力の代償
「バッッッカモーーーーン!」
草地に老婆の怒声が響き渡る。
ナージャの前には正座をさせられている、ゴンザ、カイル、アインとおまけの俺。
なんで、こうなったかということを説明するには時を戻す必要がある。
話はすこし前、坊主が偶然出した技に興奮し、その後の技の習得を誓った時まで遡る。
偶然でも見てしまった新技に、俺たち男共は魅せられてしまった。
まずは、どうやって打つことが出来たか、アインにその時の体の状態や変化を根掘り葉掘り聞く。
まだ5歳のアインにとっては言語化が難しく、解析は難航した。
「坊、溜めを長くしたって、どんな感じか教えてくれんか?」
ゴンザの問いにアインは少し考えてから、
「最初にこう、ぐーんって足を縮めてから、もっとぎゅーってするの」
当時の位置関係を再現し、動きで伝えようとする。
カイルに支えられていたアインは彼から離れると、コテンと転んだ。
「あれ?」
「アイン、その足どうした」
初めに気づいたのはカイルだった。
ズボンからのぞく足は、白と赤のまだら模様になっており、熱を帯びている足から蒸気が漂っている。
「こりゃいかん」
すぐに、ゴンザが精霊魔法で修復と回復を行う。
俺もあわてて坊主に近づいて「纏い」状態に入ろうとするが、なぜかうまくいかない。
「これは、修練導師の間で一部の人間に起こる現象に似ておる」
治療を続けながら、ゴンザは苦々しげに口にする。
「修行を続けてある一線を越えると、人の能力の限界を越えた力を出すものがいる。」
「人体には自壊を避けるための制御弁が存在するが、それを修行で取っ払った者だ、
自らの体が壊れる事を恐れずに力を引き出し超人的な力を発揮する」
「これらの者に共通するのは、人の理性を失うという点だ」
あるものは薬を使い、あるものは極限の精神的苦痛によりその状態が訪れるという。
「しかし、坊の場合は。。。」
少年はキョトンとした顔でゴンザを見上げる。
アインの様子は、脳へ働きかけてリミッターを外すという極限な状態には見えない。
俺は心の中で冷や汗をかく。
これ、たぶん、俺のせいだ。
あの時、慌てて行った魔力操作が絡んでるんじゃないか?
たしか、筋肉と骨を保護するために筒状の魔力で包んだよな。
あの時、脚が急に熱を持ったのを覚えている。
脚の模様はおそらく、その時の熱による血管膨張と細胞の壊死か。
この技は危険すぎる!
しばらく回復し続けるとアインは立ち上がれるまでになった。
「。。。坊、この技は危険だ。このまま続ければ、坊の体がもたない」
とゴンザはアインの状態を見て修行の継続を考え直す。
「俺もそう思うぞ、いくらなんでも子供が背負うにはリスクが大きすぎる」
と、カイルも慎重だ。
「。。。カイル兄ぃ、僕に言ってくれたよね。一人前の男として見るって」
「。。。」
カイルは黙したまま答えない。
「ゴンザさんだって技の習得は僕に任せてくれたんじゃないの?」
「しかしなぁ」
「これから、いつ何が起こるかわからないし、死んじゃうかもってことだってあるかもしれない。もしこの技があれば、みんなを救えるかもしれない。僕はこの技が欲しい。なんだってするから手伝って!」
少年の真剣な眼差しを受けて、断ることが出来る男はここにいなかった。
「。。。わかった。だが無理だと思ったらすぐに中止する」
ゴンザは少年の覚悟に折れ、協力を約束した。
「まったく、頑固なやつだ」
カイルは呆れて拳を突き出す。
アインとカイルの拳がこつんと合わさる。
話を聞く所から再開する。
ゴンザの蹴りに合わせて踏み込んだ時に、さらに踏み込みをかけたってことまでわかった。
ゴンザの蹴りが上からくるのが見えて横回転だと当たると思い、後ろに足を跳ね上げて宙返りした。
「蹴りに入る前はどんな感じだった?」
ゴンザが細かい箇所に話を振る。
「うんと、蹴るときにできるだけ遠くを蹴るつもりで、足を延ばすように振ったんだ。そしたら、びきびきって足の付け根が痛くなって。でもすぐに痛みはなくなった」
その時の動きを再現しようと、ゴンザが立ち上がる。
アインの証言通りの動きをしようと、踏み込みを深くし、脚を遠くに振り上げるようにする。
ぶぉん!
丸太のような脚が唸るような音で風を巻く。
「理屈としては、われらが考えた技の動きとそう変わらないんだがな。おそらく蹴り足を振りぬくときに、腰、腿、脛、足、指先の順に振られたことで鞭のような動きになったんだろう」
そこに、柔軟な少年の脚の特性が乗る。
大きな力は必要ではなく、力の波を伝えるしなやかさがいるという。
「おれでは固すぎて再現できんな。坊、もう動けるなら試してみてくれるか?」
「うん、わかった」
アインが立ち上がり、同じ動きをする。
踏み込んだ足に力をため、足を鞭のようにしならせる。
だが、技は発動せず結果は同じだった。
最初の波を作る力が小さすぎるのか?
あーやっぱり俺のせいかぁ。
俺が魔力操作しないとあの威力は出ないのか。
坊主の体は壊したくないしなあ。
どうするか、悩んでいると。
アインが気が付いたように言う。
「そういえば、踏み込んで力をためているときに、足が物凄く熱くなった」
「そうか、そういえば今は髪も光っていないな」
。。。はぁ、やるか。
気は進まないが、坊主の頼みだ。
俺は、「纏い」をするために坊主に近寄った。
髪が輝きだし体が靄に包まれる。
「じゃあ、やるね」
坊主が踏み込みを開始した。
それに合わせ、筋肉と骨を包み込む、魔力のシリンダーが構築される。
シリンダー内部で圧縮された力が臨界に達し、脚が内側からの熱に震える。
しなやかに振り抜かれた脚が標的を捉える刹那、関節を保護する魔力の膜が悲鳴を上げ、
同時にシリンダーが全開放された。
「ドムッ」
空を打つ重低音が響き、アインが吹っ飛ぶ。
草地が飛び散り、土煙が空を舞う。
地面はクレーター状にめくれ上がった。
カイルがまたもやナイスキャッチする。
いまのは、失敗?
「初めて見たのとは違うようだが、それにしてもすごい威力だな」
最初の蹴りは、穴を穿つようだったが今度は、大きなものを落としたような惨状だ。
アインの方を見ると、足を押さえて苦しんでいる。
前回よりも症状が酷く、脚の色が赤黒く変色している。
それに、インパクトの瞬間、重さが脚に跳ね返ったように感じた。
痛みを抑えるために俺は回復を急ぐ。
何度もものすごい音を響かせたため、周囲から人が集まってきていた。
そこにナージャが血相を変えて来た。
「どうしたんじゃ?! これは」
すぐに回復魔法を少年にかける。
徐々にアインの顔色がよくなり、代わりに老婆が鬼のような形相になった。
「どういうことか説明してもらおうかの」
冒頭に戻る。。。




