告白
南行きの船は、白い帆を張り、ゆっくりと準備を整えている。
潮の匂いは濃く、陽射しは強い。
ヒサナは桟橋の先で立ち止まり、振り返った。
少し離れた場所に、アマミとエリスが並んで立っている。
アマミは腕を組み、いつも通り静かな表情。
エリスは手を振りながら、にこにこと笑っていた。
「行くよ、ヒサナ」
キーラが声をかける。
その声は、どこか固かった。
船に乗り込む前。
人の流れから少し外れたところで、キーラは足を止めた。
「・・・ねえ」
ヒサナが首を傾げる。
「なに?」
キーラは、拳を握ったり開いたりしてから、言った。
「魔力遮断区画で・・・あの時。ヒサナ、泣いてたよね」
ヒサナの肩が、わずかに揺れる。
「・・・うん」
「どうして?」
沈黙。
波の音だけが、間を埋める。
「・・・グリードに」
ヒサナは視線を落とした。
「キス、された」
キーラの動きが止まる。
「・・・嫌だった」
ヒサナは小さく、でもはっきり言った。
「・・・すごく」
次の瞬間。
「──っ、ふざけんな!!」
キーラの声が、港に響いた。
ヒサナが驚いて目を見開く。
声が震えている。
怒りだけじゃない。
悔しさと、守れなかった後悔。
拳を強く握りしめ、歯を食いしばる。
「ボクが・・・ボクが、絶対守るって、決めてたのに・・・!」
ヒサナは、ぽかんとしたまま、キーラを見つめていた。
「キーラ?」
名前を呼ぶと、
キーラははっとして、顔を背ける。
「・・・ごめん。怒鳴るつもりじゃ・・・」
深く息を吸って、吐いて。
それから、ヒサナをまっすぐ見た。
「ヒサナのことが、好きなんだ」
一切の誤魔化しもない声。
「だから、傷つけられるの、耐えられない」
ヒサナは瞬きをして、少し考えた。
「よく、わかんないけど」
困ったように笑う。
「でも、キーラが怒ってくれるのは・・・ちょっと、嬉しい」
キーラは、思わず目を伏せた。
――ああ。
この人は、まだ気づいていない。
◇◇◇
少し離れた場所。
「青春だねぇ」
エリスが、楽しそうに言った。
「ですね」
アマミは微笑む。
「感情が追いつくまで、少し時間がかかりそうですが」
エリスは肩をすくめた。
「でもさ、ああいうの、嫌いじゃないよ」
二人の視線の先で、ヒサナとキーラは、まだ少しぎこちなく並んでいる。
夏大陸へ向かう船が、汽笛を鳴らした。
それぞれの想いを乗せて。
本編に登場するキャラクター
ヒサナ、キーラ、アマミ、エリスは
「キャラクターデザイン鳴海月花」の表記があれば創作、商用利用可能です。




