アメリアからの手紙
夏大陸の昼下がりは、相変わらず容赦がなかった。
縁側に座り込んだキーラは、赤いマントと上衣を取り払い、薄着の格好ですっかり力が抜けた様子で床に手をついている。
「暑い」
「だから言ったでしょ」
ヒサナは、くすっと笑って言った。
「冬大陸の人は、夏大陸に向いてないんだって」
「えー?」
キーラは顔だけ上げて、にやりとする。
「ヒサナだってさぁ、冬大陸にいたとき、向いてなかったよね?」
「・・・うっ」
ヒサナは、言葉に詰まった。
「薄着で来るし。寒くて、朝、布団から出られなくて」
「ちょ、ちょっとだけだから・・・!」
そんなやり取りを聞いて、すぐ横にいたヒサナの父が、くっと喉を鳴らして笑った。
猫耳が、ぴくりと動く。
それに合わせて、腰の後ろで尻尾がゆらりと揺れた。
「はは、どっちも極端だな」
そう言いながら、父は冷えた木杯をキーラに差し出す。
「ほら、これ飲め」
「ありがとうございます!」
キーラは受け取ると、一気に飲み干した。
「生き返る」
「だろ?」
父の尻尾は、どこか楽しそうに、ゆっくりと左右に揺れている。
すっかり打ち解けた空気の中で、父はふと、思い出したように言った。
「・・・そうだ、ヒサナ」
「ん?」
父は、懐から一通の手紙を取り出した。
赤い蝋で封がされ、そこにははっきりと刻まれた
──王家の印。
「王都からだ」
ヒサナは、ぴたりと動きを止めた。
キーラも、すぐに姿勢を正す。
「王家の印・・・」
「また、何かあったのかな」
ヒサナは、少し不安そうに手紙を受け取った。
「私たち、中立って言われたよね。監視もしないし、拘束もしないって・・・」
「うん」
キーラはうなずく。
「国王自身の約束だ」
ヒサナは、封を切りながら小さく息を吐いた。
中の文面は、丁寧で落ち着いた文字だった。
『南の魔法使いヒサナ殿。核について、少し話がしたい。非公式の面会である。監視も拘束も行わない、中立の立場は、侵さない』
そして、最後に書かれていた名前。
─国王直属宮廷魔法使いアメリア─
「名前、ある」
ヒサナは、少し驚いたように言った。
「アメリア・・・?赤髪の人だよね」
キーラが頷く。
「国王の後ろに立ってた人だ」
「すごく、丁寧な手紙だね」
ヒサナは、もう一度文面を読み返す。
「核の話っていうのは、ちょっと・・・」
胸の奥が、わずかにざわつく。
理由は分からない。
ただ、触れられたくない話題だと、身体が先に理解しているようだった。
それを察したのか、父が先に口を開いた。
「ヒサナ、行くなら、キーラも一緒だろ」
ヒサナは、はっとして顔を上げる。
「いいの?」
「当たり前だ」
父は迷いなく言った。
猫耳が、ぴんと立ち、尻尾が一度、大きく揺れる。
「お前を一人で行かせる理由がない」
ヒサナは、すぐにキーラを見る。
「一緒に来てほしい。私、一人じゃ行かない」
キーラは一瞬だけ目を瞬かせてから、小さく笑った。
「・・・そのつもりだったよ。最初から。ヒサナが呼ばれるなら、ボクも行く」
その言葉に、ヒサナの胸の奥のざわめきが、少しだけ和らいだ。
「じゃあ、決まりだな」
父は満足そうに言った。
「話を聞くだけ聞いて、さっさと帰ってこい」
「うん」
ヒサナは、手紙を胸に抱いた。
本編に登場するキャラクター
ヒサナ、キーラ、アマミ、エリスは
「キャラクターデザイン鳴海月花」の表記があれば創作、商用利用可能です。




