執着
石の床は冷たく、足音がやけに響いた。
ヒサナは、少し前を歩くアメリアの背中を見つめながら、落ち着かない呼吸を整えようとしていた。
(キーラ・・・待ってるよね・・・)
魔力は、相変わらず静かだ。
体の奥が空洞になったみたいで、それが余計に不安を増幅させる。
「もう少し奥です」
アメリアの声は、穏やかだった。
「はい・・・」
ヒサナは小さく頷き、その一歩を踏み出した──その瞬間。
「ヒサナ」
低く、懐かしい声。
背後から。
心臓が、跳ね上がる。
振り向くより早く、背中に人の気配が迫った。
「・・・っ!」
ヒサナが息を詰めた、その視界に入ったのは、金色の髪。
「久しぶりだね」
グリードは、すぐ背後に立っていた。
いつの間に。
どうして。
「・・・どうして・・・ここに・・・」
言葉が、震える。
アメリアは、振り返らなかった。
ただ、少しだけ立ち止まり、静かに言う。
「会わせることができて、嬉しいです」
ヒサナの頭が、理解を拒んだ。
「・・・え・・・?」
アメリアの声は、揺れていた。
「グリード様は、ずっと・・・ヒサナ様に・・・」
言い終わらない。
ヒサナは、反射的に後ずさった。
「・・・いや」
足が、動く。
逃げなきゃ。
「キーラ・・・!」
走ろうとした──その腕を、強く掴まれた。
「・・・っ!!」
「逃げる必要はない」
グリードの声は、穏やかだった。
だが、力は容赦がない。
「ここは魔法が使えない。君も、私も。安全だ」
その言葉が、ひどく歪んで聞こえた。
「・・・離して!」
ヒサナは必死に腕を引く。
だが、敵わない。
背中を引き寄せられ、身体が、ぶつかる。
次の瞬間──
視界が、塞がれた。
唇に、温度。
「───!」
声にならない悲鳴。
ヒサナの体が、強張る。
(・・・いや・・・いや・・・!)
抵抗しようとしても、魔力は沈黙したまま。
逃げ場は、ない。
小さく、甲高い音が鳴った。
──アマミから貰った通信具が床に転がる。
「・・・キーラ・・・!」
その名を呼んだ瞬間、踏まれた通信具が、異様な雑音を吐き出した。
声にならない声。
歪んだ息遣い。
振り向いたアメリアの目に映った光景。
ヒサナを抱き留めるグリード。
逃げ場を失った身体。塞がれた唇。
「・・・っ・・・・!」
息を呑む音。
顔から、血の気が引く。
「・・・そ、んな・・・」
自分が、会わせた。
その事実が、胸に突き刺さる。
「・・・グリード・・・様・・・?」
声が、震える。
だがグリードは、ヒサナから目を離さない。
「愛している」
低く、確信に満ちた声。
その言葉が落ちた瞬間。
アメリアの表情は、完全に凍りついた。
(・・・違う・・・その顔・・・その声・・・わたしに向けられたものじゃない・・・)
気づいてしまった。
そして同時に取り返しのつかない場所へヒサナを連れて来てしまったことも。
本編に登場するキャラクター
ヒサナ、キーラ、アマミ、エリスは
「キャラクターデザイン鳴海月花」の表記があれば創作、商用利用可能です。




