新技への道
正式に修業が認められた。
アインはナージャの目の前で技を披露することになった。
これまで通り、「纏い」による身体強化と魔術ブーストを行う。
「いきます」
アインが緊張しながら技に入る。
踏み込みを行い魔力シリンダーを形成する。
シリンダー内部で圧縮された力により、脚が内側から熱くなる。
振り抜かれた脚が標的を捉え、同時にシリンダーが全開放するその瞬間。
ぽゆん
と間抜けな音がしてアインは透明な水の玉に包まれた。
いつの間にかナージャが水の結界を発動していた。
「そこまでじゃ」
バシャァ
技の途中で水球に閉じ込められたアインは、蹴りを放つ体勢で地面に落とされた。
「どれ見せてみろ」
ナージャは脚の状態を確認する。
脚から陽炎のような蒸気が上がっている。
だが、前回ほど血管の膨張は見られない。
「なるほどな、これだけの威力の理由がわかったわ」
ナージャは虚空を見つめ忌々しげにつぶやく。
ばれた?
老魔術師は、その場でいくつかの改善点を口にした。
早速それを修行に取り入れる計画を立てる。
アインはゴンザと共に蹴りで正確に目標を貫く練習を始めた。
足のつま先の一点で相手をとらえるために、針を通すような正確さが求められる。
拾ってきた石をゴンザが放り投げて、アインが足の親指で触れる。
慣れてきたら、蹴りの動作を加え石を指先で蹴る。
少年が2回目に打った蹴りは明らかに失敗だった。水面に飛び込むときに、足先から入るのと体を打ち付けるのではダメージが違うのと同じで、音速域では空気の壁は水面と同じになる。これについては、ゴンザが気づいて指摘し修行方法を変えることになった。
より深刻なのは、魔術による身体操作の方だ。
ナージャによると、踏み込みの瞬間、脚に構成される魔力のシリンダーで力が圧縮収束されていることが魔力の流れを見ればわかるそうだ。
問題なのはその力を全開放するタイミングで、つま先が目標に当たるその直前でなくてはならない。
一瞬でもずれれば、少年の足に反動が返って脚がズタズタになる。
もう一つは足先の保護。その一瞬の衝撃に耐えられるだけの強度を魔法により加える必要がある。
ミリ秒以下の精度を求められるそれは、音ゲーで慣らした程度の俺じゃ到底太刀打ちできない高難度の無理ゲーだ。
「こんな、もろ刃の剣のようなやり方をだれがどうやって編み出したのか」
ナージャが怒りをあらわにして虚空に毒づく。
偶然なんです。
かんべんしてください。
見えないと知りつつ土下座する俺。
どう考えても人間が知覚できる領域じゃない。
ぼーっと坊主の修業を見続ける。
ん?まてよ、今、俺人間じゃないのか?
普段から前世の体のつもりで過ごしてきたけど、体が大きくなったり坊主に憑依したり、これってもう人の領域じゃないよな。
思い付きで、坊主の体の状態を細かく感じてみる。
ほんのりと髪が輝きだす。
すると、心臓の音、血の通う音から筋肉のきしむ音まで聞こえてきた。
深く、もっと深く、細胞レベルまで。
そうしていると、神経に走る電気信号の一瞬まで捕らえることができた。
坊主が石を蹴る。
そのかすかな感触がつま先に伝わる。
指先の触覚受容器が受けた刺激を、末梢神経が電気信号として脳へ伝える。
脳に届くよりも早く、俺はその瞬間を捕らえる。
パシィ
石がはじけた
修行に集中していたアインはビクッとして驚いている。
瞬間的に、力と化した魔力が足先から漏れ出たようだ。
これなら、俺でも修行になる。
こうして、坊主と俺の修行は続けられた。
この修行はどんどんと変化を加えられて、今ではどのような場所や体勢で放られた石も確実に蹴り弾けることが出来るようになっていた。
その頃になって、ナージャから次の課題を申し渡される。
魔力のシリンダーを開放しても内部の熱すべては放出されない。そのため全開放で失う魔力の残滓で内部にこもった熱を取り除く必要がある。
圧縮し発生した熱を、少しずつ魔力の粒子に変えて放出する必要があるという。
老魔術師が弟子を連れて現れる。
「ミリーや、こっちにおいで」
「はい」
「アイン、魔力で圧縮の準備をしてみせよ。力は溜めずにな」
「?」
言われたとおりにしてみる。
「ミリー、やってみなさい」
「はい、師匠」
ミリーは自分の杖を取り出し、詠唱を行う。
「癒しの風」
魔法は完成し、アインの脚に巻き付くように緑色の風が渦巻く。
そして、無色透明だった魔力シリンダーが翠緑色の輝きを放ちだした。
「その状態で技を放ってみなさい」
老婆の許可が下りて、技のモーションに入る。
踏み込みを行い、目標の直前でシリンダーをパージする。
緑色の臨光が光の粒子となり熱とともに空に消えていく。
打ち終わった後に、焼損の痕はなく少年の脚は普段と変わらぬ健脚を見せた。
「うまくいったようじゃな」
ナージャが種明かしをしてくれるようだ。
「坊主の魔力操作で作った圧縮筒は、そのままでは力をためるだけで、坊主の体を破壊してしまう」
「癒しの風」は、回復を継続してかける中級魔法で、ミリーが新たな杖を手に入れたことにより使うことが出来るようになった。
これにより魔力シリンダーによる強烈な力の爆発による自壊を防げると考えた。
「魔術には複数の魔法をかけ合わせて効果を変化させる技がある。今ミリーが使ったのがそれじゃ」
魔力シリンダーと癒しの風が溶け合った効果により、全開放で痛みや熱を魔力の粒子に変えて消え去ることが出来た。
アインが杖の形状が以前と違うことに気付く。
「ミリ姉ぇ。その杖」
ミリーがへへっと笑う。
始めは反対していた姉貴分が、協力してくれることがとてもうれしかった。
「ありがとう。ミリ姉ぇ」
残る問題は。。。
この技のもう一つの欠点。
たとえ、成功しても体ごと後方へ吹き飛ばされることへの対策がまだだった。
「ああ、それならさ。こうしたらどお?」
リタが思いついたように提案した。




