囚われのグリード
魔力遮断区画は、静かだった。
魔力の流れが断たれた場所特有の、思考だけが残る静寂。
グリードは鉄格子の内側に立ち、足音が近づいてくるのを待っていた。
(来る)
分かっている。この時間、この歩幅。
「失礼します、グリード様」
赤髪の魔法使いの声。
その呼び方を聞いた瞬間、グリードの胸の奥で、小さな満足が生まれる。
(まだだ。まだ、その位置にいる)
彼は振り返り、穏やかに微笑んだ。
「久しぶりだね」
その声音に、アメリアはほっとしたように息をつく。
「お変わりありませんか」
「問題ないよ」
短く答える。
彼女はそれだけで納得する。
昔から、そうだった。
──ああ、昔から。
十五歳の頃。
研究棟の廊下で、一人で立ち尽くしている少女を見つけた。
赤い髪。まだ幼く、周囲を警戒する目。
「どうした?」
そう声をかけたのが、始まりだった。
「君、今日から宮廷魔法使いだろ?8歳で選ばれるなんて、すごいじゃないか」
赤髪の少女は、何も答えなかった。
ただ、ぎゅっと拳を握っていた。
(怖がっている)
そう思った。
だから、あの言葉をかけた。
「大丈夫だ。ここは、危ない場所じゃない。君は役に立つ」
その瞬間、赤髪の少女の目が、こちらを向いた。
希望を掴むような目だった。
(・・・しまったな)
そう思った記憶は、もう薄れている。
現在
過去を思い出していたグリードにアメリアは慎重に切り出す。
「なぜ、禁忌の魔力石をヒサナに使おうとしたのか、と・・・」
その名を聞いた瞬間、グリードの思考は、自然に白銀の少女へ向かう。
(ヒサナ)
拒絶の視線。
触れようとした瞬間に弾けた魔力。
(拒まれた。だから、欲しい)
だが、それは表に出さない。
「君も、見ただろう。南の魔法使いの魔力を」
アメリアは、はっきりとうなずく。
「杖も、魔力石も使わず、媒介なしで魔法を発現する。それ自体が異例だ」
赤髪の彼女の表情が、真剣になる。
(そうだ。その顔でいい)
「さらに、核に魔力を供給できた。通常の巫女とは、構造が違う」
グリードは、ここで間を置く。
昔と同じだ。
彼女は、この沈黙を考えている時間だと思う。
「私が辿り着いた結論は──核と、ヒサナは関係している」
アメリアの呼吸が、わずかに乱れる。
「もしかすると核そのものが、彼女と繋がり、媒介として機能しているのかもしれないと?・・・だから、管理が必要なんですね」
(来た)
グリードは、内心で確信する。
「君は、正しい」
そう言われただけで、彼女の迷いは消える。
──八歳の頃と、同じだ。
「グリード様のためなら。わたしに、できることがあるなら・・・」
(ああ。やはり、便利だ)
だが、表情は変えない。
「ありがとう。君が居てくれて、本当に良かった」
その言葉を、彼女は自分に向けられたものだと信じる。
「君なら」
グリードは静かに続ける。
「彼女に、話を聞いてもらえる」
アメリアは即座にうなずいた。
「王家の名で手紙を書きます。非公式の、面会として」
(それでいい)
檻の内側で、グリードは確信していた。
(次は、拒絶は、起きない。魔力が使えない場所なら)
──天の主は、私を見捨てなかった。
本編に登場するキャラクター
ヒサナ、キーラ、アマミ、エリスは
「キャラクターデザイン鳴海月花」の表記があれば創作、商用利用可能です。




