに窮する。人間やめました、ってことだとしかいいようがないなぁ。


 魔王になっちゃった人々は大体二パターンの理由に分けられる。

 人間社会や世界のアレコレにとことん、もうこれ以上ないってくらい嫌気がさした人か、これ以上ないってくらいに厨二をこじらせてしまったとかした人たち。

 あるいはその両方かな。うん、これが一番多いと思う。

 なので年齢はおおむね十代後半から三十代未満となる。世界的にも若手って言える年代。

 俺も長年の夢みたいなものを叶えられて、そりゃもう毎日が楽しい。

 ヒトとしてのカタチを外れることなくヒトを外れ、人間社会を外から眺めてる。歯車に組み込まれることなく、歯車の中に入っていける。そんな感覚。いやもう、サイコー。

 しかして、世界中の頭の固い大人たちがそうことを理解できるはずもなく、とんでもない力を持った魔王たちを恐れるか、あるいは屈服させて軍事利用しようとするか、もしくは力を解明しようとして人体実験をしようとするか。

 最初は結構あったね、そういうの。

 眠らせて拉致ろうとするとか、家族を人質にするとか、やってもいない悪事を押し付けられるとか、金をはじめとする報酬で釣るとか。

 とはいえそういう大人たちの私利私欲・あるいは権力にとことん嫌気がさしてこうなっちゃった人たちが魔王なので、当然言うことを聞くはずもない。

 止めろと言っても止めない、あるいはあの手この手で屈服させようとしてくる大人たちにブチ切れ、俺も含めた魔王の一団が自称サイエンティストや家族を人質に取るような連中、金をやるなどと言って実は自分の利益しか考えていない連中を消し飛ばした。

 押し付けられた悪事は時間をさかのぼる魔法とかを使って強引に解決し、発表。

 最終的には大陸の一部を吹っ飛ばして消滅させたここに至って、世界を牛耳る連中は魔王は飼いならせず危険な集団に過ぎないという結論に至る。

 そりゃそうだ、『魔王』だもの。

 結果世界中の軍隊を結集させた戦争が起こるが、そこはほら、相手が魔王だし。

 世界救世軍と銘打たれた集団は特に何もできず、遊び半分の俺たちにフルボッコされて敗走。

 核まで使ったというのに、あっさり負けた。

 で、なし崩し的に俺達が前線基地として使っていたとある島を、不可侵の場所として設定。

 周囲百キロを最重要危険区域とし、あらゆる艦船、航空機の立ち入りを禁じた。

 これが一年くらい前かな。

 とはいいつつそのあとも幾度か小競り合いが起こったが、当然意味はない。

 相手は核ミサイルの爆発を掌の中に封じ込めてキャッチボールするような人たちだからね。

 ……そういえばこの辺からあちこちで、『魔王』って言葉が聞かれ出したかな。


 

 ――カリカリ、カリカリ。

 群青色のインクが、休むことなく書面に軌跡を残してゆく。



 さて。もう分かってると思うけど、俺もまたそんな魔王の一人。ほぼ最初期からいるとされる古参の魔王だ。

 ほぼ、というのは、そもそもいつから世界中に魔王が出現しだしたかが分からないから。気づいたらあちこちに出現していたからだ。だから、気付かれ出したころに魔王になった人たちを便宜上古参というわけ。

 始まりの魔王とか、そんなものがいるのかだってわからない。

 なにしろある日ばったり出会って、

 『あれ?お前って魔王?』

 『あれ?お前も?』

 なんて感じだったからだ。

 一年前、中学生の時からこの手の話で盛り上がった奴とばったり出会ったら、そいつも魔王になっていた。

 アレは確か、どっかの海軍艦船数十隻をまとめて上空三千メートルまで吹っ飛ばした後の事だから、うん、太平洋の上でだったかな。

 島に帰ってお茶を飲みながら近況報告をしあった。

 友人は大学を卒業して社会の歯車になって、会社や社会に蔓延る偽善や歪みに鬱屈が溜まり、ある日突然魔王になったらしい。俺と大体同じ。

 ん、あぁ、言ってなかったっけ。その友人と同じく、俺の実年齢は二十八歳。元会社員。

 ニュースで見る大人たちの詭弁と偽善に辟易し、遠い国々の戦争とテロの応酬に頭を痛める。いや、痛めてもしゃーないってのは分かってるんだけどさ。

 ネットに潜れば掲示板の容赦ない書き込みにうんざりし、日本中で見つかるアホな事件を笑いながらも国の未来を心配――いや、これはあまりしてないか。

 毎日の楽しみはネトゲとラノベくらいだったっていう、いやはや、どーしよーもない人間だった。

 もちろんいいニュースだってあったさ。いくつも覚えている。別にペシミストってわけでもないからね。そういうの見てほっこりもしていた。

 でも――世の中を知れば知るほど“歪み”ってやつを意識せずにはいられなかった。

 それは人の心であり、行動であり、会話だった。

 特定の事柄について、無駄なことと分かりつつ改良せず票取り合戦に明け暮れる政治や、言ってることとやってることが正反対な政治家。

 複雑化しすぎた社会のあらゆるシステムと、それを維持しているのか、維持されているのか分からなくなった人間達の群れ。

 こいつらは一体何を考えているんだろうと、交差点で考える日々。

 たぶん何も考えていないんだろうなと考え、いや、何かしら考えていることは間違いないだろうと思い直す。

 そして――自分もそういう群れの中で生きている、生きなくちゃならないという、身震いするほどの嫌悪感。それもまた、歪み。俺自身の、ね。

 そういう、あらゆる歪みが嫌でしょうがなく、でも何とかするだけの力も行動力もない、あぁ、まったくどーしよーもない存在だったと自分でも思う。

 よくある話だとは思うけどね。

 

 そう、よくある話だ。世界中で魔王になっちゃう人がでるってことが、その証だと思う。世界中で同じように感じる人間が増えているってことなんだろう。実際誰もが大なり小なり、言葉で表せたり表せなかったりする『歪み』を感じているんじゃないのかね。分からんけど。そこは老若男女関係ないと思うね。

 ……ま、ともかくこの島では魔王になれた事を、皆が心から喜んでる。強大な力を有し、しかし普段、自らそれを行使することはあまりなく、まったりと毎日を過ごしている。

 それと――歪みの大きなこの世界では今も、魔王が生まれ続けている。

 

 

 木造建築の宿屋の軒先に出されたオープンテラスで、俺は手元の魔導書から目を離した。

 お気に入りのクッキーをかじる為だ。

 十枚で五クレム。

 一クレム=五十円位なので、大体二百五十円、ってところかな。あぁ、クレムってのはこの場所でしか通用しない通貨単位のことね。

 「うまー」

 コリコリとクッキーをかじり、こっちはサービスの紅茶を含む。

 どっかの魔王がどっかの異世界で摘んできた茶葉から作られた紅茶は、カモミールにオレンジを足したような、さっぱりした風味。

 「はふぅー」

 自伝を書くのも疲れるもんなのだ。なにしろ、正確には俺がペンを走らせているのではなく、俺の意思を読み取ったペンが勝手に文章を書いているから。

 つまり精神力を使うのだ。となれば適度な休憩は必須で、そこに好物のクッキーと紅茶が付いてくるのも必然。

 海から吹き上げる真夏の風は魔王たちの力――エントロピー制御の能力だ――によって過ごしやすい温度に替えられ、さらりと肌を撫でていく。

 本来はギラギラしているだろう日差しも、対物理障壁の膜で温度と照度を減らされ、まるで春先のようにのどかな陽光となる。

 ん?男が「はふぅー」とは言うなって?

 ……あー、言ってなかったか。

 魔王になると、|TS(トランスセクシャル)、つまり性別が変わる。

 男なら女に、女なら男に。比率は前者の方が上ね、もちろん。

 性別が変わると魔王になるのか、魔王になると性別が変わるのか。それは知らない。たぶん誰もだ。

 でもまあ、別にかまわない。俺達にとってそこは重要ではなく――力を得られたってことが重要でうれしいことだから。

 で、俺も魔王ってことはつまりTSしているってことで。あとは分かるな?

 はふぅーとか言っても問題ないの、たぶん。

 「続き、書こうかな……」

 自伝とか言いつつ、実際は『魔王とは何か』になってきてるけど、まあいいや。間違ってはいないだろうし。

 そもそもなんで自伝なんてものを書いているのかと言えば、答えは簡単。暇だったから。

 っていうか他にすることが無くて、ふと思いついたからやってみている。

 書き出してもう一月ほどになるかな。結構な量を魔導書に写してきたけど、これ結構楽しいかも。ハマった。

 時折そよ風のようにされた熱帯の空気が、俺の長い髪――腰くらいまである――をふわりとさらっていく。

 ……にしてもあいつ遅いな。もう待ち合わせ時間を十分過ぎてる。

 普段なら十分くらい別にいいけど、今はちょっと焦るというかなんというか。

 とぼやいてても仕方ない。もうちょっと書き足すとしよう。

 いざとなれば時間を少し戻そう。やった事ないけど多分できるんじゃないかな、うん。

 紅茶をもう一口だけ飲んで、俺は魔導書を開き直す。

 テーブルに転がったペンを睨むと、海鳥の羽で作ったペンがインク壺に頭を突っ込み、再び群青色のインクを浸して現れた。



 閑話休題。

 魔王の特徴と言えばいろいろあるね。

 例えば外見。

 角があるとか尻尾が生えてるとか、目や肌の色が違うとか。身長が高いってのもあるか。

 他には全身に紋様があったり、本気だすと目や髪の色が変わる、なんてものある。

 魔王に限った話じゃないけど。

 ともかくこれ、全部正解。

 だってそういう知識を持っていて、それを実現しちゃった人たちだから。

 ほかに追加で面白い事項がある。

 けどその前に一つ。

 いわゆる厨二病ってのは、主に日本に多い。

 なぜか。

 アニメや漫画の聖地だからだ。

 ちょっとでもそれらを紐解くと、あちらこちらに異能者や能力者、それこそ魔王だってごろごろしている。

 じゃあ世界規模ではどうかというと、日本ほど身近じゃない。

 彼らは神話や伝説の中の存在だ。

 美少女でも美少年でも、当然幼女でもなく、文字通りの怪物的な外見を持っている。

 触れたりお話にするどころか、語ることすらタブーってのも多い。

 『島』においてはこれもまた正解。

 あちこちに化け物じみた見た目の奴や、美少女がうろうろしている。

 まあどいつもこいつも拳で星をぶち抜けるぐらいの力を持っているけど。

 

 さて、面白い事項ってのはここからで、俺達魔王はこの『外見』で大体の出身地がわかる。

 ここでさっきの話が出てくるわけだけど、欧州における魔王ってのは基本的に怪物だ。

 厨二病をこじらせて魔王になったというからには当然、日本の娯楽文化-いわゆるジャパニメーションに全身はまり込んでいる人たちだ。

 魔王・魔女と言えば美少女だよね!と言っちゃうくらいに。

 にもかかわらず彼ら-欧州の人々は覚醒するとその外見は怪物的な見た目になる。

 身長が高く、肌の色が紫や緑や黒。牙や角やシッポが生え、四肢は筋肉ムキムキで丸太みたい。

 もしくは黒いマントとボサボサ髪に牙と、分かりやすく魔王、というか吸血鬼みたいなのもいるね。

 知識はジャパニメーションでも、精神の奥底の価値観は変わらなかったってことだろう、うん。

 あるいは全身タイツで、どこぞのコミックヒーローみたいな連中もいる。コウモリやクモみたいな男がいっぱいいる。

 ……あー、ちょうどこっち見てるお前ら。

 それどう見てもヒーローの恰好だよな?☆がたくさんプリントされてるし、派手だし。

 うん、当然こいつらはアメリカ出身。

 でも魔王というより全身タイツのダークヒーローだねありゃ。

 

 じゃあ文化発祥の地である日本人が魔王になるとどうなるか。

 答えは簡単、美少女・あるいは美幼女になる。

 どいつもこいつも漫画に出てくるような髪の色で瞳の色。

 萌え萌えボイスと衣装を完備し、もうぶっちゃけ聖地のコスプレ会場状態だ。

 価値観云々の話で言えば、そもそも日本に『魔王』的な存在はいない。

 八百万の神々、つまり『神』=『トップ』と言える存在が無数にいらっしゃるのだ。

 故に固定観念とか固定イメージってのがなく、最近流行の漫画的・アニメ的な存在がそのままイメージに直結している。特に俺達はね。

 だから魔王になっても怪物的な外見にはならないで、イメージ通りの美少女・美幼女にTSするって寸法。

 海外出身者にはこれがうらやましいらしく、日本出身の魔王は男女問わず結構愛でられる。

 海外勢にも美少女魔王はいないわけじゃないが、日本出身者ほどジャパニメーション的な外見にはなれない。

 あちらの感性で言う美少女だから、ちょっとイメージが違うんだ。

 え、愛でられるって何かって?

 えーと、具体的にはカップルになったり結婚したり。子供もいるって話まで聞いたことあるな。見たことないけど。

 ……ちぇ、リア充どもめ。爆発しちゃえ。

 

 そういえばこんな世の中嫌だ――、と言って魔王になった割には、魔王になってから充実した日々を送って人間に戻った、って話は聞かないね。

 戻りたくもないけど。

 あぁ、それから言うまでもないけど、そんな美少女・美幼女共も魔王。

 つまりは拳ひとつで星を以下略な存在ってこと。

 ん?オレ?当然美少女になっている。

 元は男。

 ある日急にこうなった。

 いや、なれた、か。

 おっと、幼女じゃないぞ、少女だ。大体高校生くらいの。

 胸バーン、腰キューっ、尻ドーン(ではないか)な感じの、アニメ体型に近い体。

 身長はそこそこだし童顔気味だからロリ巨乳に近いけど、元年齢が高いので全く問題なし。たぶん。

 魔王になった瞬間のことは……覚えていない。

 いつ、どんなタイミングでなったとか。

 まあ別に気にしてない。みんなそうみたいだし。

 ちなみに空の上で再開した友人は幼女になっていた。

 あのムサーっとした男が甲高いアニメ声で喋っているかと思うと時々寒気が走るが、ここでTS前の体について触れるのはご法度。

 RPGみたいにみんな今のキャラ、つまり魔王になりきっているわけだしね。

 

 

 「……おそい」

 再び魔導書から目を上げ、俺はあたりを見回した。

 昼食時に差し掛かった通りは人――じゃない、魔王が増え、肉や魚を調理する香りが漂っている。

 どっかの魔王がどっかの異世界で獲って来たバカでかい動物がバカでかい包丁で捌かれ、串に刺されてくるくる回っている。

 強い炭火で炙られてぽたぽたと肉汁が垂れ、白い煙がじぅじぅ上がっている。

 うぅ、おいしそう。

 っていうかあの包丁。

 よく見たら包丁じゃなくて大剣だ。それも伝説クラスって言えそうな。

 一撃で海を割り大地を裂けるレベルの剣でお肉を捌く魔王。

 バカか。

 「……」

 通りの反対側では食堂が開店。

 木の看板に『ウミネコ』という意味の英語飾り文字で書かれた店が木戸をあけ、看板娘が呼び込みを始めた。

 うん、あれも日本出身者だな。

 顔立ちがまずそうだし、アニメ声だしメイド服着てるし。

 言うまでもないけど彼女も魔王。

 例え最初の義務教育年齢に見えてもだ。

 外見ノットイコール実年齢だからね。

 幼女魔王の背後からは店に入り始めた客の喧騒と、スープやパンの香ばしい香りが漂ってくる。

 うー、おなかすいた。

 「……むぅ」

 目の前のクッキーに視線を落とす。

 好物のはずなのに、妙に味気なく見えてしまうのは仕方ないと思う。周りの香りが濃すぎるんだよ。

 待ち合わせの友人はくる気配がない。

 昼食を一緒に摂ろうというので、人気のレストランのすぐそばに建つここに居るわけだけど。

 席、埋まっちゃうよ。

 あの店のパエリアおいしいんだけどなー……。

 通りの先まで目を凝らしても、友人の姿はない。

 あとでほっぺた叩いてやる。覚悟しておくがいい。

 ……やれやれ仕方ない、じゃあもうちょっとだけ。

 冷めた紅茶を流し込み、羽ペンを睨む。

 

 

 次は俺達の住居、『島』について記そう。

 実は魔王たちが拠点とする島は地球上に三カ所ある。

 それぞれに正式な名前はもちろんあるけど、俺達はどれも、単に『島』と呼んでいる。

 対外的、ってゆーか大人達は『魔王の島』とかなんとか言ってる。

 もうちょっと捻ってみなよ、つまんないなぁ。

 最初に書いた通り、ここは何年か前に魔王たちと世界中の軍隊が戦った時に俺達魔王が前線基地として占拠した無人島だ。

 無人島なので当然文明とかはない。インフラもない。

 俺達は人間ではないので、食べ物を摂取しなければ死ぬってことはない。

 ないけど、人間だったころのサガで、何も食べないというのはつまらない。

 かといってこんな、海の真ん中にポツンと浮かぶ島――それも世界中の軍隊をあくびしながらぶっ飛ばした連中がわんさといるようなところにモノを届けに来る酔狂な連中なんているはずはない。

 じゃどーするのか。

 答えは簡単。自分で作る。

 俺達はそれぞれがセカイを作れるだけの力を持っている。

 それを使って様々なマテリアルを生産できるセカイを作り出し、そこで生産された食物や布、金属を持ち寄るんだ。

 ん、なんで食事や服をそのまま作らず、金属もわざわざ生産するのかって?

 それは味や質の問題。

 食事そのもの、例えばパンをいきなり作り出すことは出来るけど、味が悪いんだ。

 パサパサというか、なんというか。

 服も破れやすい安物だし、刃物は刃こぼれしやすい。

 つまり、出来上がった後の姿を作り出すと、質が著しく落ちる。

 たぶん作り出す過程をすっ飛ばしているせいだと思う。

 だから俺達は原材料を作り出すことにしているってわけ。

 

 で――そういう原材料を持ち寄っているといっても正確にはこの『島』に、じゃない。

 現実世界とはひとつ位相をずらした、別の世界の『島』。

 島の形状も小規模の街を作るのに適したものへ変えている。

 具体的には土地の起伏を少なくしたりとかだね。

 だからハタから見ると、俺たちが集っているのは緑と動植物溢れる、ただの島。

 大きさは――そう、日本で言えば東京を中心とした三県分くらいかね。そうデカくないと思う。

 その位相を異にするところが本当の俺達の拠点で、今俺が座っている店があるところ。

 現実世界なら大きな滝の上だったかな、確か。

 自然一杯な島の原生林を切り開き、通りを整備し、中心部には一応の城も構えている。

 もっとも住んでいるほぼ全員が自分だけのセカイに拠点を構えていることは言うまでもない。

 ……おっと、言ってなかったか。

 今この島にいる魔王は全部で五百人。

 世界レベルで言うと、三ヶ所の島にはそれぞれ三百から千人ずつくらいいるから…………全部でざっと二千ちょっとかな。

 ね、めずらしくもない。……でしょ?きっと。

 一般人じゃなくて本来は特別な存在、魔王なんだから。

 全体の比率で言えば元・日本人が六割程。

 次に欧州や欧米が多く、アフリカ大陸から来た連中はほとんどいない。

 ジャパニメーションがあまり浸透してないからな、うん。

 俺のいる島では欧州出身者の方が多いと思う。

 さっきも書いたけど総人口は大体五百人。

 さらに、基本的にはその五百人がそれぞれ自分だけの世界と拠点を持っているわけだけど、全員が集まれる場所というのは何かと必要になる。

 だからこの島を「0(ゼロ)」地点(ポイント)とし、ここに大きな城を用意してある。

 大きな会合やパーティーみたいなのがあるときは、世界中の魔王はみんなここに集まる。

 ヴァルプルギスのお祭り的な感じ。

 

 俺?俺は自分の城は持ってない。

 なぜかって?

 答えは簡単、めんどくさいから。

 基本的に、ってのはそういうことで、めんどくさがりや、別に自分の城なんていらねーよって連中は城や世界を持たず、この「0」地点の城に部屋を作って暮らしている。

 ちょっとした集合住宅みたいなものだ。

 といっても魔王たちがそれぞれの力を以って作り上げたから外見以上にバカでかくバカ広い。

 地図持たずに入ったら迷う。確実に。

 あ、これ経験談ね。

 そうして改造された部屋はとんでもなく豪華だったりとんでもなくアニメ趣味だったりする。

 あぁ、ちなみに俺も一応部屋は持ってるけど、基本的には宿暮らし。

 こういうのやってみたかったんだよねー。

 整備された島の石敷きストリートには木造で中世っぽい街並みの家々が立ち並び、宿屋や商店が店を開いている。

 運営しているのも、もちろん魔王。

 え、魔王が商売するのはおかしいって?

 いやいやそんなことはない。

 だってそういうのが好きなヤツっていっぱいいるじゃないか。

 自由度の高いRPGだと大体は鍛冶屋とか商人とか、生産系選ぶよ、って人。

 強大な力を持っているからと言ってそれを意識させるようにふるまうのが正しいってことはない。

 要は好きに生きていればいいんだ。

 魔王だからって、皆が世界征服を考えていなくたっていいってこと。

 だからあぁやって食べ物売ってる魔王もいるし、レストランや宿を経営している魔王もいる。

 ミュージシャンもいれば剣士みたいなのもいる。

 鍛冶師や武器屋、防具屋なんていうどう見てもRPGだろそれって店もあるし、服の仕立て屋だってある。

 変わったのだと質屋もあるな。

 商売する気ないと思うけど。

 だって全部自分で作り出せる魔王が質屋に行くか普通。

 ないない。

 ちなみに俺が着ているこの服も、そういう店の一つで買ったものだ。

 どういう素材でできているのかは知らないけど、肌触りがいいので結構気に入っている。

 デザインはもちろんだけど、肌触りはほんとに重要だと知った。

 ドラゴン革とかって固いわ匂うわであまり着たくない物なんだよ、知ってた?

 ん、ドラゴンいるのかって?そりゃ魔王が作ったセカイになら、ドラゴンくらいいるに決まってるじゃない。

 何度か戦ったけど結構強かったよ。

 

 え、俺の仕事?あー、言ってなかったか。

 俺の仕事ってのは、あー、雑用に近い……かな。

 いや、かなりの重要職に就いているのは確かなんだけど。

 半年前からね。

 ただその重要職は何かコトが起こった時が最も必要とされる。

 だから普段、つまり平和なときは仕事がほとんどない。

 そういう意味では今、特段何もしていないってことになるね。

 ま、詳しくは後々書いて行こうと思う。

 そんなわけで、俺は時々自分のセカイを作って金塊を発掘し、それを換金して金を作り、好きなように生きることにしている。

 たまにバイトで商店や宿の手伝いや、どっかの魔王のセカイに呼ばれて冒険者したり、魔王的なことをやったりもして過ごしている。

 特に俺の作る金塊は質がいいと、島でも上々の評判。

 流通しているクレムが劣化とか紛失とかで少なくなると、たまに金補充の依頼が来たりもする。

 そんなこんなで、別に島に引きこもっているわけじゃないのだから、毎日が実に充実している。

 そもそも人間が働くのは生きるため。

 あるいは欲しい物を手に入れるため。

 極論すればそれは食うためだ。

 そのために仕事をして金を稼ぐわけだけど、俺達はそれを自分だけでこなす事が出来る。

 イコール、無理に働かなくてもいいってこと。

 だから好きなように生きていけるのだ。

 ちなみに――俺は得た金の一部を両親に送っている。TSして魔王になったとはいえ、親はいる。

 人間嫌いだった俺でも、両親だけは尊敬し、愛していたからね。

 育ててくれた恩もあるし感謝もしている。そのささやかなお礼、いや、自己満足かな。

 受け取ってくれているかはわからん。

 これもまた偽善と言えば偽善だけど、俺としてはけじめだと思っているから問題なかろう、うん。

 そういえばここ最近手紙ばかりで直接会ってないなぁ。たまには顔出すかな、気付いてもらえるか分からんけど。

 魔王になってからは遠目に一度しか会ってないんだ。

 ……その、ちょっと会いづらくてね。察してくれ。

 

 そんなわけで――いやどんなわけだ?――俺が選び着ているのはヒラリとした純白のサマードレス。

 膝上丈なので、ワンポイントにレッグスカーフを巻いた足を最大限魅せられる。

 肩から二の腕、胸元の上までが素肌をさらし、割と大きいんじゃないかっていう胸のふくらみを包む布から延びる紐が首回りでクロスされている。

 紐につけられた小さなネコの意匠のペンダントがお気に入り。

 さらに胸元の布は膨らみの下左右で分かれ、これも白い紐で互いをつなぎ合っている。

 谷間くっきり。わおぅー!

 だってほら、せっかく女の子の体なんだし。

 オシャレは大事だ。

 最初のころは無駄にそっち方向に力を注ぐ魔王に着せ替え人形にされたこともあったなぁ。

 ちなみにそいつ、欧州出身者で、俺の姿が気に入っているらしい。

 今も茶飲み友達だ。

 TS前は気にしなかった身だしなみや肌の手入れってやつも体験できて、いやー新鮮。

 

 

 ――カリカリ、カリカリカリ。

 羽ペンがそこまで書いたところで、俺の視界の端で手を振り回す奴が目に入った。

 「おーい!」

 「……む」

 来た。ようやく、来た。バカ友人。

 フリフリヒラヒラのゴスロリ服を着た幼女が走り寄ってくる。

 恥ずかしいから大声で叫ぶなと言うに。

 「ごめんごめん、待った?」

 「……今来たところ、なんて返すと思うか?」

 息を荒げて俺に寄ってきた幼女が、額に一筋汗を浮かべて、健気にお決まりの文句を発する。

 なんで汗かって?あぁ、それは俺の視線に込められた殺気のせいだろう。

 決して暑さのせいじゃない。

 ぎろ~り。

 何分の遅刻だと思ってるこんにゃろは。

 「だ、ダメだなぁ!女の子がそんな目つきでそんな言葉使いじゃ!ほらほら、スマイルスマァーイル!」

 キラッ☆。

 どっかの超時空歌姫みたいなポーズで、ゴスロリ幼女が星をバラまく。

 「……」

 イラッ☆。

 ぱちん。

 

 キュゴッ!!!

 

 突如空間に現れた黒い塊が、ゴス幼女の姿をかき消した。

 前者は俺が指ぱっちんした音で、後者はゴス幼女が異空間に飲み込まれた音。

 ちなみにヤツを放り込んだ異空間は当然、俺が生み出したもので、内部では質量をそのままエネルギーに変えて爆破するという荒業が行われた。

 一円玉一枚が持つ質量、つまり一グラムをエネルギー変換するとどのくらいか知ってるかな。

 相対性理論で言う式、E=mc^2に当てはめると、あの原子力爆弾の爆発に匹敵する。

 これを指ぱっちんだけでできるのが、俺達魔王ってわけ。

 我ながらびっくり。

 なお変換したのはゴス幼女の衣装の袖口にある、第一ボタン。

 大体二グラムとちょっと。爆弾二つ分。

 

 で、放り込まれたそのゴス幼女はというと。

 しばらくの沈黙の後、

 「……死ぬかと思った」

 さっきより必死な顔でぜいぜいと息を荒げながら、消えた時と同じように唐突に通りに現れた。

 「……もしかして怒ってるね?」

 「証明が必要?」

 「もう結構」

 ちぇ、残念。あと二~三回やりたかったのに。

 掲げていた指を下ろす。

 ……という訳で、原子力爆弾クラスの爆発を閉鎖空間内で喰らっても平然と生きて帰るのもまた、魔王。

 外見で判断しちゃいけないよってこと。

 実際現れた友人はちょこっと頬がすすけている程度で、服も破れていない。

 手加減しすぎたかな。

 「そっちがあの人気店で食事したいって言うから待ってたのに。もう魔王で一杯だよ、ほら」

 わいわいがやがや。

 俺がつと指差した先にある店は、すでに魔王の行列が出来ていた。

 人々じゃないぞ、魔王だ。

 「どーすんの、あれ」

 「いやもうほんとごめん。でもほら、一応こういうものがあるから」

 ピラっとポケットから出されたのは、二枚の紙切れ。

 「?」

 何か文字が書いてあるので読んでみると、

 「特別割引+優先ご案内券?」

 「そそ」

 ゴス幼女が無い胸をはる。

 「あの店の店長とは昔からネトゲナカーマでね。魔王になってからも付き合いがあったんだけど、あっちはほら、見ての通り人気店のオーナーになっちゃったでしょ?で、聖地巡礼とかできなくなったからよく買い物を頼まれるんだけど。あ、聖地ってのはもちろんアキバで、買い物ってのはフィギュアとかプラモとかサントラとか、薄い本で……」

 「三十字で」

 こちとらおなか減ってしょうがないんだ。

 「……つまり、買い物代行の報酬」

 ぴぴぴぴ。

 俺達の間に光る文字が浮かび上がる。

 カウントしてみると指定の半分の文字数で説明してくれた。

 やればできるじゃん。

 「なるほど」

 「だからまあ、待たなくても入れると思う。これで許して」

 「……仕方ない」

 「じゃ早速行こう」

 魔導書を閉じ、手のひらでパンと叩くと、分厚い本がかき消える。

 収納用空間に転送したのだ。

 便利だろうあっはっは。

 紅茶のソーサーと、空になったクッキーのお皿を手に、店のカウンターへ。

 「ごちそーさま、おいしかったよー」

 「おう、ありがとよ。また来てくれぃ」

 「了解、おやっさん」

 落ち着いた雰囲気の喫茶店を経営している割には無駄に筋肉ムキムキな欧州出身の魔王が、土方さんみたいな笑みを浮かべる。

 ほっとくと頭と獣耳を撫でられるので、手を振りながらさっさと退店。

 斜向かいの、例の人気レストランへと足を向ける。

 「……そういえばさっき何か書いてたの」

 ゴス幼女がチケットを手に、俺を覗き込む。身長差があるから必然的に上目づかい。

 中身を知っていなければぐっとくるね。

 「自伝をね、少し」

 「ほう、自伝とな」

 興味深そうな顔をされる。

 「よければ読ませてくれまいか?」

 「いいけど、まだ途中」

 「かまわんよ」

 ふむ。

 「……でも、先にご飯にしよう?おなかペコペコだよ」

 「魔王なのに?」

 さっき自伝にも書いたけど、魔王は別に食事をとらなくても生きていける。

 空腹も感じない。

 けど、人によっては――じゃない、魔王によってはおなかすいたというのを感じるのもいる。

 俺みたいに。

 幻肢みたいなものだと思う。ないはずの腕が痛くなったりしてしまう、アレ。

 感じないはずの空腹を意識してしまうってことだから。

 「……いいじゃん。そういう魔王がいたってさ」

 「そりゃまあ、そうだねー。って、わひゃ」

 ぶわーっ。

 急に海風が強く吹いた。

 温度はともかく、風の強さまでは、俺達は弄っていない。

 つまり時たまこういう突風めいた風も来るんだけど……。

 「ふふん」

 サマードレスの裾を押さえ、ガード。見せてやらないもん。

 「……ぁ」

 突風が収まった後、隣のゴス幼女が呆然とした声を上げた。

 「?……あ」

 ない。

 その手にあったはずの、優待券が、ない。

 さっと振り向くと、二枚の青い券が、風に乗って蒼穹を舞っていた。

 「うわぁぁぁっ!」

 幼女が叫び声をあげて、飛翔。

 優待券目がけて突撃していく。

 その身一つで空をも飛べる魔王だが、人によって得手不得手がある。

 残念ながらゴス幼女は後者。

 「ま、まて!待って―!こらー!」

 ふらふら、ひらひらと舞う紙切れに遊ばれてる。

 「わーん!」

 上空から聞こえる必死の叫び声に、思わずこめかみを押さえる。

 このままだと本当にお昼抜きになりそう。

 仕方ない、少し手伝おう。

 あぁ、おなかすいた……。

 

 

 ――その日の夜。

 昼間、空を飛んだり二回(・・)ほど異空間で質量変換をする羽目になったものの、おおむねつつがなく一日を過ごした俺は、宿のベッドにもぐりこむ前に例の魔導書を呼び出す。

 風呂上りで火照った体を、少し冷ますためだ。

 ちょっとだけ、自伝を書き加えようと思う。

 ネグリジェの裾を押さえてベッドサイドに座り、羽ペンとインク壺も呼び出してサイドテーブルに置く。

 ランプの明かりが揺れ、小物たちの影を大きく伸ばした。

 きゅぽっ。

 小さな音を立ててインク壺を開け、魔導書を開いて羽ペンを睨む――。

 

 

 さて、今日は最後に俺たちの仕事ってやつにちょっと付け足しておこう。

 さっき言ったように、島で商売するか、自分のセカイで好きなように生きているか。

 俺達の暮らしはおおむねこの二つに分けられる。

 ただ例外もある。

 核には核と同じように、魔王には魔王。

 俺達の仕事の選択肢として、各国に軍人として召し抱えられるってのもある。

 ん?そういう大人のパワーバランスが嫌でこうなったんじゃないかって?

 ああ、それはそのとおり。

 ただそれは自分が無力だった時の話。

 魔王となった今、つまり常人では理解できないレベルの力を持つ今となっては、パワーバランスや小手先の交渉や利益なんて何の意味もない。

 『俺が世界(全て)

 ってこと。

 それに軍人と言っても、俺達同士は絶対戦わない。

 なぜかって?答えは簡単、俺達が本気でぶつかれば地球が消し飛ぶじゃすまないから。

 次元が歪み、下手すればこのセカイそのものが消える。

 だから現実世界に置いては抑止力以外の意味はなく、もう食っちゃねしているだけだ。

 文句言うやつ?そら一杯いるだろう。

 けど何もできやしない。

 逆らえば何されるか分からないからな。

 同じ魔王同士ならどうとでもできるけど、一般人に抵抗するすべなどない。

 嫌悪と、怖れと畏れを視線に込めるくらいが関の山。

 俺達を飼いならし駒にしようってのも無理。

 そもそもそういうのに興味ない連中が魔王になってるんだから。

 懐柔されて誰かに命令されるなんてまっぴらごめんだ。

 どっちかと言えばそういう連中、世界に蔓延る歪み――詭弁と偽善をまき散らす連中だ――を消し去ることが多いね。

 延々と続く無駄な争いを力ずくて消滅させたこともある。

 戦い続ける軍隊を、どっちも吹き飛ばしてやった。

 だって魔王だし。

 俺達に敵意や恐れが向けば、それだけ人間社会は団結し、争いを収める。

 共通の敵が出来ればどうこうってやつかな。

 

 ところで、今現実世界でと断ったのにはわけがある。

 そもそもなぜ俺たち魔王がそんなとんでもない力を持つと分かるのか。

 地球をぶっ壊せるとなぜ分かるのか。

 もちろん実際にやったわけじゃない。

 俺達は魔王。

 幻想空間を作って、その中に仮想の地球を作ることくらいはできる。

 そこで試したんだ、自分の力を。

 幻想空間ならすでに二千回以上、地球は粉々に砕けセカイは消滅している。

 そうやって自分の力を試してきたからこそ、そしてその幻想空間にいけ好かない大人たちを引きずり込んで光景を見せたからこそ、彼らは俺達に逆らえないってわけ。

 |俺≪少女≫が地球をかち割った時の、議員どものあの呆然とした顔、いやー最高だったね。

 気分が晴れ晴れとした。

 外見は金髪オッドアイの美少女が、手に巨大な光の槍を生み出して空中から投擲。

 そいつが突き刺さると同時に宇宙空間に転移して地球を俯瞰すると、青い惑星を光が縦に裂き、次の瞬間ズリッとずれて大爆発。

 後に残ったのは無数の星の欠片と俺の高笑いだけだった。

 

 って、あれ?まだ言ってなかったっけ。

 俺の姿はもちろん女の子。

 童顔気味ではあるけれど一応十七~八歳くらいで、腰くらいまでの金髪に、青と緑のオッドアイ。

 スタイルもいい方だと自負している。たゆん。

 それと、特徴的なのが頭の上で揺れる一対の二等辺三角形とお尻の上から生えたもふもふ。

 ありていに言うと、獣耳とシッポ。

 そう、俺は自他ともに認めるケモナーさんなのだ。

 ネトゲでも、実装されていればこの二つのアイテムを外したことはない。

 キャラクターでそう言うのがいれば、まずそのキャラから育てる。

 もふっとした耳、シッポ。

 あぁぁ、かわいい!

 ちなみに俺の耳はネコではなくオオカミのそれに近い。

 瞳も縦長で、犬歯も長め。

 シッポも然り。金色のもふもふで、俺の思い通りに動く。

 魔王になった直後はこれを抱き枕に寝たほどだ。今でもときどきそうするけど。

 ところで、実はこのケモナーさんってのが、欧州や欧米出身者からは最も愛でられやすい外見。

 なんでかって?だってあちらの人がケモナーさんになると、『女の子に獣耳』ではなく、『人型の獣が女の子の恰好をしている』、になるから。

 いわゆる獣人さんってやつ。

 変身後の狼男(ウェアウルフ)とかを想像してもらえればいい。

 それはそれでかわいい、っていうかかっこいいんだけど、本人たちが目指しているのは日本のアニメ型。

 つまり俺みたいな外見。

 ただほら、精神の価値観っていうか、根本的なイメージの違いって言うかが邪魔して、なかなかあちらの人たちはモンスター型から抜け出せない。

 ご愁傷様。

 

 

 そこまで書くと眠気が来たので、ちょっと中途半端だけど、俺はペンを置く。

 そして一度自伝を最初から読み直してみた。

 「……あれ?」

 自伝というからにはどこかに名前を入れておくのが然りだと思う。

 ところが、

 「……書いてない。名前」

 しまった、どうしよう。

 仕方がない。最後に入れようか。

 

 

 ――カリ、カリカリ……。

 書き忘れていた。

 俺の、いや、私の名前は。

 “アーリヤヴナ=ケモノミミスキー”

 みんなからはアーリャ”と呼ばれている――。

 

 

 魔導書を閉じ、明かりを消してベッドに潜り込もうとして、ふと思い直す。

 最後にもう一つ、書いておこう。

 

 

 ――要、改定(付け足し)!――

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