再び王宮へ
白い城壁が、夏の陽光を反射して輝いていた。
ここは、かつてヒサナの魔力が狙われ、キーラがすべてを拳で壊して守った場所。
だが今は違う。
二人は正式に、南の魔法使い、北の魔法使いとして認められ、「誰からも干渉されない中立の存在」として国王自らが宣言している。
だからこそ。
「また王宮に来ることになるなんて」
ヒサナは小さく息を吐いた。
「今回は話だけ、だって」
キーラは軽く言う。
「王家の印が付いた手紙だし、呼び出しじゃなくてお願いだろ」
実際、案内に現れたのは兵士ではなかった。
赤い髪を後ろで束ねた、若い女性。
整った立ち姿と、控えめな所作。
「初めまして」
彼女は静かに頭を下げた。
「宮廷魔法使い、アメリアと申します。本日は、国王陛下に代わり、少しだけお話をお願いしたく・・・勿論、監視も、拘束も、ありません。お二人は中立です。それは、今も変わりません」
キーラは、無意識にヒサナの前に立ちかけ、そして止まった。
(言葉に、曇りがない)
少なくとも、表向きは。
王宮の奥へ進むにつれ、空気が変わっていく。
音が吸われ、魔力の気配が、薄れていく。
アメリアは口を開いた。
「ここから先は、魔力調整区画です。より正確には、魔力遮断区画」
キーラの目が細くなる。
「遮断?」
「はい」
アメリアは隠さず説明した。
「この区画では、杖、魔力石、詠唱─すべての魔法行使が不可能になります。外からの干渉も、内からの発動も」
ヒサナは驚いたように目を瞬く。
「・・・じゃあ、魔法・・・使えない?」
「ええ。ですが、その分安全です」
アメリアは淡々と続ける。
「魔法による拘束、攻撃、干渉は一切できません。もしヒサナ様の魔力が不安定になっても、この区画は魔力を外へ流しません。暴走が起きても、外部にも、同席者にも影響は出ない構造です」
キーラは、壁に刻まれた陣を見た。
(閉じ込めるためじゃない。溢れないための、安全装置)
理屈は通っている。
むしろヒサナのために用意された場所だ。
扉の前で、アメリアは足を止めた。
「中は狭いので、ヒサナ様のみ、お入りください」
そう言って、扉の横の椅子を示す。
「付き添いの方は、こちらでお待ちを」
ヒサナが、振り返る。
「・・・キーラ・・・」
少しだけ、不安そうな声。
キーラは一瞬考え、それから、肩の力を抜いた。
「魔法が使えないなら、安心。誰かに魔法でどうこうされる心配もないし、ヒサナの魔力も、外に漏れない」
ヒサナは、ゆっくり頷いた。
「うん・・・」
「すぐ終わるってさ」
キーラは軽く笑って、ヒサナの頭に手を置く。
「ここで待ってる」
国王の約束がある。
宮廷魔法使いが正式に案内している。
疑う理由は、なかった。
扉が、静かに閉まる。
魔法陣が淡く光り、完全な遮断が起動する。
キーラは椅子に腰を下ろした。
(大丈夫だ。話を聞くだけ)
そう信じて。
この場所が──
魔法だけでなく、助けそのものを遮断する区画だと気づくのは、もう少し先のことだった。
本編に登場するキャラクター
ヒサナ、キーラ、アマミ、エリスは
「キャラクターデザイン鳴海月花」の表記があれば創作、商用利用可能です。




