鎮守の樹霊
「ひぃぃぃ」
ビドゥが転げながら馬車に逃げ戻る。
現れた人型の魔物は100体を数える。
5人各自が申し合わせていたように配置に着く。
「錬成土塊戦士百の尖兵」
ナージャの詠唱が完成し、力ある言葉を発した。
次々と、土の兵士が現れ隊列を組む。
「露払いはしてやる、お主たちは本体をねらえ!」
「助かる!」
カイルは珍しく手助けをする老魔術師に礼を言い、走り出す。
リタ、アイン、ミリーの順でそれに続く。
走り出すと同時に俺は坊主の「纏い」と化して一体となる。
髪が輝きだし戦闘準備が整った。
ナージャが土の兵士を指揮する。
「かかれ!」
100体の土人形が各個に魔物と立ち向かう。
魔物をうまく誘い込み、陣形を作る。
魔物を4人に近づけないように、全体が一つの生き物のように陣形を変えながら100体の魔物を抑えている。
先に向かったカイルが、横目で老婆の手練を見ながら感嘆する。
「さすがだな」
魔物を一体も逃さずに自陣に引き込むその技術に舌を巻く。
「風の帳!」
ミリーの力ある言葉により、見えない風の鎧が全身を覆う。
衝撃を弱める防御魔法は全員の命綱だ。
そして、カイルが敵の親玉の近くまで迫る。
最初と同じように根がうねりだした。
今度は、体ごと強引にねじ込み道を切り開く。
木の根を、剣ではじきながら前へ進む。
すると、根の攻撃に加え蔓が剣を絡めとろうと伸びてくる。
リタはそれを見透かし、投げナイフで切り落とす。
前衛二人が、魔物の気を引いてる隙にアインとミリーが大技の準備を始める。
「癒しの翠風」
ミリーが力ある言葉で魔法を発動する。
「癒しの風」の上位魔法、「癒しの翠風」が少年の体を包む。
一部位の回復効果が持続する癒しの風と異なり、癒しの翠風は少年の全身に効果を発揮する。
黒梟との戦いの反省を生かし、ミリーが修練を重ねた結果得た上位の魔法だ。
これにより、技の途中で撃ち落とされた時もダメージが回復され、すぐに戦線復帰が可能になった。
おまけに、「纏い」状態での継続時間を飛躍的に伸ばすことができた。
30分が限界だった継戦能力が、この魔法をかけ続けることで時間制限をほぼ無視できるようになった。
技の発動準備が済んだと見るや、俺と坊主は翠脚鞭を打つべく動き出す。
カイルが堅実な剣さばきで襲いかかる根を切り裂く。
若木の幹よりも太い根を、ショートソード一本で切り落とし続ける。
この男の技量も並の戦士では無い。
リタはカイルの動きを邪魔しに来る蔓を、的確に狙って投げナイフを命中させる。
この二人の息のあった攻撃は、まさに比翼連理と呼べる見事な連携を見せた。
カイルは根を切り払い、戦闘を続けながら、じりじりと敵との距離を詰める。
アインの技の射程距離を測る。
(あと、一歩、半歩、ここ!)
「いまだ!やれアイン!」
「はぁっ!」
カイルの合図により、アインが気合を込めた声を発して技を放つ。
前衛の二人を壁にして、その影から上空に躍り出た。
脚のしなりに乗せた、爆発的な波動の力を魔物の中心に叩き込む。
パァン!
空気の壁を打ち抜く鮮烈な音が響く。
翠脚鞭の凶悪な破壊力。
ずががぁぁぁ
木屑が飛び交い視界を奪う。
衝撃波が魔物の体を粉砕し、巨大な穴を穿つ。。。
だが、それは魔物がどこからか引っ張ってきた枯木に阻まれる。
身代わりとなった枯木は、砕け散り辺りに木片を撒き散らす。
アインは反動によって体を高速回転させ宙に浮かぶ。
勢いで上空へ登っていく。
それを絡めとろうと、魔物の蔓がアインに迫る。
貫殺乱爪投げ
リタは、手持ちのすべての投げナイフをアインに迫る蔓へ飛ばした。
しかし、残った本数では、すべての蔓に届かない。
「つむじ風!」
間髪入れずにミリーの力ある言葉が響く。
小さなつむじ風が十数個、アインに向かった。
そして、捕えようとしている蔓をつぎつぎに切り裂いた。
風の初期魔法とは思えない攻撃力にリタははっとした。
「私のあげた金属粉か」
つむじ風は魔法使いが最初に覚える低級魔法で攻撃力は皆無だ。
ミリーは、これにリタがナイフを削るときに出た金属粉を混入させた。
それは回転する刃と化して魔物の蔓を切り裂いた。
空中で回転しながらアインは、邪魔が入らないことに感謝する。
地上では皆が助けてくれている。
そして、カイルが根の最後の一本を切り落とした。
「いけ!アイン!」
「やって!」
「アイン!」
(坊主!いけぇぇぇぇ!)
アインは修行と戦いの日々により技を練り上げていた。
一本目の矢が不発に終わった場合に二本目の矢が襲い掛かる。
反動からの回転。
上空からの落下による加速。
それらすべての力を上乗せし、翠脚鞭の波動に乗せる。
上空からの踵落とし。
翠脚鞭二連 斧
「ぃやぁぁぁぁぁぁぁぁぁ!」
アインの気合が迸る。
魔物へ向かって緑色の臨光を纏う斧が振るわれる。
パァン!
衝撃が魔物を打ち抜く。
ギギャァアアアギギィィ
悲鳴のような木がこすれ合う音。
波動は魔物の内部から破壊を生み、雷に打たれたように魔物の体が縦に引き裂かれる。
音速の振動エネルギーの一部が、内部の水分を激しく摩擦し、一瞬で熱に変わる。
魔物内部の水分が沸騰し、急激に膨張した水蒸気の体積で爆発したように自壊が進む。
ドッシュオォォォーッ!
亀裂から水蒸気と木片が、爆煙となって一気に溢れ周囲を白い霧で覆う。
ドッシャァァァァーー!
自重に耐えきれなくなった、その体はめきめきっと音を立てて崩れていった。
威容を誇った巨木はそこに無く、残るのは無残に引き裂かれた残骸だった。




