冬大陸の巫女
ヒサナとキーラは村長の家に呼ばれた。
部屋の空気が少し引き締まる。
「ヒサナ、アンタの母親は冬大陸の守り手の巫女だった」
「・・・え?」
「冬大陸の魔力の核を安定させ、魔物の氾濫を抑える為に生きた。でも、恋をした彼女は大陸を離れ、守り手がいなくなった。
今、冬大陸では魔力が枯れつつある。魔力を持つ子供も産まれない。核が弱まり、魔物は増える。ヒサナには巫女を継いで貰いたい。どうやらアンタは膨大な魔力を持っているみたいだしね」
ヒサナの呼吸が乱れる。不安が押し寄せ、胸が締め付けられる。
その時、そっとキーラは冷たいヒサナの手を握る。
「嫌なら、断っていいよ。急に言われても戸惑うよね。ヒサナが 巫女の娘だとは思わなかったけど・・・。魔物は今まで通りボクが倒せば良いし、ヒサナはお母さんの故郷を見たかっただけだもんね」
キーラとヒサナを見つめ、村長は声をかける。
「ヒサナよ、そう重く考えなくて良い。核に魔力を貯めてくれれば良いだけだ。魔力がなくなりそうになったら補充する。ただそれだけだ。本当はエリスさえ居てくれれば良かったが」
「・・・私が10歳の時、母は亡くなりました」
「・・・・・」
しんと部屋は静まり返っている。キーラに握られている手が、ドクドクと脈打っているのがわかる。
結婚してからも母は何度か冬大陸に帰って来ていたはずだ。
でも、あんなに元気だった母が急死したのは、魔力の核に力を吸われたせいでは?父は風邪を拗らせて亡くなったと言っていたが。
「・・・っ、ヒサナ」
心配そうにキーラがヒサナを呼ぶ。
ふと、ヒサナは思い出した。
「キーラ、冬大陸の人はいつから魔力がないの?確か焚き火した時にそんなに魔法使えないって言ってたよね」
初めて酔ったヒサナを見た時の事だろうとキーラは思い立つ。
あのとき、魔力が殆どない為、火を起こす魔法くらいしか使えず、いつもは魔法の代わりに岩をも砕ける程の怪力で魔物を倒して生活していると伝えていたのだ。
「ボクが産まれた頃は魔力の少ない子が殆どだったよ・・・。今では魔力持ちの方が珍しいくらい。まあ、ボクみたいな怪力女も珍しいけどね」
キーラは村長に向き直り言葉を続けた。
「突然のことでヒサナも混乱してるみたいだし、時間をくれないかな?魔力の核を安定させるのに巫女の魔力が必要って事はわかるけどさ」
「そうだね。性急だった。すまないねヒサナ。考えがまとまったらまた訪ねて来てくれ」
キーラはヒサナの手を握ったまま立ちあがり、村長の家を後にした。
ヒサナは頭ひとつ分小さいキーラの背中を見ていた。
(怖い。私も巫女として、いずれ死んでしまうの?でも、キーラと村の人たちが困る事になる。魔物を実際に見たことないけれど、お父さんが、魔物は魔力があっても攻撃魔法が使えないと怪我をするだけだから、魔法を使えるようになりなさいって言ってた。
それだけ危険て事だよね?この冬大陸への旅だって引きこもりの私を案じてお父さんが提案した事。お母さんの故郷、知らない人や知らない土地で勉強して来なさいって。私が巫女の血を引いているのを分かってて、きっとこうなる事を予測してたのかも)
ヒサナが立ち止まると、キーラが振り向いた。
「ヒサナ、どうしたの?」
「キーラ、冬大陸の魔力の核がある所に連れて行って」
一雫の涙が、頬を伝う。
「ヒサナ、嫌なら無理しなくて良いよ。怖いんでしよ?」
「怖いよ、私もお母さんみたいに死んじゃうかもしれない。でも、このままだと、魔物が冬大陸に溢れてキーラが戦わなくちゃいけなくなる。私の魔力でキーラを助けられるなら、それが良い。」
キーラは決心したヒサナを見つめ、村長が命に関わる事は無いと言っていたが、ヒサナがあまりにも怖がる為、何かあるのではないかと思った。
「ボクがヒサナを守るから、一緒に行こう」
本編に登場するキャラクター
ヒサナ、キーラ、アマミ、エリスは
「キャラクターデザイン鳴海月花」の表記があれば創作、商用利用可能です。




