南の魔法使い・北の魔法使い
数時間後。
王宮の奥、静かな謁見の間。
重々しい空気の中、国王は二人を前にしていた。
「まず、礼を言おう」
低く、落ち着いた声。
「この件が、国民に知られずに済んだのは、そなたたちのおかげだ」
ヒサナは、反射的にキーラの後ろへ隠れる。
「・・・ひ、人、いっぱい・・・」
小さな声。
キーラは、一歩前に出た。
「国のためじゃない」
正直な言葉だった。
「ヒサナを、連れ戻しただけ」
国王は、わずかに目を細める。
「それで十分だ」
しばしの沈黙の後、国王はヒサナに視線を向けた。
「ヒサナ」
名前を呼ばれ、ヒサナはびくりと肩を震わせる。
「そなたの魔力は、もはや一国が管理できるものではない」
ヒサナは、言葉の意味を完全には理解できない。
ただ怖い。無意識に、キーラの服の裾を掴んだ。
「よって、王命を下す」
国王の声が、はっきりと響く。
「ヒサナを南の魔法使いと称す。いずれの国にも属さず、いずれの戦争にも与せず。その自由と中立は、王権をもって保証する」
ヒサナは、しばらく固まっていたが、やがて小さく口を開く。
「・・・じ、自由・・・?」
国王は、静かに頷いた。
「望まぬ限り、誰もそなたを縛らぬ」
その言葉に、ヒサナの胸がじんと熱くなる。
「ありがとう・・・ございます・・・」
震える声。それだけで、精一杯だった。
次に、国王はキーラを見る。
「キーラ。そなたについても、裁定を下す」
キーラは、真っ直ぐ立った。
「魔法を、素手で砕いたと聞く」
ヒサナが、思わず顔を上げる。
「・・・え・・・?」
キーラは、少し困ったように頭を掻いた。
「結果的に、ね」
国王は、小さく息をついた。
「魔法を無効化できる者を、魔法使いと呼ばずして何と呼ぶ。キーラを北の魔法使いと称す。ただし、そなたも国家には属さぬ」
監視も、拘束もない。
その代わり、中立。
キーラは、一度だけ頷いた。
「約束する」
◇◇◇
謁見の後。
王宮の中庭で、二人は並んで歩いていた。
風が、やさしく吹く。
「・・・終わった?」
ヒサナが、ぽつりと呟く。
キーラは、少し考えてから答えた。
「一区切り、かな」
ヒサナは、小さく笑った。
「・・・キーラが来てくれて・・・よかった」
その言葉に、キーラの胸がぎゅっと締めつけられる。
だが、何も言わない。
まだ、その時じゃない。
「・・・これからどうする?」
ヒサナの問い。
キーラは、空を見上げた。
「帰ろう、ヒサナの家に」
南へ。
夏大陸へ。
ヒサナは、ゆっくり頷いた。
「うん・・・お父さんにキーラを紹介しなくちゃ」
キーラの隣にいると、怖くない。
二人は、並んで歩き出す。
名を与えられ、それでも縛られなかった者として。
本編に登場するキャラクター
ヒサナ、キーラ、アマミ、エリスは
「キャラクターデザイン鳴海月花」の表記があれば創作、商用利用可能です。




