暗雲漂う
二組が戦闘不能となり、次の試合が事実上の決勝戦となる。
午後の鐘の後に、決勝戦を開催すると村長から宣言された。
アインは休息を取るためと、倒れた二人を見舞うために仮の救護室に割り当てられた村長の家に向かった。
カイルとミリーは同室のベッドに横たわっており、特にカイルのケガが痛々しい。
回復魔法で顔の腫れは引いたが、気を失ったままの二人を心配そうに見るアイン。
ナージャが、そんな少年を安心させるために、「ケガはすぐに直すから安心せい」と声をかけてリタに少年を預ける。
「じゃあ、アインは昼食を取って次の試合に備えようか」
別室に用意された昼食を取るため、二人で食堂へ歩き出した。
「さて」
ナージャは二人を見送り、女戦士の運ばれた部屋へ向かった。
俺も気になったので、婆さんについていく。
食堂とそんなに離れていなくてよかった。
聞き耳を立てられる程度には近づけた。
ベッドに括りつけられた女戦士の姿がある。
村長もそこにいた。
「気が付いたかの?」
村長が様子を話す。
「ああ、ついさっきな。最初は暴れたが今は落ち着いてる」
「。。。」
「さて、お前さんに聞きたいことがある」
「。。。なんだよ」
「あの魔薬をどこで手に入れた」
「。。。」
「あれがどういうものか知ってるのか?」
「。。。薬だろ。すげー力が出る」
「では、何で出来ているかは?」
「魔物だって聞いた。。。ちがうのか?」
「。。。人じゃよ」
「っ!!!」
「あれは、人間が材料じゃ」
「詳しくは言えんが、あれは魔物化した人つまり、魔族から抽出したもので作られておる」
「魔族。。。だけど、魔族は。。。」
「そうじゃ、もう何百年も人類とは接触しておらん。それがどういうことかわかるか?」
村長が答えを口にする。
「。。。まさか。。。魔物化現象で魔族となった普通の人を使ったのか」
おぉぉうぇぇぇ
イリナが急に嘔吐しだした。
これまで何度も飲み込んだ薬がどんなものかを知り、その悍ましさに吐き気が止まらない。
胃の内容物など、とうに吐ききって胃液しか出なくなっても吐き続けた。
「。。。あれを、どこで手に入れた?」
ナージャは先ほどと同じ質問をした。
イリナは素直に話し出した。
「。。。闇のマーケットだ。普通では取引出来ないように仲介人がいる」
「その仲介人とは?」
「。。。そいつとは連絡が取れなくなっちまった」
仲介人と最後に会ったのは一年ほど前になる。
その時に、この薬が最後だと言われた。
「何でも、薬を作っていた村が全滅して、製造してたやつも死んじまったらしい」
イリナはその村の名前までは知らないという。
一年前。。。村が全滅。。。薬を製造
いくつかの符合する単語に俺は戦慄した。
「魔術師評議会に引き渡すか?」
村長がイリナの処遇をナージャに相談する。
「未遂とはいえ、あと一歩で村が消し飛んでいたからのお」
「なあ、あたいは、そんなこと知らなかったんだよぉ。助けてくれよお」
「あの薬を常用すると、理性が戻らなくなる。お主も火精霊に乗っ取られて分かったろう」
「。。。ああ、あの時体が言うことを効かなくなった、なのに、意識だけはあって」
イリナはその時のことを思い出して身震いする。
「あの娘に感謝することじゃな」
魔術師の少女はイグナの力を奪うため、精霊の力を使い果たすことで彼女を人の姿に戻した。
ナージャは闇のマーケットとやらの調査に協力するなら、今回は罪に問わないという約束で、魔術師評議会に協力するよう言い含めた。
。。。
病室から忽然と姿を消したザジ。
サーニャは隙を見てザジを外に連れ出した。
目を覚ましたザジが最初に耳にしたのは、サーニャの皮肉たっぷりの嫌味だった。
ジンライが感想を聞く。
「どうだった、在野にもおもしろいのがいるな」
「ああ」
素直に納得する。
「そろそろ、仕事に戻るぞ」
「。。。」
これから始めるのは、戦いの高揚など無縁のただの作業。
人を刻み殺すという、つまらない仕事。
ザジは先ほどの滾るような感情が無くなり、頭の奥が冷えていくのを感じた。




