アメリア
王の背後という場所は、いつも静かだ。
玉座の横、半歩後ろ。
誰にも触れられず、誰にも近づかれない位置。
王直属の魔法使い。
赤髪の宮廷魔法使いアメリアは、そこで長い時間を過ごしてきた。
守るために。
命じられるままに。
今日も、そう。
ただ一つ違ったのは、広間に集まる視線の熱だった。
「南の魔法使い、ヒサナ」
「北の魔法使い、キーラ」
王の声が響く。
その名が呼ばれた瞬間、アメリアは、無意識に視線を前へ送っていた。
・・・あれが。噂の。
白銀の髪の少女は、壇上に立ちながらも、少し居心地悪そうに視線を泳がせている。
背が高く、細く、けれど不思議と弱々しくは見えない。
その隣に立つのは、小柄な少女。
姿勢は真っ直ぐで、まるで盾のように、白銀の少女の半歩前に立っていた。
(逆だ)
アメリアは、そう思った。
普通なら、魔力の大きな者が前に立ち、弱い者が後ろに控える。
けれど、この二人は違う。
守られているのは、圧倒的な魔力を持つはずの少女の方だった。
(不思議な組み合わせ)
だが、次の瞬間。
赤髪の魔法使いは、息を呑んだ。
──見えた。
白銀の少女の周囲に、薄く、だが確実に揺らぐ魔力の層。
抑え込まれている。
整えられている。だが、それは制御ではない。
(・・・溢れている)
器に収まりきらない水が、縁から静かに零れ続けているような。
詠唱もない。
媒介もない。
(生身で?)
その瞬間、アメリアの胸に、ひとつの理解が落ちた。
──だから、グリード様は。
禁忌に手を出した。
魔力を奪う石を、彼女に使おうとした。
(管理が必要な力。放置してはいけない存在)
赤髪の魔法使いは、そう結論づけた。
だから、処罰されたのだ。
だから、拘束されたのだ。
彼女は、何も知らない。
核と魂のことも。
拒絶された理由も。
ただ、目の前の光景だけを見ている。
王が、続ける。
「先程も言った通り、二人は、国家の傘下には入らない。いかなる勢力からも干渉を受けず、その自由と中立は、王権をもって保証する」
ざわめき。
赤髪の魔法使いアメリアは、思わず拳を握った。
(自由・・・?どうして・・・)
同じ魔法使いなのに。
自分は、王に選ばれた瞬間から、ずっとここにいる。
囲われて、守られて、外を知らずに。
視線は、再び白銀の少女へ戻る。
少女は、隣の小柄な少女を見て、少しだけ微笑んだ。
その笑顔は、無防備で、柔らかくて。
(あの子が、守っているから・・・?)
赤髪の魔法使いは、知らず知らずのうちに、心を決めていた。
──グリード様に、会おう。
話を、聞こう。
あの魔力について、整理しなければ。
本編に登場するキャラクター
ヒサナ、キーラ、アマミ、エリスは
「キャラクターデザイン鳴海月花」の表記があれば創作、商用利用可能です。




