愛しい人の為に
「・・・来るな」
グリードは、ヒサナを背に庇うように半歩下がった。
魔法は使えない。だが腕力なら。
そう考えた瞬間、キーラが、踏み込んだ。
速い。
「・・・っ!」
グリードが腕を振るう。
だが、その拳は空を切った。
次の瞬間。
キーラの肘が、グリードの胸元へ突き込まれる。
「・・・ぐっ!!」
鈍い音。息が、強制的に吐き出される。
「は・・・?」
グリードの視界が、揺れた。
(なにを・・・?)
魔法が使えない。
だからこそ、彼は人間だった。
対して。
キーラは、最初から魔法に頼っていない。
二撃目。拳が、腹部へ。
三撃目。脚が払われ、グリードの身体が床に叩きつけられる。
「・・・っ、く・・・!」
起き上がろうとした瞬間。
「下がって」
アマミの声が、冷静に響いた。
キーラが、ヒサナを庇い即座に一歩引く。
その隙間を縫って、アマミが前に出た。
手にしているのは、掌に収まるほどの、小さな球体。
「・・・魔道具?」
グリードが、かすれた声で呟く。
アマミは、淡々と言った。
「いいえ、失敗作の副産物ですわ」
次の瞬間、球体が床を転がる。
──パンッ!!
爆音ではない。
だが、衝撃は十分だった。
閃光と共に、破片が散る。
グリードの身体が、弾かれ、壁に叩きつけられる。衝撃で、動きが止まる。
アマミは、静かに息を吐いた。
「魔法が使えない場所でも、技術は使えます」
それだけ言って、キーラの横へ戻る。
制圧は、終わっていた。
◇◇◇
少し離れた場所。
エリスは、床に座り込んだアメリアの前に、膝をついていた。
アメリアは、何も見ていない目をしている。
「・・・違う・・・」
声が、震える。
「・・・そんな・・・はず・・・」
エリスは、そっと肩に手を置いた。
アメリアの肩が、びくりと跳ねた。
「わたし・・・」
喉が、詰まる。
「・・・嬉しかったんです・・・会わせてあげられたって・・・グリード様の役に・・・立てて・・・」
視線が、床に落ちる。
言葉が、続かない。
エリスは、強くも、否定もしなかった。
ただ、隣に座る。
「信じたんだよね」
静かな声。
「信じたかったんだよね」
その一言で──
アメリアの中で、何かが崩れた。
「・・・っ・・・」
嗚咽が、漏れる。
「・・・わたし・・・グリード様に名前・・・呼ばれたこと・・・なくて・・・それでも」
声が、砕ける。
「・・・わたしを見てくれてるって・・・」
エリスは、アメリアを抱き寄せた。
「・・・うん」
魔法の使えない区画。
だからこそ
人の本性が、すべて露わになった場所だった。
本編に登場するキャラクター
ヒサナ、キーラ、アマミ、エリスは
「キャラクターデザイン鳴海月花」の表記があれば創作、商用利用可能です。




