逃亡
──その頃。
ヒサナは、結界の強い区画で一人立っていた。
胸の奥が、ざわざわする。
理由は分からない。ただ、空気が変わった。
扉が、勢いよく開く。
「・・・グリードさん・・・?」
入ってきたグリードは、いつもより距離が近かった。
「ヒサナさん。ここは、もう安全ではありません」
ヒサナは、言葉の意味が分からず、瞬いた。
「え?」
「王宮の管理が、追いつかなくなりました」
説明は、それだけ。
「あなたを、このまま置くのは危険です」
危険。また、その言葉。
「・・・でも・・・キーラが・・・」
「今は、合流できません」
即答。
ヒサナの胸が、きゅっと縮む。
「・・・どうして・・・?」
「後で説明します」
それは、説明しないという意味だった。
グリードは、ヒサナの手首にそっと触れる。
強くはない。
だが──離れられない位置。
「大丈夫です」
声は、必死なほど落ち着いている。
「あなたを、守るためです」
ヒサナは、逆らえなかった。
状況が、分からない。
何が起きているのかも、分からない。
ただ──信じた人が、守ると言っている。
「・・・キーラに・・・伝えて・・・」
「ええ」
即答。
その約束に、具体性はない。
結界が、一瞬だけ歪む。
廊下へ出た瞬間、警備兵の声が飛ぶ。
「──待て!」
だが、グリードは立ち止まらない。
床に、黒い石を触れさせる。
──吸われる。
周囲の魔力が、一気に引かれ、結界が乱れる。
「・・・っ」
ヒサナの身体が、一瞬だけ揺れた。
「すみません、すぐ・・・安定します」
グリードの声は、どこか震えている。
それでも、止まらない。
歪んだ通路を抜け、二人は姿を消す。
ヒサナは、最後まで理解できなかった。
これは、逃走なのか。
誘拐なのか。
それとも本当に、守られているのか。
本編に登場するキャラクター
ヒサナ、キーラ、アマミ、エリスは
「キャラクターデザイン鳴海月花」の表記があれば創作、商用利用可能です。




