一時の平穏
今回は息抜きエピソードのお話です。
一行は旅の途中の宿場町で休息し英気を養います。
少年と一行との日常が和やかに進みます。
旅は続き、残りわずかとなった。
そこまでに、いくつかの集団と行き交ったが、村民とは出会うことはなかった。
山道は終わりを迎え、平坦な地形に街道が整備されていた。
港湾都市に向かう前に、一行は休息をとるため宿場町に立ち寄った。
山越えをする旅人のための簡素な宿が数件あるのみだが、長い旅路では落ち着いて泊まれることはとてもありがたかった。
ここで物資の補給と一時の休息をとることで皆の意見は一致した。
「アインこっちきなさーい!」
ミリーの声が響く
あの夜からずいぶん打ち解けたようで、今では弟のような扱いになっている。
宿に着いて早々、女性陣は風呂に入りたいと言い出した。
これまでずっと水を浸した布で拭う程度だったので、年頃の女性には厳しいだろうと思われた。
早速、風呂に向かおうとしたところ、腕をつかまれた。
「あんた小さいんだから私たちと一緒よ」
ミリーは当たり前のように言う。
まあそうだよな、4歳なんだからそりゃそうなるよな。
うん、まあ仕方ない。俺もそうじゃないかと思ってたんだ。
だって4歳なんだもんな。いや、俺はいいんだよ。
だって守護霊で坊主に引っ張られるんだから。
いやーしょうがないなあ。
自己正当で論理武装は完璧。
いざっと思っていたら。
坊主が逃げ出した。
あーそっか、きちゃったかあ。
まあ、解らんでもないよ。
リタは瞳が大きく、ネコを思わせる少し吊り上がった目をした赤髪の美人さんだし。
健康的に日焼けして引き締まった体には余分な肉はないが、女性らしい膨らみはちゃんと性差を主張している。
ミリーにしても、顔立ちは上品で、長い黒髪と黒い瞳にスッと通った鼻筋で、これからの成長が楽しみな美少女。成長途中の少女特有のかわいらしさと美しさを備えている。
こんな美人のお姉ちゃんズと、お風呂一緒するのは恥ずかしいよな。
だが、しかし!
俺は一緒に入りたい!
こんな機会前世で一度もなかったんだよお。
必死に逃げ回る坊主をどうにか出来ないか、真剣に思案していたら。
「どうれ、ならわしと一緒に入るか」
とババアが言い出した。
オイ!余計な事すんな。
チェンジ!チェンジを要求する!
俺の断固とした主張もむなしく、ばあさんに手を引かれて風呂に向かう坊主。
一緒に引きずられる俺。
泣ける
ちなみに、この世界でも風呂は一般的で旅先でもなければ普通に入れる。
魔法技術のお陰でお湯には困らないらしい。
「ふう、いい湯だった」
「久しぶりのお風呂は最高ねえ」
風呂上がりですっきりした顔の一同。
どんよりした空気をまき散らす俺。
カイルだけはその空気に反応したみたいで、
「お、なんだ、なんかここだけ変」
夜
それまでの疲れが一気に噴き出したようで、就寝は早かった。
毎夜、疲労回復してきたが、やはり4歳の子供にはこの行程は厳しいものだ。
それにしても、村の避難民には一度も出会わなかったな。
全員が生き残れなかったんだろうか。
そこまで徹底して破壊するってことがあるんだろうか?
この世界にとって力がすべてであることは間違いない。
しかし、力のあるものも飯を食わなければ生きていけない。
すべてを奪いつくしては自分たちの利益にならない。
虐殺というのは野盗にとってもリスクしかないはずだ。
なのに。
あの村の惨状は言葉に言い表せないほど悲惨だった。
全員を生き残らせるつもりがないと思えるほどに。
どういうことだ?
ただの野盗ではなかった?
あの夜を思い出す。
軍隊のように統一されてはいなかった。
どう見ても野盗の集団だった。
なら野盗を裏で操っていたやつがいた?
一人も逃さないことを前提に?
そういえば、坊主の髪を見て何か言ってたのがいたな。
『いや、まだガキのほうは近くにいるはずだ、あのガキ金髪だった。ありゃ高く売れるぜ』
なんで髪の色を気にした?
金髪の意味を知るのは魔術師だけでは?
まさか。。。
偶然旅を共にした魔術師の2人を見る。
ナージャは金色の髪の子供を巡って対立があると言っていた。
疑いたくはない、だが魔術師が敵である可能性は何も変わらない。
魔法使いの総意が坊主の排除に傾いたとき、二人はどう動く?
味方になってくれるとは限らない。
これまでは良かった。だが、これからもよい関係でいられる保証はない。
一抹の不安を感じつつ、決意を固める。
坊主を守る。
これまで以上に注意して、慎重に考えよう。
坊主の心がこれ以上傷つかないように俺が目を光らせよう。
新たな決意を胸に、静かに夜は更けていった。
次の日の朝
一行は、物資の補給のため市場へと向かった。
この町は交易の経路に位置するだけあって、物資の流れは潤沢でありとあらゆる物が売りに出されていた。
坊主はミリーと二人でお使いに出ている。
香辛料やハーブ、薬草などの必需品の購入を任された。
初めての大きな市場に坊主も興奮気味だ。
村の市場とは比べ物にならないほど活気に満ちている。
品ぞろえも、見たこともない物ばかりで、きょろきょろしている。
「さ、あっちよ」
ミリーに手を引かれて薬草売りの区画へ向かう。
その途中でアクセサリーなどの小物を売る区画を通り過ぎた。
「お嬢ちゃん買ってかない?」
店の女性に声を掛けられる。
「お嬢ちゃんかわいいから、まけてあげるよ」
「ちょうどその黒髪に合う、黒水晶のピアスがあるんだ見ていきなって」
ミリーもまんざらではなくアクセサリーに目を奪われていた。
「へー」
そのピアスは、複雑な意匠を施された銀の台座の中心に、黒水晶がはめられていた。
黒水晶は薄く黒みがかった色をしてミリーの黒髪を引き立てる。
「ほら、すごく似合う、僕もそう思うよね?」
アインは素直にこくこくとうなずく。
「。。。買います」
「毎度!」
「みんなには内緒だよ」
ミリーはアインに口止めを約束させる。
それから、アインの服も調達した。
子供用の鎧などは無いので、厚手の皮袋を貫頭衣代わりに加工した。
その上からベルトを巻いて補強し即席の皮鎧をこしらえた。
今まで身に着けていた獣の皮も、肩当や首周りのファーやフードに加工してもらい見た目には小さな戦士風といった感じだ。
物資の補給も終わり、街道へと向かう。
つば広三角帽子に隠れて黒水晶のピアスが揺れる。
「ミリーそれ」
リタがいち早く気付く。
ミリーがそれにびくっと反応する。
「似合うじゃん(笑)」
恥ずかしそうにうつむくミリー。
そんなやりとりを優しく見つめていた老婆が出発の号令をする。
「それ、それじゃあそろそろ行こうかね」
一行は再び旅路に戻る。
行く先は港湾都市。
そんな一行を物陰からじっと見続ける男たちがいた。
休息の後に不穏な空気が残る回でした。
次回は最強クラスのキャラクターが登場します。




