巡回商人との再会
一行は嵐を避けて迂回して一時避難します。
そこで、以前出会った商人ロランと再会するシーンです。
馬車は隊列を組んで進む。
アイン一行の馬車をしんがりに数台の旅商人の車列が連なっている。
草原地帯まではまだ遠く、延々と続く荒野を進む。
交通機関の発達していない世界における旅は数か月に及ぶ。
主に馬車が主流で道も整備されていない地域の方が多い。
そんな状況では水が魔法で生み出せる事は重要だ。
荷馬車の構造にも魔術が使われていて、意外なほど乗り心地は悪くなかった。
一週間もすぎて景色にも飽きてきたところ、次の中継地点の前で車列が停止した。
「向こうに砂嵐が見える」
先頭の列で警戒していたビドゥが報告した。
丘の上から見下ろす形になってようやく気づいたようだ。
遠くに巨大な竜巻が複数空に向かって伸びている。
その巨大さは風をまとった数本の龍を想像させる。
アインは恐ろしくも壮大な自然の脅威を見て、感動に近い感情が沸き上がっていた。
天高くそびえる風の塔はすべてを打ち上げて、その破壊力を見せつけていた。
こうして巻き上がった砂は遠くの土地に降り、いずれ芳醇な大地となる。
「迂回しよう」
他の旅商人と相談していたビドゥが行き先の変更を告げる。
少し遠回りになるが、あれに遭遇するよりはましだ。
北に方向を変え、迂回ルートを進む。
そうして進むうちに、巨大な岩塊が見えてきた。
旅商人には良く知られた一時休憩所だ。
「嵐の進行方向が分からないからな、ここでやり過ごす」
大きく巨大な岩壁は30メートルもあり、そのほかにも10メートルほどの岩がゴロゴロと横たわっている。
岩と岩の隙間に荷馬車を入れて、吹き飛ばされないように固定する。
「婆さん、あんた魔術師だろう?風の結界で荷を守れないか?」
ビドゥがナージャに尋ねる。
「まあ、やってみよう」
大仰にうなずき、呪文を唱える。
風の精霊が避けるように、結界を張る。
そうして人々は、岩壁に掘られた洞穴へ避難した。
奥にいくつか焚火があり、周りに人が集まっている。
先客がいるようだ。
「あれ?みなさん。奇遇ですね。わたしです。ロランです」
以前、港湾都市で会った商人ロランとの再会である。
「あんたも嵐で足止めを食った口かい?」
カイルが軽く挨拶して聞く。
「そうなんですよ。東側の村を巡ってきた途中なんですが、ここで足止めです」
「あんたら知り合いなのかい?」
ビドゥが話しかけてくる。
「ええ、一度この方たちに助けていただいて、私は巡回商人をしているロランと申します」
「おれっちは、旅商人のビドゥだ。巡回商人様とお近づきになれるとは、こりゃいい人たちと巡り合ったよ」
商人同士に特有の挨拶を取り交わし、お互いの旅の無事を祈る。
挨拶はそこそこに情報収集を始めた。
「たしか、カイルさんたちは獣族の村へ行くと言ってましたよね?」
「ああ、このビドゥが心当たりがあるらしく、護衛がてら道案内をしてもらってるんだ」
ロランは深くうなずいて、
「なるほど、それでしたら途中まで私たちも便乗させてもらってもよろしいでしょうか?あ、もちろん護衛の依頼料はお支払いします」
ロランの話では、この先の道程は草原の村まで一緒だという。
規模としては大商隊となるロランの馬車列には護衛もついているが、以前やりあった大顎のような大型の魔物に遭遇した場合は太刀打ちが出来ない。
この辺で生育する大型の魔物は少ないが、遭遇する可能性は0ではない。
前金と無事村に到着すれば成功報酬を渡すということだ。
もし魔物が出てもまたいつものように脅かせば済むだろう。
そんな軽い気持ちでいたことは確かで、すぐに後悔することをこの時点では思ってもいなかった。
「ごぉぉぉぉぉぉぉぉぉぉぉ」
ロランと旅の話をしながら情報交換を行っていると、外のほうが騒がしくなってきた。
砂嵐は回避するどころか俺たちに追いついてくるように直撃した。
ナージャのかけた風の結界のおかげで、荷馬車が飛ばされることはないが、外の景色は砂で数メートル先も見ることが出来なくなっていた。
アインはそんな砂の壁のようになった景色に目を奪われて、洞窟の入口にかけられた結界近くで嵐を見つめていた。
「アイン、危ないから洞窟の外には出ないでね」
ミリーが心配そうに声をかけたその時、何かに引っ張られたように洞窟の外にはじき出された。
小さな体が強大な風の奔流に飲まれ打ち上げられる。
一緒に引きずり出された俺はそれを見た。
竜巻の中で風を纏いこちらに牙をむく竜の姿を。
突如現れた強敵との遭遇。
彼らはどのように切り抜けるのでしょうか?




