時を超えた、邂逅
冒険者一行の老婆は少年の母を知っているようです。
過去に何があったのか、少年の両親についての話が聞けます。
そして、老婆の言葉は少年が背負う運命へと誘います。
全員が焚火の周りに座り、人心地つくこととした。
近くに作られた焚火に思い思いの格好で座る。
せせらぎの音が聞こえる。
近くに小川があるようだ。
少し落ち着いてから、護衛の2人が名を名乗る。
「俺たちは冒険者で今回の護衛依頼を受けてこの2人と旅をしている」
「俺はカイル、こっちはリタだ」
「よろしく♪」
年の頃は、おそらく20歳を超えていない。
どちらも軽装の皮鎧に武器を携行しており、女性の方は腰布をズボンの上から履いていた。
カイルの獲物はショートソード。戦士のようだ。
リタはダガーを二刀流で使うスタイル。
腰布に投げナイフを仕込んでいることからレンジャーか、シーフか。
「で、こちらは。」
カイルの言葉をさえぎって老婆が話し出す。
「わしの名は、ナージャじゃ。魔術師をしておる」
「こっちはわしの弟子のミリーじゃ」
「。。。よろしく」
女の子の様子を見ると、少し不満気に見える。
老婆のいでたちは深めのフードを被り木の杖を持つ見るからに魔術師。
その杖はよく見るとしっかりと表面が油で加工されており、何かの文字が刻まれていた。
少女の方は、貫頭衣とつば広の三角帽で小さな魔法使いといった恰好だ。
老婆の年齢はわからないが、かなりの高齢に見える。
少女は10~12歳といったところか。
少年は名乗る。
「僕はアイン」
「この山向こうの集落が野盗に襲われて逃げてきたんだ」
着の身着のままで逃げて来たため、恰好はひどいものだ。
ぼろぼろのシャツに、狩猟小屋で見つけた動物の毛革をまとっただけの姿に少し恥じ入っている。
「山向こうって、この辺に村なんかなかったんじゃ?。。ってもしかしてヒャクガ村の住人か?!ここから山3つも先じゃねーか!」
少年はぽつぽつと今までの事情を話した。
数日前に村が野盗に襲われたこと、
おそらく全滅したこと、
そして両親が死んだこと。。。
思い出すと涙があふれる。
リタがそっと寄り添い、外套で顔を隠してくれた。
「そうか、それで逃げ延びた村民と合流するために。。。」
「よくその年でここまで」
「。。。」
老婆は少し震えているように見えた。
しばらくして老婆が問う。
「おぬしのその髪、生まれつきか?」
「うん。いや最初はもっと薄くて白に近かったって」
髪を指先でいじりながら言う。
「いつのころから、この色になったって母さんに聞いた」
うーんそうだったっけか?
俺が見たときはもう金髪だったような。
それにしてもさっきから髪の毛にしか興味ないのか?
老婆は腰差しから煙管を取り出す。
「黄金の髪の子供」
煙管にタバコの葉を丁寧に詰める。
「魔法使いの間で伝わる伝説じゃ」
「黄金色の髪を持つ子は神の御印、この世界に祝福と災禍をもたらす禍神の子」
ん?それはどっちだ?
良いのか悪いのか
「魔法使いの間でも解釈が分かれておってな。排除すべきだ、保護すべきだと議論が絶えん」
「。。。」
「お師匠様はどちらだと思ってるんですか?」
今まで黙って聞いていた少女が聞いた。
「わしは、放っておけばいいと思うておる」
「。。。」
老婆は、煙管を撫でながら
「それがどういった存在か、誰もわからん」
「聖なものか邪なものか、その者の生末で定まるものなら、だれが何をしようとその者次第じゃ」
「あの」
少年が控えめに質問をする。
「母さんは魔術師だだったんですか?」
老婆は優しく、それを肯定する。
「ああ、本当ならわしの最後の弟子として魔女の血を受け継ぐはずじゃった」
「。。。」
「どれ、少し昔話をしようか」
老婆は遠い目をしてゆっくりと話し出した。
それは、少年の母アリーシャが魔術師としての修行を終えた後のことだ。
幼いころから好奇心の強かった彼女は外の世界への興味を抑えられず、
武者修行と称して冒険者に付いて回り、その時に父親と会ったらしい。
「お前の母親は魔術師として優秀だったよ。わしの継承者と考えておったくらいじゃ」
「ところがのお。。。」
静かに話をしていた老婆の煙管を持つ手がプルプル震える
「あのバカ娘、魔女の継承前にとんずらしおった」
「。。。え」
「書置き一つ残さず、姿をくらましおって。その後、学舎は大騒ぎよ」
あの体が弱く優しい母の意外な一面に驚いた。
「魔女の継承は優秀な魔術師の能力段階を上げる重要な儀式での」
「20歳前の未婚の女性に限られるんじゃ。継承が行われればその者は子を作れなくなる」
「じゃあ、僕のせいで」
少年は母親の負担になっていたのかと不安になる。
「いや、あの当時、あの娘はお前を宿してはいなかったはずじゃ」
「父親と恋仲になって数年後に生まれたと考えるのが正しかろう」
少年は少しほっとした表情をしている
老婆の話が続く
「子を宿した魔法使いは、その大半の力を失う」
「それまで研鑽した知識は残るが、土台となる力が消え失せるんじゃ」
「そうなったら、一般人と同じ程度の弱い魔法しか使えなくなる」
「母親は産まれてくる子に、すべての力を分け与えるというのがその理由と言われておる」
「。。。」
「それに似た話、俺にも心当たりあるぜ」
今まで黙ってじっと聞いていたカイルが口を出す。
「お前のその耳、獣族の特徴があるが、お前の親父は獣族なのか?」
「。。。うん」
アインは、父から聞いた父の故郷の話を思い出した。
「俺の知り合いにも獣族の戦士がいて、そいつがめっぽう強い奴でな」
「どうしてそんなに強くなったのか教えてくれたんだ」
「。。。」
カイルが言うには獣族にも血の継承という儀式があり、それを受けることで古代の獣人として本来の力が振るえるようになるらしい。
ただその場合、同じ獣族としか婚姻は出来ず多種族の間とは子も生まれなくなるそうだ。
「古代種である獣族と、魔法使いの血か。。。」
リタがつぶやく。
「先ほどの不思議な現象もそれが理由なんでしょうか?」
「わからん」
老婆は首を振る。
「そもそも前例が少なすぎて、話にならん」
獣族は里からほとんど出ることはないし、血の継承をしても同族同士であれば何の問題もない。むしろ力を拒む獣族のほうが稀といえる。
魔法使いも、そのコミュニティーである学舎から出るという者は珍しく、生涯を魔術の研鑽にささげることが普通だ。
出会うはずのない二人が出会い少年が生まれた。
うつむいている少年にカイルが笑顔でこう言う。
「暗い顔すんな、お前の両親は、すべての栄光と引き換えにしてもお前と会いたかったことじゃねーか」
「むしろ誇りに思うべきじゃねーの」
その言葉を聞いてアインは心がスッと軽くなった気がする。
「。。。そうかもしれんのお」
老婆は目を細めて少年を見る。
「そんなの勝手じゃないですか」
傍らにいる少女が涙ぐむ。
「お水汲んできます」
そういって少女はその場を離れる。
「なんか、悪いこと言いましたかね?」
カイルがばつの悪そうな顔で尋ねる。
「まあ、いろいろあるんじゃよ」
老婆は煙草に火をつけて深く紫煙を吸い、思索に耽るため目を瞑った。
「。。っ」
少年は少女のことが気になるのか、後を追った。
「あの。。。」
水を汲んでいる少女に声をかける。
少女の目には涙が浮いていた、その涙の意味を知ることは出来ないがきっと自分のせいだと少年は思った。
「ごめんね」
少女のほうが謝った。
「まだ小さいのに両親を失って、やっと逃げてこれたのに」
涙をぬぐう
「あなたのせいじゃないの」
「でも、わたしはあなたのお母さんを許せない」
強い怒りを宿した目を虚空に向けて少女は手を握り締める。
水を汲み終えた少女は、それきり何も話さず戻っていった。
老婆と少年の関係を聞いた少女は不満を抑えきれないようです。
次の回ではその理由が明らかになります。




