夏大陸へ
三日後。
同じ港から、少し遅れて別の船が出た。
貨物船。乗客は少ない。
甲板に出たエリスは、風を受けてピンクの髪を押さえた。
「うわ、潮風強い!髪、ぐちゃぐちゃになる」
そう言いながらも、口元は笑っている。
アマミは、船縁に手を置いた。
視線の先には、もう見えないはずの航路。
それでも、確かに感じていた。
「同じ方向ですわね」
「うん」
エリスは、軽く答える。
「追いかけてるけど、追いつく気はない。必要なら、向こうから気づく」
アマミは、静かに頷いた。
南の魔法使いと、北の魔法使い。
すでに名を持つ二人。
だが。
名を持つことは、狙われることと同義でもある。
「世界は、優しくありません」
アマミはぽつりと言った。
「力があれば、必ず誰かが手を伸ばす」
エリスは肩をすくめる。
「だからさ、手を伸ばす前に、叩く人が必要。でも──」
一拍置く。
「叩く役を、主役にやらせちゃダメ」
アマミは、少しだけ微笑んだ。
「西と東、ですわね」
「後ろから支える役。壊れたあとじゃなくて、壊れる前に」
船は、静かに進む。
南へ。同じ海を。
距離はある。
けれど、切れてはいない。しない。
♢♢♢
遠く離れた海の上。
エリスは、夕焼けを眺めながら言った。
「・・・ちゃんと着いたね」
アマミは、地図を閉じる。
「ええ。しばらくは、大丈夫でしょう」
エリスは、にこっと笑った。
「じゃあ、次は、大丈夫じゃなくなる前に動く準備だ」
アマミは、静かに答える。
「わたくしは、情報を集めます」
「アタシは、壊れそうなところを、押さえる」
二人は並んで、南の空を見た。
称号は、まだない。
名前も、広くは知られていない。
だが、世界が壊れなかった理由のひとつとして、確かにそこにいる。
南と北が前を行き、東と西が後ろを歩く。
本編に登場するキャラクター
ヒサナ、キーラ、アマミ、エリスは
「キャラクターデザイン鳴海月花」の表記があれば創作、商用利用可能です。




