表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
23/43

秋大陸にて


秋大陸の東端に、季節が留まったような土地がある。


紅葉は色を失わず、風に揺れるたび、乾いた音を立てて舞い落ちる。

その外れに、小さな工房があった。

石造りの建物は質素だが、中には不思議な静けさが満ちている。


魔力石を使わずに灯る灯火。

詠唱も触媒も必要としない起動装置。

魔法反応を示さないはずの金属が、特定の条件下でだけ動く構造。


「・・・やはり、理論通りにはいきませんわね」

机に向かい、アマミは淡々と呟いた。

35歳。秋大陸出身。元貴族。


没落は事実だが、彼女はそれを悔やんでいない。

この世界では、魔力を持つことが当たり前だ。

だが、アマミは違った。

(もし──魔力が、当たり前でなくなったら)

冬大陸で起きている魔力の減少。

それは噂ではなく、確かに観測されている兆候だった。

だから彼女は、魔力を持たない者でも使える魔道具を作る。

世界が壊れたあとではなく、壊れる前に。


──コツン。


控えめとは言えない音が、扉を叩いた。

(・・・珍しい)

この工房を訪ねる者は、ほとんどいない。

アマミは立ち上がり、警戒を隠したまま扉を開けた。

そこに立っていたのは、花の香りを纏う女性だった。

年齢は分からない。童顔で、ピンクの髪。どこか無邪気な笑み。手には一本の杖。

「こんにちは」

柔らかく、明るい声。

「急に来てごめんね。アタシ、春大陸から来たエリス」

そう言って、彼女はにこりと笑った。


春大陸。

その名を思い浮かべた瞬間、アマミの中で小さな警戒が走る。

「わたくしはアマミ。ここは私有地ですわ」

拒絶ではない。

距離を測るための言葉。

エリスはそれを気にした様子もなく、工房の中を一瞥した。

魔道具そのものではなく、その配置と構造を。

「・・・なるほどね」

その視線に、アマミは理解する。

(この方、ただの旅人ではありませんわ)

「噂を聞いたんだよね」

エリスは軽い調子で言った。

「魔力がなくても使える道具を作ってる人がいるって」

「事実ですわ」

否定はしない。

「冬大陸のこと、気にしてるんでしょ?」

その一言で、空気が変わった。

(なぜ、この方が・・・)

問い返すより早く、エリスは一歩、工房の中へ足を踏み入れた。


──その瞬間。

机の上の簡易魔法陣が、ひとりでに起動した。


媒介なし。

詠唱なし。


「・・・!」

アマミは息を呑む。

結界でも罠でもない。

反応しているのは、目の前の女性そのもの。

エリスは一瞬だけ目を瞬かせ、すぐにいつもの笑顔に戻った。

「あ、反応しちゃった?」

軽く肩をすくめる。

「気にしないで。たまにあるんだ」

そう言って、杖を軽く床に鳴らす。

魔法陣は、静かに沈黙した。

「・・・杖を使っていませんでしたわね」

静かな指摘。


エリスは一拍だけ間を置き、それから変わらずニコニコと笑った。

「気のせいじゃない?」


嘘だ。

だが、アマミは追及しなかった。沈黙が落ちる。


秋の風が、工房を抜けていった。

「・・・お茶でも、いかがです?」

アマミは言った。

「研究の話くらいでしたら、構いませんわ」

エリスは、少し驚いた顔をしてから、すぐに嬉しそうに笑った。

「いいね。こういう場所、嫌いじゃない」


二人はまだ知らない。


この出会いが、南と北の英雄が現れるよりも前から、世界の均衡を

支え始めていたことを。


そして

互いに一度、出会っていたことさえも。

挿絵(By みてみん)

本編に登場するキャラクター

ヒサナ、キーラ、アマミ、エリスは

「キャラクターデザイン鳴海月花」の表記があれば創作、商用利用可能です。

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

↑ページトップへ