村の事情
村長の家でナージャ達と合流したアイン達は、次の日に出直すことになったと伝えた。
カイルは魔術師に異常な反応を見せた老婦人の事が気になり、村長に聞いた。
「あの時、どうして夫人はあそこまで魔術師だからと怒りをぶつけたんだろう。訳が分からない。村長は理由が分かるかい?」
「。。。」
村長は言葉に出す事を逡巡する。
結局、ダンの息子には、不当な扱いを受ける理由を聞く権利があると彼は判断した。
「これは、代々村長や村の運営に携わる一部しか知らないことだ。他言はしないでくれ」
「坊主に関わると決めた時から、何があっても守ると誓った。理由がわかるなら他言しないことを誓おう」
ナージャのその一言で話を聞くことに決めた。
「魔王の事はどこまで知っている?」
「森人の長に大体のことは聞いているぞ」
「なら、今伝わっている魔王の風評が間違っていることも知ってるんだな」
「ああ」
かつての魔王が、この世界を救おうとしていたことを知るものは少ない。
「俺たちの祖先は最後まで魔王に突き従った。そのせいで人類圏への復帰が遅れてな。ひどい扱いを受けたらしい」
「森人のように関係を断っても生活できるなら、そうすることも出来たんだろうが。俺達にはそれは難しかった」
獣族は主に狩猟を生業にしており、農耕の技術がなかった。
そのため、肥沃な大地が在っても、それを有効に活用できなかった。
「俺たちの祖先は人の助けがどうしても必要だったんだ。その為に選択を迫られた。。。」
魔王を悪と認めるか
当時の村は意見が二分した。それはそうだろう、これまで信奉してきた王を裏切る行為だ。誇り高き獣族に、その選択は精神的な死を選べと突き付けられたものだ。
「爺さんたちは悩んで、そして。。。屈したんだ」
村長の歯がきしむ音が聞こえる。
村をまとめるために、王を悪逆非道と貶めることを選んだと。
当時の魔術師は、王の代わりに自分たちが人類を導くことに焦っていた。
半ば強引に元魔族の陣営を人類圏に引き入れるため、無茶な交渉が進められた。
戦後の世が乱れている時期に、一番王を信奉してきた部族が間違いを認めた。
それは未だ恭順しない他の部族の人類圏復帰を早め、魔術師評議会にとっても歓迎された。
人類との協力体制が整い、村はどんどん発展していった。
だが、誇りを傷つけた魔術師に対してのわだかまりは消えなかった。
そうならざるを得ない事は理解しても、感情を抑える事はできない。
この村では、事情を知る人ほど魔術師は忌避される存在とされてきた。
そして、村長の息子を拐した女は魔女だった。
「俺とダンは親友だったんだ。村長親子とも仲が良くてな。孤児だった俺を家族のように付き合ってくれた」
村長が目を懐かしそうに細める。
「冒険者になって武者修行をしたいと言い、出て行ったあいつが女を連れて戻ってきた。
その時見た彼女の印象は、年の若さに似合わぬ色香に満ちていて、若い男は一目で目を奪われていたよ。」
ん?
俺が知っているアリーシャは、確かに美人だったが幼さを残した可愛らしい女性だった。
村長の語る印象とのあまりの違いに混乱する。
それは彼女の他の一面を表すものか、だが数年を一緒に過ごした俺にはそんな彼女の姿を想像することが出来なかった。
「俺もその時、彼女が悪いようには見えなかった、しかし、叔父さんは違った」
当時の村長は息子が連れてきた女が魔法使いと知るや、なにかをしたようだ。
それが何かはわからないが、当時の村長だけはその女に向かって、
「この魔女が! 息子をたぶらかしおって! 夫婦になることなど絶対に許さん!」そういって引かなかった。
「その後、ダンが村を出て行ってな。それ以来一度も戻ってきてない。。。。ダンはどうしてる?」
アインに尋ねるが、答えは判っているようだった。
「。。。」
少年は無言で俯く。
「そうか」
村長も親友の死を察して上を向き、涙を堪えていた。
「俺が話せるのはこんなところだが、叔父さんや叔母さんが怒る理由は、他にもあるのかもしれない」
落ち着いて話を聞いてもらえるようなら、話してみるといいと助言してくれた。




