怪しい店
「はあ、そんなことがあったんですねぇ」
ビドゥと合流した一行は、酒場で夕食を兼ねた遅い昼食を摂っていた。
「こちらの事情はともかく、その店の店主とは渡りがついたのか?」
「へぇ。そっちは問題なく。アインさんのことを匂わせたら驚いてましたよ。祭りの間は時間があるので、夜、人目につかないように店に来てほしいと」
「手間を取らせたな。これは礼じゃ」
ナージャは金貨の入った革袋をビドゥに渡す。
袋を検めて驚いたビドゥが確認する。
「いいんですかい?こんなにもらって」
「判ってると思うが。。。」
口止め料も含んでいることに、ビドゥが納得顔で頷く。
「他言無用ってことですな。承知しました」
「これでお別れなの?」
しばらく旅を共にして、仲間意識が芽生えていたアインが寂しげに問う。
「坊ちゃん、人に別れは付きものですが、今生の別れって決まったわけじゃねぇ。巡りがよければまた会うこともあるでしょう。その時はまた宝石商ビドゥを御贔屓に」
カラっと笑い、別れの挨拶をして席を立つ。
カイル「またな」
ミリー「さようなら」
リタ「悪さすんなよ」
「姉さんはきついなあ」
ビドゥはひひっと卑屈に笑って店を出て行った。
。。。
その夜。
村の古着屋で買い揃えておいた服に着替えて、指定された場所へ向かった。
村の奥の路地裏にその店はあった。
看板などは出ておらず、知らなければそこに店があるとはだれも気付かない。
木の扉を開けると、地下への階段が現れた。
アインは恐る恐る階段を降りる。
店の中は暗く、ランタンの明かりだけが周りを照らす。
商品は陳列されておらず、カウンターだけがある。
間違ってここに入ってきても、何かの商売をしているようには見えなかったろう。
奥から人が出てきた。
「待ってたよ、あんたらがビドゥが言ってた連中かい?」
フードを被っているので姿は見えないが、声は意外にも若く、男性のようにも女性のようにも聞こえた。
「ああ、そうじゃ。門の向こう側について詳しく聞きたくての」
「あんたは。。。魔術師かい?」
「よく判ったのお」
ナージャは今は普通の村人の格好をしている。
「匂いでな。。判るんだよ」
店主は、ふんと鼻を鳴らして言う。
「それで、その子が例の?」
店主の視線は先ほどからアインしか見ていない。
「そうじゃ、お主たちにとっても特別な子じゃろ」
アインがフードを取って顔を見せる。
「っ!」
店主が前に出て来る。
急な動きに、カイルとリタが戦闘態勢に入ろうとしたが、店主はその場でフードを取って跪く。
「その髪、その精霊力。間違いございません。王の系譜とお見受けします」
店主の急な変わり様に驚く。
「あ、あの」
アインは驚いておろおろしている。
店主の姿は背が高く、肌は褐色で線が細い男性のように見えたが、よく見ると短髪の女性だ。
ただその眼だけが、精霊に形質を変えられた魔族であることを示すように、眼球のすべてが赤くなっていた。
「お名前をお聞かせいただけますか」
「アイン」
アインが名乗ると、今度は自分の名を名乗る。
「私は、この地で火守役を仰せつかりました。カーラと申します」
ナージャが口を出す。
「カーラとやら、この子も慣れておらんで、傅くのは止めてくださらんか。アインも普通に接してもらうのが良いよな?」
少年は、うんうんと頷く。
「。。。そうですか。それでは失礼ながら、アイン様のことは坊ちゃんとお呼びします」
慇懃な態度が抜けないが、まだましだろう。
「それで、お前たちは坊ちゃんとはどういう関係なんだ?」
態度をまるで変えて老婆達を見据える。
「わしらは、ここまでこの子を保護して連れてきた者じゃよ」
「それにこの子の母親と縁があっての」
「。。。」
カーラは無言で後についてくるようにと、奥の部屋に全員を誘った。
奥にはテーブルがあった。六脚の椅子が備え付けられた大きなものだ。
カーラが椅子を勧め、それぞれに座った。
全員が席に収まってから、カーラが最初に会話の口火を切って話し出す。
「これまで、坊ちゃんがいろいろと世話になったことには礼をする。これからは我々がお守りするので、貴殿らはこのまま立ち去るがよかろう」
慇懃な言葉で、一方的に話を進めるカーラに老婆が慌てて口をはさむ。
「いや、それはならんよ。わしらは魔族領への入り方を聞きに来たのであって、この子を渡す気はないぞ」
カーラは鋭い目で一瞥する。
「お前は魔術師だろう、魔術師に坊ちゃんを渡すことなどありえん」
「言いたいことは分かるがのぉ。。。」
カイルがイラつきを抑えた声で、
「なあ、ねえちゃん」
「。。。なんだこの無礼な男は」
「口が悪いのは謝る。だが、事情も聴かずに子供を攫うって言うなら、こちらも容赦しないぞ」
その言葉に殺気を感じて、カーラの目が細くなる。
「ほほお」
「やめてよ!」
アインが叫んだ。
全員の注目が集まる中、カーラの目をまっすぐに見てアインが話す。
「カーラさん、僕は皆と別れるつもりはないよ。これまで一緒にここまで戦ってきた仲間なんだ」
「ですがっ!」
少年の決意をその眼差しから感じ、言葉を飲み込む。
「。。。ですが、それを決める前に、私の話をお聞きください。それでもこの者たちと袂を共にすることが正しいかお考え下さい」
カーラは、皆にそのまま待つように言って席を立った。




