転送門の先へ
ビドゥは馬車の中で、戦いの音が止むのを震えて待っていた。
一度ものすごい破砕音が聞こえ、馬車が衝撃で揺れた。
その後、ずっと続いていた木が擦れる不気味な音と、何かがぶつかり合う音が消えた。
そぉっと馬車から顔を出すと、真っ白な蒸気に覆われて周囲の様子が見えない。
恐る恐る馬車から降りて、一行の姿を探す。
「みなさ~ん、御無事ですかあ?」
むせ返るような蒸気と木屑が漂い息がしづらい。
白い靄の先に人影が見えた。
声をかけようと近づくと、人の姿を模した木の魔物だった。
「ひぇええ」
ビドゥは腰を抜かし後退る。
魔物は動きを止めて、棒立ちになっている。
「何を、びびっておる」
後ろから老婆の声がかかる。
「ひっ!」
急に声をかけられて、心底驚いた声を上げる。
「脅かさないでくださいよぉ。それにしてもこれは」
「本体が倒れて、すべての樹人形が動きを止めたんじゃ。もうただの木じゃよ」
よく見ると、そこかしこに樹人形が立っていた。
これらの魔物が、いずれは再びあの巨大な木に成長するのだろう。
「おーい、皆無事かぁ?」
カイルが安否を確認している。
「アインどこだー?」
「こっちでーす」
少年は、ガーディアンの残骸に埋もれたまま返事をした。
カイルが残骸をかき分けて少年の元に向かう。
未だ、そこかしこの残骸から水蒸気が上がっている。
木屑の山に埋もれているアインの手を取り引き起こすカイル。
「中でこれを見つけた」
少年の手を見ると、真ん中に紅い宝石をあしらった金属板を持っている。
カイルはそれを受け取りしげしげと見つめ、
「これもしかして、さっき話に出てたお守りか?」
リタとミリーも少年の無事を確認するために集まってきた。
「どーしたのぉ?なにかあったの?」
森を流れる風によって徐々に周りの風景がはっきりしてくる。
ナージャとピドゥがこちらに来るのが見える。
戦場跡は巨木の残骸が散乱している。
打ち倒された樹人形が数十体横たわっており、主が倒れ無力化された何体かは立ったままで停止している。
全員が集まった所で、ピドゥに金属板を見せる。
「あっ!それですそれです、あたしが無くしたお守り」
ずうずうしく、手を伸ばそうとするピドゥの手を叩く。
「これは森人に返却すのが筋じゃろう」
ナージャは広場の入り口に戻り、呪文を唱える。
「錬成聖なる祠」
石造りの小さな祠を作り、お守りを安置した。
。。。
広場の奥まったところに祠が見える。
一行は馬車に乗りそちらに向かった。
大きな石灰岩の3つの柱が、それぞれを支えている。
「これって。。。精霊の祠?」
ミリーが、自ら試練を受けた祠に雰囲気が似ている事に気付く。
ナージャがそれに応えて
「おそらく、同じ時代に建てられたものじゃろう」
大陸に点在する祠には転送門としての機能は失われており、ここにある物も転送先が限られている。
長い時の中でその役割が失われていくのであれば、ここもいずれは遺物として眠りにつくのだろう。
「確かこのまま進めばいいんだったよな?」
カイルが経験者のピドゥに確認する。
「ええ、馬車に乗って進むだけで向こう側に辿りつけやす」
アインは森人の里に別れを告げるべく、後方を見た。
最後に里長が言ったことを思い出す。
「アイン様がこれから進む道は、かつての王が辿ろうとした道かもしれません」
「それはかつて、私たちの希望であり夢だった道です」
「どうか、正しき道をお進みください。王も、きっとそれを望むはずです」
「アイン様が王道へ至ることを祈っております」
戦場跡に風が吹いている。
彼らの旅を壮行するように、木々の葉や草が舞っていた。




