魔薬
第四試合
リタ&ミリー対女戦士イリナ
女性同士の戦いに最初から観客が盛り上がる。
「いくよ、ミリー」
「はい!」
戦闘開始の合図を待って、魔法を唱える。
「風よ、我らに何者も寄せ付けぬ盾と、疾風の速さを与えよ!」
「風の盾」
「疾風を纏え」
力ある言葉が二つ同時に発せられた。
風の帳の上位版、風の盾と疾風の速さを付与する強化魔法の同時使用。
体の軽さを実感し、リタは敵に向かって駆けだす。
女戦士は身構え、攻撃に備えている。
彼女の持つ武器は両手剣。
女性の使う武器としては珍しく、力と重さで叩き切るタイプの重量武器だ。
まずは相手の力量を測るための小手調べ。
リタが投げナイフで様子を見る。
ガ、ガ、キン
金属音がしてナイフが両手剣に弾かれる。
周囲を高速移動しながらの投擲に、イリナは重い武器を器用に使いこなし防御する。
「つむじ風!」
ミリーはリタの攻撃に併せて詠唱していた魔法を発動させる。
敵の周囲に十数個の風の子がばらまかれる。
「?」
女戦士は襲ってこないその魔法を警戒しながら様子を見る。
リタがナイフを投げる。
しかしすっぽ抜けたのか、あさっての方向に飛んで行く。
それを見てイリナは嘲笑する。
「おいおい、どこ狙ってんだ!」
しかしその瞬間。
ざしゅ!
イリナの肩が切り裂かれた。
「は?」
暴投だったはずのナイフに肩を切られた。
右腕から血が流れる。
イリナの防御が手薄になる。
リタはその隙をついて、次々とあらぬ方向へナイフを投げる。
すると、ナイフは四方八方から女戦士に襲い掛かった。
リタは特別な形状のナイフを使っていた。
風を受けて方向を自在に変化させるナイフ。
周囲に配置されたつむじ風を使って、予測できない軌道をとる。
次々と襲い掛かるナイフに切り裂かれ血が飛び散る。
重い両手剣で、この連続攻撃に対処することが無理だと悟ったイリナ。
「すぅぅぅぅ、ハァッ!!」
気合を込めて両手剣を振り回す。
幅広の刀身を使い風を巻き起こす。
「っ!」
周囲のつむじ風がその風に相殺され消えてゆく。
その暴風が止んだ時、つむじ風はすべてかき消えていた。
「やってくれたじゃねぇか。小娘ども!」
捨て身で風を起こしたため、それまで攻撃をもろに受けることになり、イリナは相当の出血をした。
「ここから本気で行かせてもらうよ」
剣を手放し、腰差しから何かを入れた革袋を取り出す。
「?!」
中から、紅い色の丸い何かを摘まみだす。
「これはとっておきだゾ」
そう言って、イリナはその赤い玉を飲み込んだ。
「あれって?!!!!」
ミリーがそれを見て震えだす。
「それは、なんなんですか! 何であなたがそんなものを!!!!」
「ミリー?」
突然叫び出したミリーに驚くリタ。
「ミリーどうしたの? あれが何かわかるの?」
「リタ姉ぇ、ごめん吐きそう」
そう言って、ミリーは嘔吐する。
「まさか、あれって?!」
胃の内容物を吐き出して、持ち直したミリーが答える。
「魔薬です。それも魔族の体から抽出した」
それを聞き、リタはカーラの紅い目を思い出す。
「うっ!」
「魔族の体そのものではありません。でもそこから抽出したものを使って作られた丸薬です」
魔術師の特殊な目がそれを見抜く。
リタも込み上げる吐き気を必死に抑えようとした。
「あんた! それが何かわかってんのか!」
女戦士の正気を疑う言葉。
「これはな、裏ルートで手に入れた魔薬だよ。ある特殊な魔物から造られるって話だ。何度か使ったがこれの効果はすごいぜぇ」
事実を知らずに使っている。
こんなものが出回っているとは。
「リタ姉ぇ! 私、こんなに怒ったのは初めてです!!!!」
ミリーの激情が伝わる。
「。。。あたしもだよ」
リタの目が、怒りのために細くなる。
「ぁぁぁぁああああはははっはぁ」
薬が回ったのかイリナが恍惚な表情をして笑いだす。
女戦士の体の形状が変化する。
髪の毛が逆立ち焔となり揺れる。
眼球がすべて紅く染まる。
皮膚が割れて炎が噴き出す。
噴き出した炎が何枚もの羽のように見える。
その体が空中に浮き、こちらを見据える。
その姿は天使とも悪魔とも見える人を超えた存在。
「あれは! 魔物化現象?!」
リタが叫ぶ。
「いえ、違います。」
即座にミリーが訂正した。
「上位魔法、精霊変化:火精霊の復活」
彼女は火精霊そのものになった。
精霊を使役する魔術師の究極の姿。
精霊そのものとなり無限の魔法を使いこなす。
今二人は火精霊と対峙している。
人ならざる者との闘いが始まった。




