明日の先へ
「婆さん、いるか?!」
駆け込んできたカイルに何事かと驚くナージャ。
村長の家で待機していた所に、気を失ったアインを抱えたカイルが飛び込んできた。
村長夫婦も驚き、客室のベッドを貸してくれた。
少年を横たえてから、事情を説明するカイル達。
「叔父さんがそんなことを。。。」
村長はいつも穏やかな老夫婦が、こんな小さな子供が倒れるほどの仕打ちをしたことが信じられない様子だ。
「なあ、婆さん。アインの母親はアンタの弟子なんだよな?」
カイルが納得できない顔をして老婆に聞く。
「俺も彼の話を聞いて、アインの母親の行動がおかしいと感じた。そう思われても仕方がないと。一体何が目的で行動してたのかアンタにも分からないのか?」
老婆は煙管を取り出し煙草を詰める。
「以前話した通り、その頃のアリーシャとは袂を分けておる。あやつの行動の目的など見当もつかんよ」
母アリーシャがここに来た当時は、魔女の継承の儀式を拒否して出奔した後の事で、ナージャはそれによって評議会の地位を追われている、いわば被害者と言えた。
ナージャは煙管を指先で撫で、煙草に火をつける。
「冒険者として学舎から離れてからの間、あの娘に何があったのか。。。」
アリーシャはもう居ない。真実はその死によって謎となった。
「そもそも、「アイン」なんて数え言葉を子供の名前につけるのも変じゃないか?」
数え言葉?
俺の元居た世界では確かに「アイン(ein)」というのはドイツ語で1の意味だが、この世界でも似たような意味を持つのか?
思えば、この世界で使われる文字や言葉の意味は、元の世界と類似する点が多い。
今まで意味が分る事に疑問を持ってなかったが、同じ言葉に感じる内容に違いは無いということか。
「何にしても本人がもうこの世にいないのなら確かめようがない」
老婆の真っ当な意見に皆黙るしかなかった。
。。。
「う。。。」
少年が目を覚ます。
自分が置かれた状況を理解する。
「。。。アイン、起きれるか?」
カイルが気遣って声をかける。
少年はカイルの顔を見て、先ほどの状況を思い出す。
「ぅぅぅうううああああああああん!!!!」
祖父の言葉を思い出し、少年はカイルの胸に顔をうずめて号泣した。
カイルは少年を抱きしめて、じっとしている。
こんな時にかけてやれる言葉は、彼には思いつかない。
その代わり、一緒に背負ってやると言う気持ちが伝わるように強く抱きしめた。
泣き声が嗚咽に変わり、落ち着きを取り戻した頃、少年から体を離した。
「落ち着いたか?」
「。。。うん」
カイルは少年の目を正面から見て誓う。
「。。。アイン、俺たちは、何があろうとお前の味方だ。これだけは覚えておいてくれ」
「うん。。。ありがとう。カイル兄ぃ」
以前は坊主の隣には俺しかいなかった。今、坊主は一人じゃない。
それが確かな力になっていることに、俺はほっとしていた。
。。。
一行は村長に礼を言い、一度宿に戻る事にした。
村長は憔悴しているアインを慰めて言葉をかける。
「あまり、気を落とすな。。と言っても無理かもしれんが。気休めかもしれないが祭りを楽しんでいってくれ」
それを聞いたカイルが、何かを思いついて村長に聞く。
カイルが思いつきを口にする。
「なあ、今年の闘技大会の参加は可能かい?」
「ああ、今年は参加者が少なくてな。枠ならまだ余ってるぞ」
カイルがにかりと笑う。
「なら、俺たちも参加させてくれないか?」
「俺、たち?」
「そう、参加するのは、俺とこいつだ」
アインの肩に手を乗せて前に押し出した。
「。。。ええええええ!?」
アインは驚きで涙が引っ込んだ。
「あんた何考えてんの!?」
リタがカイルの頭をはたく。
「なあ、にいちゃん。さすがに、子供を参加させるわけにいかねぇよ」
村長は当然渋ったが、カイルは引かずに押し通す。
「アンタは知らんかもしれないが、こいつは俺たちのパーティの要だぜ。そこら辺の大人相手なら束になってもこいつには勝てねぇぞ」
「。。。じゃあまずは俺を納得させてからだ」
村長も腕に覚えがあるらしく、少年の実力を見たいと言い出した。
一刻後、それが事実だと知る。
二人の参加が認められ、ナージャは「ふぅむ」と考え込む。
そして、「ミリー、お前も参加しなさい」とミリーを見て言う。
「。。。師匠、本気ですか」
「うむ、これも修行と思ってやってみなさい」
「あ。あた、私魔法使いですよ!? 無理ですって!」
ミリーは必死に抵抗する。
「リタ、この子を手伝ってやれんか?」
「。。。あたしも出るのかい?」
突然巻き込まれるリタ。
「村長、2人で参加は出来るか?」
「まあ、祭りの余興だ。華は多い方が盛り上がるからな、いいぞ」
こうして、一行は闘技大会に参加する流れになった。
アインが、焦った顔でおろおろしている。
カイルが、リタとミリーに詰め寄られ、二人の苦言を笑って取りなしている。
先ほどまでの重い空気が一変した。
俺は、もし、これを狙ってたとしたら、大した男だとカイルを見ながら感心した。




