魔力暴走
地下最奥、旧封印庫跡。
重い空気の中で、ヒサナは不安を抱えたまま立っていた。
「・・・グリードさん・・・ここ・・・ほんとに安全なんですよね・・・?」
即座に返る肯定。
「ええ。外部からの干渉はありません」
その言葉の直後。
空気が、きしんだ。
「やっぱり・・・ここだ」
聞き慣れた声。
ヒサナは、反射的に顔を上げる。
「キーラ?」
歪んだ結界の向こうに、キーラの姿が見えた。
その瞬間。
胸の奥に溜まっていた不安が、一気にほどける。
「キーラ・・・!」
声が、思わず弾んだ。
安心が、身体を動かす。
ヒサナは、何も考えずに一歩踏み出した。
「ごめんね・・・キーラ、私よく分からなくて・・・」
キーラの方へ、手を伸ばす。
その一歩が、境界だった。
「止まってください」
低く、鋭い声。
次の瞬間、床の魔法陣が光り、ヒサナの周囲で空間が閉じる。
「え・・・?」
見えない壁。
前に進めない。
「キーラ・・・?」
振り返るヒサナの視界に、グリードの背が割り込む。
「・・・グリードさん?」
「下がってください」
声は、穏やかだが有無を言わせない。
ヒサナの胸が、きゅっと縮む。
「どうして・・・キーラ・・・来てくれた・・・のに」
安心していたはずなのに、一瞬で引き離される。
その落差が、ヒサナの感情を大きく揺らした。
「感情の急変は、非常に危険です」
グリードは、自分に言い聞かせるように呟く。
「安定化が必要だ」
彼は、ヒサナに向き直った。
距離が、近い。近すぎて、ヒサナは息を詰める。
「・・・グリードさん・・・なに・・・」
答えはなかった。
代わりに手が伸びてくる。
ヒサナの肩に、そっと触れようとしたその瞬間。
「・・・や・・・!」
理由は分からない。
けれど強烈な嫌悪感が、全身を駆け抜けた。
触れてほしくない。
近づかないで。
その感情が、核と繋がる部分を
直撃する。
「──っ!!」
ヒサナの魔力が、一気に跳ね上がった。
水色の光が、足元から溢れ出し、空間を震わせる。
「な・・・!?」
グリードの動きが止まる。
想定と、違う。
拒絶。恐怖。嫌悪。
それらが、直接、魔力に反映されている。
「ヒサナさん、落ち着いて・・・」
声をかけようとした、その時。
「触るな!!」
キーラの声が、空間を切り裂いた。
拳で拘束を無理やり突破し、一気に距離を詰める。
だが間に合わない。
ヒサナの魔力は、すでに暴走段
階に入っていた。
「・・・やだ・・・なに・・・これ・・・」
頭を抱え、ヒサナは膝をつく。
恐怖と嫌悪が、そのまま力になって溢れている。
結界が、内側から砕け散る。
「・・・っ!」
グリードの身体が、衝撃で吹き飛ばされた。
吸収石が、床を跳ね、悲鳴のような音を立てる。
「ヒサナ!」
キーラが、最後の障壁を拳で破り、ヒサナを抱き寄せた。
「大丈夫・・・ボクがいる!」
強く、逃がさないように。
ヒサナは、必死にしがみつく。
「・・・こわ・・・いや・・・さわらないで・・・」
「もう大丈夫」
キーラの声だけが、確かな現実だった。
抱きしめられた瞬間、荒れ狂っていた魔力が、少しずつ静まっていく。
一方、床に倒れたグリードは、呆然と天井を見つめていた。
(・・・触れただけで、拒絶・・・?私は・・・守ろうとしただけ・・・)
だが現実は、明確だった。
彼女は、彼を拒んだ。
この瞬間、すべてが決定的になる。
管理ではない。保護でもない。完全な断絶。
そして──
救出は、もう終盤に入っていた。
本編に登場するキャラクター
ヒサナ、キーラ、アマミ、エリスは
「キャラクターデザイン鳴海月花」の表記があれば創作、商用利用可能です。




