魔物化
どっから話せばよかっぺかねぇ
王様さ会ったんは、俺が今のアイン様とおんなじ背格好だった頃だっぺ。
金髪のハーフエルフが来たっつーから、馬鹿にしに行ったらよ、思いっきり殴られたんだぁ。
ハーフだとか耳が短いとか肌の色が違うとか、そんなくだらねーことで人のことバカにすんじゃねえっつーて。
おんなじように馬鹿にしてた大人も子供も、一緒になってぶっ叩かれてよ、大喧嘩になったんだっぺ。
だっけど不思議なもんでよ、そのあとはみんな、あの人のこと好ぎになってたんだぁ。
「なぁ、王様ぁ。王様ってなんなんだ?」
ガキだった俺にはよ、それがよぉーぐわがんねっけから、聞いたんだぁ。
「ウェンの家で一番偉いのは誰だ?」
王様はよぉ、俺のことをいっつもその名で呼んでくれたんだぁ。
「父ちゃん」
「それより偉いのは?」
「母ちゃん」
「。。。じゃあこの里で一番偉いのは?」
「長のじっちゃんかな」
「王ってのは、その長より偉いんだ」
「えぇぇ?」
「里長の爺さんも他の村や里に行っても偉いわけじゃないよな」
「。。。うん」
「王様ってのは、他のすべての里や村の長より偉いんだ」
「なして、そんなもんになりてぇんだぁ?」
「お前、初めに俺と会った時ハーフだからってバカにしたよな」
「うん」
「そん時、俺に殴られただろ」
「うん、痛がった」
「悪いことしたら殴られるのが当たり前だろ。そうしないと気が付かないことだってある。お前も今はハーフだからってバカにする事をやめたろ?」
「んだな」
「大人だって偉いやつだって間違えることがたくさんあるんだ。そんな時にぶん殴ってやるやつがいる。俺はそのために王になるんだ」
「そしたらよ、王様はみんなの父っちゃんになんのけ?」
王様は笑って「そうだ」と言っでたよ。
俺はそんな王様が好ぎでよ、ちょこちょこ後さっついて回ったんだぁ
王様はこの里ばっかりじゃなぐ、いろんな所を旅して周ってたんだぁ。
獣族だの巨人族、土穴族だの草人だの、大陸中を周っては、おんなじように仲良ぐなっちったんだっぺよ。
だっけどよ、ある辺境の村で見ちまったんだぁ。酷い目に遭わされて、逃げてきたもんをよ……。
。。。
その村は、廃村になって何十年も人のいない場所だった。
異変は近くの村の猟師がたまたま人影を見かけたことが最初だった。
その時王は猟師の村に逗留しており、猟師から様子のおかしい連中がいると聞いてその廃村に出向いた。
そこにいたのは、人と少し違った部分を持つ異形の者たちだった。
腕が半ば羽と同化したものや、体の大半が石になったもの。
髪が炎のように揺らめき体も部分的に焔になったもの。
全身が水のように透明な者もいた。
同行した村人は驚き、殺そうとしたが王が止めた。
仲間を守るためだろう、石のような男が前に出て威嚇する。
王はその時こう言った。
「助けが必要なら助けよう。喧嘩がしたいなら買ってやる。どちらかを選ぶがいい」
「俺たちを助けてくれるのか?」
畏れを含む声で聞く男に、王は当たり前のことのように言う。
「助けを求めている者を助けないはずないだろう?」
涙を流して石の男が言う。
「。。。俺たちを、皆をたすけてくれ。いや、ください」
王は村人に治癒師と食事の準備をするよう指示し、自分はその人たちの状況を見るべく近づいていった。
ある顔の半分が植物になった女性が助けを求めて王に近づく。
「この子を助けてください。もうずっと動かないんです」
その女性は胸に石の塊を抱いている。
よく見ると、石の塊だと思ったそれは呼吸するようにうごめいている。
王が手を触れると、石で覆われた部分が剥がれ落ち、徐々に赤子の姿を現した。
その場にいたものはその奇跡に驚き、母と思われる女性は涙を流して喜んだ。
改めて、その場にいる人数を数えると30人ほどいることが判った。
「事情の分かるものは俺に説明を、ほかに動けるものは治療と食事の準備を手伝ってくれ」
王の指示により、異形の人々が動き出す。
人の廃れた廃村は炊き出しの煙で活気づいていた。
最初に王と対峙した石の男に事情を聴く。
お前たちは何者でどこから来たのか王が問う。
「俺たちは川向うに住んでいた、普通の人間だったんだ。」
ある日突然、姿が変わってそれまで一緒に暮らしていた人々に追い立てられてここまで来たという。
「川向こうか。。。」
大陸の西と東は巨大な川で分断されている。
その時代の川には、凶暴な魔獣が多数生息しており、王もそれを越えることは出来ていなかった。
彼らはそれを渡ってきたという。
どうやって渡ったか聞くと、筏や船を作りそのまま渡ってきたという。
魔獣は遠巻きに見ていただけで、避難民を襲うことはなかったそうだ。
川を越えた向こう岸では人々は争いの日々を送っている。
魔法による略奪が日常茶飯事で、自分たちの身を守るために強力な魔法で対抗する。
魔法使い同士の争いに巻き込まれ、弱い普通の人間が死んでいく。
そんな毎日が続く中、人々の間に奇妙な病気が流行りだしたという。
ある日、自分の体に異変を感じると、石や角など人の体には無いはずの異物が現れる。
その次の日には別の個所に、次の日もまた次の日も。
そうして、元の姿を失っていく。
。。。
「魔物化現象」
ミリーが口をはさむ。
「それはよ、普通の人間が勝手に付けた名前でよ、中身をこれっぽっちも表してねぇんだぁ。いっちゃける(腹が立つ)けどよ、今じゃそっちの呼び方の方が広まっちったんだぁ。正しくは、『精霊過剰飽和症候群』っつーんだっぺ。」
。。。
石の男は自分の体を指して言う。
「この体を見てくれ、今では、ほとんど石に覆われて、普通の人間だったと言っても信じてもらえない」
男の体は石に覆われて、人の肌だった部分は顔の周りの一部だけが残ったのみだ。
「すこしいいか?」
王は男の体に触れた。
先ほどの赤子のように何か起こるのではないかと。
触れると同時に男の体を覆っていた石は崩れ剥がれ、人の姿が現れる。
すべての、石を取り除くことは出来なかったが、普通の人間の面影が分かる程度には戻った。
男は驚き「あんた、いったい」
王は、自分でもこんな能力があるとは知らなかったという。
「良くはわからんが、これで、人の姿に戻せるなら少しでも役に立ちたい。症状の酷い者から連れてきてくれ」
男は頷き、避難民を順番に王の元に連れてきた。
人々は完全ではないものの、元の姿に戻ることが出来て泣いて喜んだ。
そして、その奇跡を与えてくれた王に感謝した。




