接触
ヒサナとキーラは、王都に滞在していた。
ヒサナの家へ帰るための準備。それだけの、短い滞在だ。
「・・・人、多い」
ヒサナは白銀の髪を揺らし、歩幅を小さくする。
暑さそのものは、平気だった。夏大陸で育った彼女にとって、この程度の気温はむしろ楽だ。
「暑い・・・」
一方で、キーラは露骨に顔をしかめている。
「キーラ・・・?」
ヒサナは少し考え、指先をそっと動かした。
ほんのわずか。意識を集中しすぎないよう、慎重に。空気中の水分が集まり、二人の周囲に、ひんやりとした風が生まれる。
「・・・はぁ・・・助かる」
キーラは正直だった。
「ヒサナの魔法、ほんと便利!」
「・・・あんまり、強くできないけど・・・」
水魔法は、昔から慣れている。
その時──
「失礼」
穏やかな声が、背後からかけられた。
振り返ると、整った身なりの男が立っている。
「私はグリード。国王直属の宮廷魔法使いです。」
丁寧な一礼。
キーラは、反射的に笑った。
「あ、どうも。ボク、キーラです」
人当たりのいい声。警戒心は見せない。
ヒサナも、少し遅れて頭を下げる。
「ヒサナです・・・」
グリードの視線が、ほんの一瞬だけ、ヒサナの指先に留まった。
「冬大陸の核を安定させたと噂で聞きましたが、貴方達でしたか。まだ王都に滞在する予定ですか?」
「はい・・・船の手続きがあるので・・・」
「この時期は暑いですから歩くよりは船の方が良いですね」
ヒサナは首を縦に振る。
「夏大陸よりは・・・暑くないですけど・・・」
「ボクは無理だけど」
キーラが肩をすくめる。
ヒサナはまた、指先をわずかに動かした。冷たい風が戻る。
グリードは、その様子を静かに見ていた。
評価するでもなく、否定するでもなく。
ただ、見ている。
キーラは、その視線を横目で捉える。
胸の奥に、小さな引っかかりが生まれた。
怖くはない。脅威とも思わない。ただ、ヒサナを観察対象として見ている。
キーラは、自然に一歩、前に出た。ヒサナの前に立つ形。
「そろそろ行こ、ヒサナ」
「あ・・・うん・・・」
ヒサナは何も疑わず頷く。
グリードは、それ以上引き留めなかった。
「では、また機会があれば」
丁寧な一礼。善意だけの別れ。
歩き出してから、ヒサナが小さく言った。
「・・・いい人・・・だったね」
キーラは即答する。
「うん。悪い人じゃないと思う」
軽い調子で付け足した。
「でも、ヒサナの魔法・・・あんまり人前で使わない方が良いよ」
「え?」
「・・・目立つから」
それだけの理由。
それ以上は言わない。
ヒサナは少し考えて、静かに頷いた。
「わかった・・・キーラが言うなら・・・」
キーラは歩きながら、周囲を見渡す。
(もし何かあっても、近づいてきたら、どうにかなる距離だ)
拳でどうにかする、それだけで十分だった。
遠ざかる二人の背中を見送りながら、グリードは一度だけ、足を止めた。
(・・・興味深いな)
だがその興味が、やがて後戻りできないものになることを、誰も知らない。
本編に登場するキャラクター
ヒサナ、キーラ、アマミ、エリスは
「キャラクターデザイン鳴海月花」の表記があれば創作、商用利用可能です。




