旅立ち
惨劇の後、少年が前を向いて歩きだすまでのお話です。
守護霊である主人公は、思いを伝えることが出来ず祈ることしか出来ません。
あの惨劇から幾日かが過ぎた。
少年は未だに言葉を発していない。
少年の意識が戻ったのは裏山から遠く離れた狩猟小屋だった。
そこまで俺が歩いてたどり着いた。
追手は見ていない。うまく逃げられたと信じたい。
その場所は父親が猟師と会話していたことを思い出して知った。
ここにいれば、その猟師が来るのではないかと期待していたのだが当てが外れたようだ。
村は全滅に近い状態だったのだろう。
あの猟師が生き残ってる可能性は低い。
幸運なことに食料は確保できた。
冬に入る前に蓄えた保存食だろうか、狩猟小屋には獣の乾燥肉などが残っていた。
それでもひと冬を越すには心もとない。
どうにかしてどこかで保護されないと少年は飢え死にしてしまう。
これからどうすべきか?
村に戻る。
これはダメだろう。
この付近の治安維持は自警団が担っていた。
父親もその一員だったせいでよく愚痴をこぼしていた。
正式な治安維持組織が存在するのかも怪しい。
たしか、山を越えた先に大きな川があり、そこの港湾都市と交易を行っていたはずだ。
父親と猟師との会話で毛皮や木材の相場の話で盛り上がっていたことを思い出す。
隣村は以前野盗に襲われて、近くで交流のある人里はそこしかなさそうだ。
生き残った村人はそこに助けを求めるのではないか。
そこまでたどり着けなくとも途中で避難民に合流できるかもしれない。
この土地の冬は厳しい。
時がたてば雪が深く積もり完全に外界への道を閉ざされる。
子供にとっては過酷な道のりになるだろう。
早めに決断して移動するのが正解だ。
しかし。。。
少年はずっと動こうとしない。
昼の間は食事も摂らずにじっとしている。
力尽きて気を失っている間に、俺が憑依して食事を摂る。
そうしなければ衰弱して死んでしまっていただろう。
やはり、あの時戻るべきではなかった。
あの惨劇を俺が目にしたため、記憶に焼き付いているのだろう。
それでも前に進まなければいけない。
などと、口にすることは出来ない。
伝える方法がないことはもちろんだが、少年の心の内を知ればそれは酷ではないか。
小さな背中を丸めて蹲る少年を、触れることの出来ない手でそっと撫でるようにする。
ずっと見てきたから分かるよ。坊主。
とうちゃんも、かあちゃんもやさしかったよな。
あそこは居心地がよくて、いつもお日様の匂いがしたっけな。
かまってほしくて、いたずらしても、あの人たちはいつも笑ってたよな。
そんな居場所を奪った連中を許せないってのは当然だ。
こんな世界が嫌いになるのも仕方ない。
それでも。。。な
自分のことは嫌いにならないでくれ。
生まれたことを呪わないでくれ。
身に降りかかる運命を避けることは難しいかもしれない。
それでも、それを自分のせいだと思わないで。
お前が生まれてきたこと、とうちゃんとかあちゃんが愛してくれたこと。
俺はずっと見てた。
くそったれな世界に落ちてきた、ちっぽけな命かもしれない。
でもな、だれかの愛情を受け取っていることだけは忘れないで。
生きることをあきらめないでくれ
万感の思いを込めて祈る
俺の思いが届いた訳ではないのだろうが、少年の瞳に少しだけ輝きが戻った気がした。
そこからも、小屋での生活は続き、相変わらず少年はじっとしている。
それでも自分から食事を摂るようになったのは、よい傾向だ。
少しでも復調に向かってくれたらいいと見守っている。
夜、すすり泣く声が聞こえた。
そうか、やっと泣けるようになったんだ。
次の朝、
あの夜以来、初めて外に出た。
まだ、足をとられるほどの積雪はなく、子供の足でもなんとか歩き続けることはできそうだ。
夜の間に憑依して、何をしなければいけないか、どこに向かえばいいかをさんざん検討した。
知識の共有は夢のお告げのように感じてるようで、うまく働いている。
昼と夜を交代で移動すれば、ほかの避難民に追いついて合流できるかもしれない。
持てるだけの食料を持って扉の向こうへ飛び出した。
これから様々な苦難が降りかかるだろう。
こんな背後霊みたいな俺では、何もしてやれないかもしれない。
それでも、ずっと一緒にいて見続けてるから。
さあ、行こう。冒険へ。。。
ここから冒険が始まります。
幼い子供の行く手には、大人よりも困難な道程が待っています。
主人公は無事に少年を守ることが出来るのでしょうか。




