国王の思い
王宮の謁見の間は、静まり返っていた。
赤い絨毯の中央に立つアメリアは、背筋を伸ばしている。
その姿は、かつて「国王直属の魔法使い」と呼ばれていた頃と変わらない。
だが、その肩からはすでに、王家の徽章が外されていた。
王は、玉座から彼女を見下ろし、静かに告げる。
「アメリア」
その呼び方に、彼女の指先がわずかに震えた。
「そなたは、王命により禁忌に触れた者を止める立場にありながら、結果として、その行動を補佐した。よって国王直属魔法使いの地位を、ここに剥奪する」
はっきりとした宣告だった。
アメリアは、目を伏せる。覚悟はしていた。
それでも、胸の奥に小さな穴が空く。
ここが、彼女の世界のすべてだったのだから。
だが、王の言葉は続いた。
「しかし、そなたを拘束することはしない。処刑も、幽閉も、命じない」
場が、わずかにざわめく。
王は、重臣たちを制するように手を上げ、アメリアをまっすぐ見た。
「そなたの罪は、悪意ではなく、依存と未熟さにある。幼くして選ばれ、選択肢を持たぬまま生きてきた。それは、王の責でもある」
アメリアの目が、見開かれる。
「ゆえに、罰はこれとする」
王は、はっきりと言った。
「自由を与える。王宮を去れ。肩書も、義務も、命令もない」
「世界を見よ。その上で、戻るか否かを選べ」
それは、追放であり、同時に赦しだった。
アメリアは、その場に膝をついた。
「ありがとうございます、陛下」
その声は、忠誠ではない。
初めて、何者でもない一人の人間としての言葉だった。
◇◇◇
謁見が終わり、誰もいなくなった謁見の間。
王は、深く腰を下ろし、ゆっくりと息を吐いた。
「・・・これで、二人だな」
グリード。そして、アメリア。
宮廷魔法使いが、二人もいなくなった。
国家にとって、それは痛手だ。
表向きには認められなくとも、事実として。
(だが──)
王は、目を閉じる。
グリードは、越えてはならない一線を踏み越えた。あれを戻す選択肢は、最初からなかった。
問題は、アメリアだ。
(外を見て・・・それでも、ここを選ぶなら)
それは、命じられた忠誠ではない。
自ら選んだ忠誠になる。王は、誰にも聞こえぬよう、小さく呟いた。
「戻ってきてくれたら、嬉しいがな」
宮廷魔法使いが二人も欠けたままでは、国は少し、心細い。
だが、それ以上に。
(今度こそ、自分の意思で生きてほしい)
それが、王としてではなく、一人の大人としての、偽らざる本音だった。
王は背筋を伸ばし、再び王の顔に戻る。
選ぶのは、彼女だ。
戻るもよし。戻らぬもよし。
それでも王は、心のどこかで願っていた。
赤髪の魔法使いアメリアが、いつか笑ってこの国へ戻ってくる日を。
本編に登場するキャラクター
ヒサナ、キーラ、アマミ、エリスは
「キャラクターデザイン鳴海月花」の表記があれば創作、商用利用可能です。




