修練の地
ここから修行開始のシーンです。
アインと主人公は新たな力を手に入れます。
村から少し離れた場所に、踏み固められた草地がある。
修行はそこで行われた。
「我らの闘い方は、草原での戦闘が最も有利に活きるからな。草地での修業が主になる」
ここも決まった修行場ではなく、使っているうちに踏み固められていったそうだ。
実践で使えるようになるためには、数年単位での修練が必要だが、ゴンザはそんな時間もとれない事情も理解してくれた。
「一季節(3か月)だ、その間に基礎的な考え方と体の使い方を叩き込む。あとは自分で修練を重ねなさい」
ここから、アインと俺の修業が始まった。
草人たちの使う武術には名前がなく、古くから連綿と受け継がれているという。
それは小さな体で外敵から身を守るための盾であり、種族を守るために積み重ねた知恵だった。
その考え方の基本は3つで成り立っている。
死角の支配
骨格の合わせ
支点と回転
小さな体を如何に利用するかがその教えに詰まっている。
これに、古代種に見られる精霊魔法による身体強化が取り入れられる。
始めに、死角に対する知識を叩き込まれる。
相手の体が大きいことが前提となるため、隙を突くため、そして逃走につなぐために確実に会得する必要がある。
「戦うというのは最後の手段だ。戦わずに逃げることが出来ればそれは勝ったことと同じだ」
カイルに手伝ってもらい、大きな人がどんな視点なのかを知る。
「大きな人の視界は水平より上に意識が向くようにできている。我らのように小さいのが密着したとき、顎下は意識的に注視しない限り見落とされる」
ゴンザが実践して見せてくれる。
相手の視界から逃れるためには、可能な限り密着する必要がある。
その状態で動きを止めず常に死角に回り込む必要がある。
そのために相手の呼吸にも注意を払い、相手が息を吸い込む時に死角に入るように動きを合わせるという。
その上、視線を誘導させるためのフェイントを混ぜた体捌きも、繰り返し覚えこまされた。
初めに行ったのは相手の影を踏むという単純な遊びだった。
これも遊びとはいえ、じっとしているならまだしも、動き回る相手の影に居続けるのは相当な運動量になる。
少年の体ではすぐにへとへとになり、動き続けることが出来なくなる。
そこで、俺の出番だ。
アインにそっと近づいて体にまとわりつく。
旋風竜の時と同じように髪が輝き、白い靄が体を覆う。
この状態を俺は「纏い」と名付けた。
こうすると、魔法が使えたり、疲労やケガの回復ができる。
それを見たゴンザは驚き、
「坊、それはいったい。。。」
「昔から、僕が辛くなるとこんな風に誰かが助けてくれるんだ」
「。。。意識的にその状態を維持できるか?」
ゴンザが言うには、常にその状態を維持できれば修行の成果を何倍にもできるという。
古代種と呼ばれる人たちは、昔から精霊と直接対話することが出来るものが多かった。
今は強い力は発揮出来ないが、身体への回復や強化に使うことは自然と行えるそうだ。
アインの「纏い」はそれを数段階重ねたような物に見えるという。
「それと、この状態なら坊にしか使うことが出来ない技を会得できるかもしれない」
すべては、3つの基礎を会得してからの話だが、修行の難易度は上がることになる。
アインはそれでも自分に使うことが出来る武器を増やせるならと、受け入れることにした。
「わかった」
ゴンザの目が真剣さを増し、まだ見ぬ技の完成を目指すことになった。
他種族への伝承は初めての試みが多く、皆で話し合いながら修業は進んだ。
「纏い」を使っても、アインの身体能力を超えることはできないので、土台となる基礎修行は「纏い」を使わずに行う。動けなくなる度に「纏い」による疲労回復を施し、修行継続しそれを繰り返す。
負荷をかけて回復するたびに筋力は増えるが、一方で限界があることにも気が付く。
食事を摂った分以上の筋肉増量は行えないので、食事とのバランスを考えるようにした。
「纏い」の連続使用にも限界があることが分かった。
これまでと違い長時間の維持をすると、肉体疲労が回復する代わりに精神への負担が多くなる。
連続での「纏い」は30分程度が限界でそれを超えると、アインは気を失った。
寝ずに3日連続でゲームした時の感じに似ている。
影踏みにも慣れてきたところで、さらに潜伏速度を上げるために纏い状態で魔法による強化を試みる。
体術と魔術を同時に扱うことは、どんなに熟練しても集中がいる難しい操作だ。
そのため、使う魔術は体の動きと連動できるように単純なものだけに決める。
接地面を滑らせたり固定させることを自然に行えるように、風と地の精霊に働きかける。
これを思考と同時に発動できるように訓練した。
呪文詠唱の必要のない精霊魔法だからできる合わせ技だ。
初めはカイルを相手に影踏みの特訓を行っていたが、ゴンザ自身が練習相手になり、その動きの速さは飛躍的に上がった。
体の大きさが変わったことはもちろんだが、ゴンザの立ち回りが見事でアインの動きを完全に把握している。そうしてゴンザを追うことで、確実にその動きを習得していった。
初めてゴンザから死角を奪った時点で最初の修業が終わった。
初めの修行を始めてから3週間の時間が経過していた。
「思った以上に成長が早いな、これなら先が楽しみだ」
ゴンザの含みのある笑いに、二人の背筋に冷たい汗が浮かんだ。
修業は次の段階に移る。
「骨格の合わせと言うのは、言葉の通り骨を合わせるってことだ」
骨と骨は、関節で自由に曲がるが、これを力のかかる面に対して重ね合わせることで高い強度を得ることが出来る。
「相手から与えられた衝撃を骨を重ねることで地面へ逃す。小さな体でダメージを残さないための工夫だ。そしてこれは攻撃にも転用できる。」
体の小さい者が攻撃すると、応力によって力が反って来た時にダメージを多く蓄積することになる。
骨を重ねてダメージを全体に分散することで、そのリスクは下がる。
その修業はただ立つことから始まった。
骨を重ねた姿勢を保ったまま、一日中立つことだけを課せられる。
2足直立から始まり、腕を上に伸ばした姿勢。片足を上げた姿勢と、徐々に難易度が上がってくる。
そうして2週間。アインが自分の体だけで姿勢を維持することが出来たら、次に俺の出番。
「纏い」を行い、少年の軟骨や成長板が壊れないように保護する。
それによりどんな動きや荷重にも耐えられるような強靭な外骨格、外関節を形成する。
接地面の骨が耐えられるように強化し、土魔法による支点を作りそれと同化させる。
この修行の最終段階でゴンザはどこからか100㎏はあろう、岩を担いできた。
不動の構えをとる少年に宣言する。
「これを跳ね返すことが出来れば、この修行は終了だ」
通常ならつぶされてしまう大きさの岩を見て、アインは恐れずに頷く。
ゴンザが少年の頭上に岩を放った。
足裏、膝、股関節、脊椎 腰椎 胸椎 頚椎、そして肩から拳を一直線にする。
顎を微かに引き、後頭部を天から吊られるように伸ばす。
七星連結という身体操作により一方向の衝撃に耐える姿勢を取る。
わずかでもずれがあれば、岩に潰される。
少年の髪が輝き、手足の接地面と関節が強化される。
アインの拳に岩が触れる。その重さはすべてを地面に流され、
「どごん」
少年は岩を見事にはじき返してみせた。
そして次の修業が始まる。
「支点と回転は、先の2つの習得が大前提となる」
ゴンザいわく、先の2つを組み合わせることになるということだ。
「力の弱い我らが重い一撃を繰り出すにはどうすればいいか、それは回転力を打撃に乗せることにある」
ゴンザの話は的確に敵を昏倒させるために、急所を狙うタイミングや支点を使って回転力を打撃に乗せるときの注意点など多岐にわたった。
「打撃の前に回転が必要になるため、「溜め」に時間がかかるのが弱点だが、戦いの組み立て方によってはこの「溜め」の時間を限りなく無くすことが出来る。常に予備動作に回避行動を組み合わせて攻撃の機会をうかがうんだ」
こうして、実戦形式の修業が始まった。
まずは、カイルとゴンザの手合わせを見ることから始まる。
影踏みの要領で相手の死角に入るゴンザ。
その時に次の回避行動をとると同時に回転軸となる支点を確保する。
それは足の踏み込みであったり、魔法による固定であったり状況によって変化した。
カイルはアインに見せるために敢えて今回は接近戦での戦いをしている。
圧倒的なやりにくさを感じながら、それでもゴンザの攻撃を凌いでいるのはさすがだ。
常に死角を取ろうとするゴンザに対し、見失うまいと必死に目で追うカイル。
ゴンザの速度が徐々に上がっていき、体捌きに円運動が加わる。
死角への移動がスムーズになり回避運動が円運動と連動すると、武闘というより踊っているような錯覚を起こす。
そうして、カイルがゴンザの姿を完全に見失った次の瞬間、回転速度で威力を増した蹴りがカイルの後頭部に襲い掛かる。
「やられる!?」
そう思った瞬間、ゴンザの体が脱力し、ふわっと地面に降り立った。
「こんな感じだな」
「ふぅ、冷や冷やしたわ」
余裕な雰囲気のゴンザとひどい汗をかくカイル。
完成された技の妙技を見てアインは口を開けていた。
そうして、自分に足りないものを考える。
相手のとる行動に合わせて、狙う場所を変えたり、常に先を読んで回避行動をする。
回避した姿勢が、そのまま次の踏み込みに必要な予備動作になる事を意識した立ち回りだ。
刻一刻と変化する戦闘状況に合わせて的確な行動を取るそれは、長年の修練の結果だろう。
「なに、ここまでのことをいきなりやろうとする必要はないぞ。こうなるまでは、型稽古や手合わせを繰り返して、体が勝手に反応するまでなじませていく必要がある」
「一度完成されたイメージを目で見ておくことで、これからの修練に役立つから見せたまでだ」
少年はそういうゴンザとの年季の差を感じていた。
そこからの修業は、打撃に移る前の支点の確保と回転運動が主になった。
踏み込んで回転。よけて、支点設置。そのまま回転してよける。
常に相手の死角に入るように意識して、これを繰り返す。
この時には「纏い」を使いこなして、自在に魔法を運動に取り入れることが出来るようになっていた。
打撃に入る前に、骨をそろえて衝撃に備える。
打ち込む時に衝撃を地面に流し自壊を防ぐ。
「纏い」状態でアインに有利な点がもう一つ。
「纏い」を使っている間は体の強化と回復の思考を俺が代わってやれる。
坊主は戦闘に集中できて体の不調は感じなくて済む。
そういえば、俺の視界は何かの役に立つんだろうか?
試しに、纏われた状態で坊主の後ろに視線を置く。
そうすると、坊主の視野が広がったように先読みが的確になった。
おお、これは後ろに目をつけるってやつか?
なんか、昔のアニメの主人公になったようで感動。
こうして、修行の日が続き、3週間を過ぎるころ最終試験を行うことになった。
最終試験に向けて修行に励む主人公たち。
免許皆伝となるのでしょうか?
次は試験シーンになります。




