カイル対ザジ
第三試合
カイルとザジの闘いが始まった。
お互い派手な立ち回りが好きな二人だが、立ち上がりは意外にも静かに始まった。
相手の出方を待つ、オーソドックスで玄人好みの様相を呈してきた。
最初に仕掛けたのはザジだった。
自らの戦闘経験に裏付けされた自信が、迷いのない一撃を放つ。
ザジの獲物は、自らの肉体と暗器を組み合わせた東方の隠密スタイルだ。
対してカイルは正統派のショートソードによる戦闘。
しかし、その一見、派手さのない闘い方は、裏を返せば堅実でどのような攻撃にも対応できた。
アインは以前カイルに長物ではなく敢えてショートソードを使う理由を尋ねた事がある。
「剣って武器は斬るものだろ?斬れればナイフでも敵を倒せるが、俺にとってはこのサイズが一番扱い易いからな。要するに使えるなら何でもいいんだよ」
カイルの闘い方は剣だけを使うスタイルではなく、剣は最後の留めに使う。
間合いの詰め方や剣戟での追い込み方など、剣士というより格闘家を思い起こさせる。
ザジとカイルはお互いに一歩も引くことなく、相手の斬撃を流し、打ち込み、時に蹴りや殴りと多彩に変化した。
見ごたえのある戦いに観衆が盛り上がる。
技術と実力、共に互角であり、相手を軽く見ていたザジに焦りが見えてきた。
大技で一気に仕留めようとザジが身を引いた瞬間、攻撃の隙を与えてしまう。
カイルはその隙を逃さず、連撃で攻撃態勢を取らせない。
ざしゅっ
カイルの突きがザジの左腕に決まる。
健を切るつもりが浅かったが、これでもう左腕は使えないだろう。
「ぐっ」
ザジは左腕をだらんと下げた姿勢でうずくまる。
「これでもう続けられないだろう。負けを認めな」
カイルは勝利を確信して戦闘終了を提案する。
「くっくく。。。ふふはははは」
ザジは何か吹っ切れたように笑いだす。
「お前を舐めていたことを謝るよ。ここからは本気の本気だ!」
ザジの懐から糸が吹き出し、負傷した左腕に巻き付く。
糸で止血され傷口が縫い合わされていく。
血で白い糸が染まり、急速に締め付ける。
動かないはずの左手が、今では白い糸で染まり元通りに動き出した。
カイルが驚き叫ぶ。
「あんた、糸使いか!」
「ああ、これが俺のとっておきだ!」
そう言うや否や無数の糸がカイルに襲い掛かる。
軽やかなステップで避けるカイルだが、その後を糸の束が襲う。
距離を取られ戦闘は一旦仕切り直しとなった。
魔力を糸に変えて操る糸使い。
この糸は数も長さも自在で、魔力操作が続く限り無くなることはない。
相手の懐に入るためには、無数の糸を掻い潜らなければならない。
魔力操作が出来ない戦士のカイルは、ショートソード一本で無数の糸を相手にする。
ザジが糸の束をカイルに放出する。
体に届いた時に巻き付き締め上げる。
ざしゅっ
だが、糸はカイルの体に届く前に切り落された。
「!?」
張られていない糸を切ることは、浮いた羽を切るのと同じようなものだ。
この男は、普通は巻き取られてしまう剣であっさりと糸を切った。
ショートソードはロングソードと違い重さで切る様には出来ていない。
刺突と精度での斬撃による切断を行う武器であり、より繊細な技術を必要とする。
斬るという一点において、カイルはすでに達人と呼べるまでに達していた。
カイルは糸を切り裂きながらザジとの距離を詰める。
ザジも糸での拘束をあきらめずに、放出し続ける。
カイルがザジに手が届く所まで近づくと、ふいにショートソードを手放した。
「がっ!」
「っ!」
ショートレンジでの殴り合いが始まった。
ここまで近づけば糸も剣も使えない。
素手ごろでの殴り合いに、観客は沸きに沸いた。
「てっめぇ!」
「こいやぁ!」
だっ!がっ!がしゅっ!
打撃音が鳴りやまず、二人の顔面が膨れるように腫れ上がる。
お互いに殴る力がなくなり、手を上げることも出来なくなって同時に倒れこんだ。
この大会では珍しい、ダブルノックアウトという結果に観客は歓声を上げて両者をたたえた。
。。。
離れて観戦していたサーニャは、途中からジンライと合流して様子を見ていた。
「あーあ、回収してこなきゃ」
サーニャは面倒くさそうに言って動き出す。
「まあ、これで少しは反省してればいいんだがな」
ジンライは敵の戦力分析が出来たことで怒りはおさまっていた。
「しますかねえ。あれが」
サーニャは、内心しないだろうなと思いながらザジの回収に向かった。
。。。
「次はあたしたちですねリタ姉ぇ」
ミリーは緊張してリタに話しかける。
「あ、ああ、そうだね」
リタは普段通り飄々としている。
「よう。アンタたちがあたいの対戦相手かい?」
ギザ歯、赤毛で戦士風の恰好をした女が話しかけてきた。
ビキニアーマーと部分鎧のみで体の線を必要以上に出しているが、視線誘導を目的にしているのではないことはその筋肉を見ればわかる。
男顔負けの見事な筋肉で盛り上がった体に、ミリーとリタは目を見張った。
「ちっこいのと細いのが二人だけで、本当にあたいの相手になるのかい?」
嘲笑を含むセリフを吐く女にリタが言い返す。
「二人がかりで悪いけど、手加減はしないよ」
「はっ!それはこっちのセリフだよ。試合が始まったら逃がしゃしないよ」
始まる前からバチバチと火花が走る。
女性同士の艶やかな戦いなど微塵も感じさせずに、次の試合が始まった。




