管理
ヒサナが目を覚ましたとき、空気が、張りつめていた。音がない。
風も、人の気配も。
魔力の流れだけが、身体の内側を静かに巡っている。
「・・・ここ・・・?」
白い天井。
模様のない壁。
刻まれた結界紋は、これまでの保護区画より明らかに数が多い。厚い。
「・・・グリードさん?」
扉が、静かに開く。入ってきたグリードは、いつもと同じ穏やかな表情をしていた。だが、その目だけが、落ち着いていない。
「目が覚めましたか」
声は、丁寧だ。
「・・・さっき私・・・少し・・・」
「一時的な反応です」
言葉が、被さる。
説明は、最小限。
ヒサナは、胸の奥がざわつくのを感じた。
「キーラは・・・?」
その問いに、グリードは一拍だけ間を置いた。
「今は、会わせられません」
理由は、言わない。
「あなたの状態が想定より、特殊です」
特殊。
その言葉に、ヒサナは小さく肩をすぼめる。
「・・・悪い、こと・・・?」
「いいえ」
即答だった。だが、続く言葉が、以前と違う。
「むしろ、極めて貴重です」
ヒサナは、言葉の意味が分からず、ただ黙って聞いてしまう。
「あなたは消耗しない。魔力が、減らない」
グリードの声は、少しだけ早くなっていた。
「普通なら、この負荷で無事ではいられない」
「・・・でも・・・私、平気・・・です・・・」
「それが、問題です」
即座に返される。
ヒサナの喉が、詰まる。
「だから・・・ここ・・・に?」
「管理が必要です」
はっきりとした言葉。
保護でも、指導でもない。管理。
「今は、危険です。あなたが、ではありません。あなたの状態が、です」
理屈は、正しい。
否定できない。
分からないから、任せるしかない。
「・・・わかり・・・ました・・・」
その返事を聞いた瞬間、グリードの肩から、目に見えない緊張が抜けた。
「安心してください。あなたを、傷つけるつもりはありません」
嘘ではない。
だが自由を残す約束でもなかった。
扉が、閉まる。静寂。
ヒサナは、部屋の中央に立ち尽くした。魔力は、相変わらず満ちている。
減らない。疲れない。
それが今は、怖い。
(キーラ・・・今、どうしてる?)
本編に登場するキャラクター
ヒサナ、キーラ、アマミ、エリスは
「キャラクターデザイン鳴海月花」の表記があれば創作、商用利用可能です。




