草原へ
草原の村での到着シーンです。
アインは希望通り修行を受けさせてもらえるのでしょうか。
旅は順調に進み、2週間程経つと周りの風景も変わってくる。
乾いた土と砂ばかりだった地面に、小さな草のコロニーがぽつぽつと見え始めた。
地平線の先まで砂色だった風景に緑のグラデーションが現れる。
草原地帯への入口は何か別世界へ誘われるようなそんな気持ちにさせる。
この地域の草は冬枯れすることなく、青々としているのが不思議だった。
先にしばらく進むと、大人の足首を隠す程度の草で大地が覆われた。
さらに進むと、膝下までの草が現れ始め、馬車はそれをかき分けながら進んだ。
先に進む荷馬車が草を踏み固めて出来た轍のあとを車列が続く。
そうして進んでいると前方に開けた空間が見えてきた。
草を編んで作った壁と、藁ぶき屋根で出来た家が立ち並ぶ集落があった。
中央が広場になっていて、背の低い人たちが集まっている。
彼らは人の半分程度の身長で一見子供に見えるがちゃんとした成人だ。
商隊が到着するのを待ちわびたのか、人々が近寄ってくる。
草原の村:グラスブラン
ロランが代表して挨拶の口上を述べた。
「巡回商人ロランが参りました。草の民の皆様にはどうか良き取引となりますように」
「良き取引となりますように」
商隊の皆が唱和し市場の準備を始める。
ロランが村の長とのあいさつを終え、次にアイン一行が挨拶をする番になった。
ロランが仲介役となり紹介され、村への逗留を快く受け入れてもらえた。
また、一行が旋風竜の討伐を行ったことが伝わると、村人たちは大いに驚きその栄誉をたたえ始めた。
「そうか、それでこの時期にしては天候が良い日が続いたのか」
「旋風竜は我らにとっても仇敵でな。奴らが繁殖しすぎると村の維持にも支障をきたす。それで、数が増えすぎた年には皆で討伐を行うのだ」
討伐の度に犠牲者が出るため村にとっては難しい問題だ。
今年も繁殖期になり嵐の多さに討伐を計画していたということだ。
旋風竜の額から抜き取った宝玉を長に見せると。
「たしかに、これは旋風竜の精霊核で間違いない」
「精霊核というのですか?」
魔法使いの間では宝玉または魔結晶と呼ばれるその玉のことは、強い魔術触媒として知られている。
「魔物の特に精霊の使役を得意とするものは、この精霊核を生まれながらに持っておる。
これは精霊との強いつながりを示すもので、人では使いこなすことの出来ない力を秘めておる」
ただし、普通の人が使いこなすことは出来ないので通常は砕いて処分したり好事家に買い取ってもらったりするそうだ。
「魔術師であれば使い道も多いだろうが、あまり交流が無いのでな。それにこれは長く同じ場所にあると魔物を引き寄せてしまう」
なるほど、だから処分するのか。
「長ご無沙汰してます。宝石商人のビドゥでございます」
話しかけるタイミングを探っていたビドゥが長に挨拶をする。
「おお、あんたか、また精霊核をもっていくかね?」
「ええ、そりゃあもう、砕いたものでも結構でやんす。砕く前の質のいいもののなら、買い取らせていただきやすので、お見せください」
商人の顔で交渉を始める。
「。。。なあ」
カイルが疑わし気な表情でビドゥに聞く。
「なんです? 今忙しいんですが」
「なんとなくそうじゃないかと思ってたんだが、お前の取り扱ってる商品て。。。」
ビドゥはばつが悪そうな顔で、
「な、そうですよ、ここいらから精霊核を譲ってもらってるんでさあ。
別にいいでしょ、要らないものを回収してるだけなんだから」
ナージャがジト目で確認する。
「さっき長が言ってたが、そいつには魔物を呼び寄せる力があるとな」
リタも同じような目をして、
「それで護衛ね。。。まさか、あの旋風竜が追ってきたの、アンタのせいじゃないでしょうね」
ビドゥはあわてて弁解する。
「いやいやいやいや、それはねぇっすよ。これまであんな大物に出くわすことなんてありませんでしたから」
ビドゥが言うには、精霊核にも格があって、普段取り扱っている物には、あれほど力のある魔物を引き寄せる力はないそうだ。
「大きな精霊核は大体は砕いた物ばかりで、現物はめったにお目にかかれないんですよ」
「まあ、小さな魔物には、ちょくちょく出くわすことがあるんですけど。。。」
ビドゥが目を泳がせながら白状した。
「これが禁制品な訳が分かったわ」
リタがあきれて言う。
その夜、村人たちが旋風竜を討伐した勇者を称えるために宴を開いてくれた。
村の子供たちが、アインに話を聞きたがり群がってくる。
「どうやって倒したの?こわくなかった?」
「まだ小さいのにすごいね、いや、僕らよりずっと大きいけど、人の子なんだよね。あっちの人より小さいし」
自分よりもさらに小さな子供たちに、矢継ぎ早に質問されて何から答えればいいか困惑してると。
「こーら、勇者様を困らせるんじゃないぞ」
と顎に豊かな髭をたずさえた、筋骨隆々な壮年の草人が割って入ってくれた。
昼に挨拶をした際に名をゴンザと名乗っていた。
カイルとは旧知の仲のようで、出会った早々。
「おい、カイル!、お前カイルじゃねーか?」
「おっさんか?久しぶりだな、ここおっさんの村だったのか」
カイルがその姿に気づく。
にこやかにお互いに歩み寄り、近づいた瞬間。
「がきん」
男の拳はカイルの水月に向けて放たれ、いつ抜いたのかわからない素早さで、カイルはそれを剣で受け止めていた。
「腕を上げたじゃねーか」「おっさんも、相変わらず容赦ねーな」
ぎりぎりとした空気の中お互いに獰猛な顔で笑いあう。
突然の襲撃にびっくりしたアインは、何事かと目をむいたが、その後豪快に笑いあう二人を見てさらに驚いた。
「いつ以来だったか、しばらくぶりだな」
「ああ、おっさんは、里帰りか?」
旧友と話の花を咲かせるカイル。
「アイン、こっち来な、紹介するよ。前に話したことあるだろ、草人の修練導師ゴンザだ。こっちはアインだ。小さいが旋風竜を倒した勇者なんだぜ」
カイルは冗談交じりに紹介してくれた。
「。。。ほほぉ」
ゴンザはカイルの冗談に取り合わずに真剣にアインを見る。
「興味深いな。気に入った」
その後カイルとの会話に戻りお互いの近況を話していた。
・・・
宴は盛況だ。
草原に多く生育する野生の麦科の植物。
その実を粉にして、ピザ生地のように引き伸ばし、具材を乗せて焼いた料理や、
実を発酵させて作ったエールのような酒が振舞われた。
具材には、切り分けられた鳥肉や木の実、果物の皮、芋のような球根をスライスしたものなど、彩も鮮やかでなかなかの美味だ。
アインは草人の長老たちからも礼をされ恐縮している。
カイルはゴンザや他の草人たちと談笑している。
リタとミリーは子供たちとボードゲームをしているようだ。
ナージャはこの辺の魔物の生態や、旅に役立ちそうな情報集めをしている。
会話の輪から離れ、盃を片手にゴンザが少年に話しかける。
「カイルに聞いたが、坊は俺達の闘い方を覚えたいんだって?」
ゴンザにそう問われて、姿勢を正しアインは真剣にうなずく。
「そうか、いいぞ。俺が教えてやる」
あっさり許可されてぽかんとする少年。
酒を煽り、事も無げに言う。
「なーに、別に秘伝ってわけでもない。村の人間なら全員が嗜み程度は習得してる。むしろ体が大きな者には向かないからな、他の種族の者は覚えたがらないんだ」
「それと。。。まあ何でもない。修行は厳しいが耐えられるか?」
少年は、その瞳に光を宿し「はい!」と元気に答えた。
修行の許可を得たアイン。
次からは修行のお話です。




