宮廷魔法使いグリード
──八月の中央大陸、王都にて
中央大陸の八月は、夏大陸とよく似ている。
強い日差し。
乾いた風。
石畳から立ちのぼる熱気。
四季が混在すると言われるこの大陸も、この時期ばかりは完全に夏の顔をしていた。
──もっとも。
十二月になれば、
同じ街が冬大陸と見まがうほど凍てつくことを、この国に住む者は皆、知っている。
だから中央大陸は「均衡の地」と呼ばれる。
王都の城壁の内側。
高い窓のある一室で、グリードは書類に目を通していた。
国王直属、宮廷魔法使い。
彼の仕事は、王のもとに集まる異変を精査し、危険か管理可能かを判断することだ。
今、彼の前にあるのは、冬大陸に関する報告書だった。
冬大陸・魔力核
状況:安定
要因:巫女の血を引く娘・ヒサナによる魔力供給
備考:夏大陸出身
現在、中央大陸に滞在中
「・・・巫女、か」
グリードは、小さく呟いた。
巫女という存在は、どの大陸にも伝承として残っている。
核に魔力を与え、大陸の循環を支える存在。だがその実態は、驚くほど曖昧だ。
儀式の詳細も、関わった後に何が起きるのかも、記録は断片的で、決定的な記述がない。
(・・・意図的に残していないな)
報告書を読み進めながら、グリードはそう判断した。
書かれているのは結果だけ。冬大陸の魔力循環は回復した。
異変は収束した。それ以上の説明はない。
そして何より、ヒサナ本人についての扱いが妙だった。王都に滞在しているにも関わらず、厳重な管理下に置かれている様子はない。
英雄として公に称えられてもいない。
危険人物として隔離もされていない。
まるで──
どう扱えばいいのか、決めかねているような。
「・・・王は、慎重だな」
それとも、慎重にならざるを得ない理由があるのか。
グリードは、行動記録に目を移す。
そこには、何度も同じ名が現れていた。
冬大陸の領主の娘。キーラ。
魔力は乏しいが、異様な怪力を持つ少女。
ヒサナは、常にその少女と行動を共にしている。
護衛とも、監視役とも言い難い。だが、切り離されていない。
《ヒサナは、単独行動を避ける傾向あり》
《精神的安定は、同行者の存在に強く依存》
グリードは、静かに頷いた。
(・・・環境、か)
巫女の血を引く少女が、核に魔力を与え、なお安定して行動できている理由。
それは力の問題ではなく、人としての支えなのかもしれない。
そう考えれば、すべては一応、筋が通る。
「・・・会ってみたいな」
グリードは、何気ない調子で呟いた。
それは、研究者の興味。少なくとも、彼自身はそう思っている。
だが、この八月の熱を帯びた王都で芽生えた関心は、やがて冬のように冷たく、逃げ場のない執着へと変わっていく。
その時、彼はまだ知らない。
この国が伏せたのは、危険ではなく、語れない真実だったということを。
本編に登場するキャラクター
ヒサナ、キーラ、アマミ、エリスは
「キャラクターデザイン鳴海月花」の表記があれば創作、商用利用可能です。




