秘密の共有
工房の奥で、金属が小さく鳴った。
──バチッ。
鋭い雷が、回路の一点を正確に貫く。
魔力石も、詠唱も使わない。
指先だけで制御された放電だった。
「これで、安定しましたわ」
アマミは手を引き、道具の反応を確認する。
その様子を、エリスは少し離れた場所で眺めていた。
相変わらず、にこにこしながら。
「やっぱり雷、得意だね。調整、早いし」
アマミは一瞬だけ動きを止めた。
(見られていましたわね)
いつも1人で作業をしている為、魔法を使う時に魔力石ピアスに触れる事を失念していた。
「作業時に限って、ですわ」
そう前置きしてから、静かに言う。
「人前では、使いません」
エリスは頷いた。アマミも、媒介無しで魔法が使える事を見抜いていた。
「うん。正解。目立つと、ろくなことにならないもん」
その言い方が、冗談ではなく、経験から来ていると感じさせた。
「ええ」
アマミも同意する。
エリスが、ふいに床を指で軽くなぞった。杖は使わない。
土が、わずかに盛り上がり、歪んでいた床が自然に整う。
「・・・」
今度は、アマミが黙り込んだ。
「・・・エリスさん」
確信に変わる。
「なに?」
「今の魔法・・・媒介がありませんでしたわね」
魔導書・杖・魔力石。普通はそれらを媒介すると魔法が発動する。
一拍。
エリスは、少しだけ目を瞬かせてから、いつもの笑顔に戻った。
「あ、見ちゃった?」
あっさり。
「アタシ、土魔法が得意なんだ〜」
肩をすくめて、軽く言う。
「そういえばさアマミって、何歳?」
唐突な話題。
「・・・35ですわ」
エリスは、ふむ、と頷く。
「落ち着いてるもんね」
「二十代後半かと思ってた」
「よく言われます」
アマミは少し困ったように微笑む。
「エリスさんは・・・」
問い返すと、エリスはあっさり答えた。
「43」
「・・・はい?」
アマミの手が止まった。
「43歳、ですの?」
「うん」
エリスは、相変わらずにこにこしている。
「見えないって、よく言われる」
(二十代後半、いえ、三十前後だと・・・)
驚きはあったが、それ以上に、別の感情が湧き上がる。
「・・・興味深いですわね」
思わず、研究者の顔になる。
「老化の進行が、一般的な人間と比べて緩やか・・・?」
エリスは、きょとんとした。
「え?」
「いえ」
アマミは、少し早口になる。
「若さを保つ要因が、体質なのか、環境なのか。これは・・・研究対象として、とても──」
エリスは、思わず笑った。
「ちょっと待って。今、アタシを魔道具みたいに見てない?」
「・・・あ」
アマミは我に返り、咳払いをする。
「し、失礼しました。ですが・・・」
少しだけ真剣な目。
「若さの秘訣、いつか研究してみたいですわ」
エリスは、声を立てて笑った。
「ははっ、やめときなって!目立つと、本当にロクなことにならないから」
その言葉に、アマミは苦笑する。
「そうでしたわね。では、この工房では」
話題を戻す。
「互いに媒介なしで魔法が使えることは、外では伏せる」
エリスは、軽く手を差し出した。
「約束」
アマミは一瞬迷ってから、その手を取った。
「約束ですわ」
年齢も、立場も、抱えている時間も違う。
でも、見ちゃった秘密を笑って流せる関係が、ここに生まれた。
秋の工房には、今日も変わらず、にこやかな空気が流れている。
それが、世界を壊させない静かな力だと、まだ誰も知らないまま。
本編に登場するキャラクター
ヒサナ、キーラ、アマミ、エリスは
「キャラクターデザイン鳴海月花」の表記があれば創作、商用利用可能です。




