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奇妙な噂

オアシスに到着した一行。

ここで奇妙な噂を聞くことになります。

変わり映えのしない荒野を延々と歩く日が続いた。

歩き始めてから1週間。

それまで、乾いた砂と風の香りだけだったが、人々の生活の様々なにおいが混じった、複雑な街の香りが遠くから漂ってくる。

近づくにつれ、街の喧騒が聞こえてきた。

こうして、最初の町が見えてきた。


オアシスの町:ドラグフォル


竜の穴とも呼ばれる、巨大なすり鉢状のクレーターの中にその町はあった。

中心部は湖になっていて豊かな水量を湛えている。

湖の近くに町の中心部が並び、外周に向かうにつれ穀物畑が広がっている。

町に向かう道は東西南北に大きな通りがあり、馬車が行きかっていた。


周囲を警戒しながら町の中心部に向かう。

冬枯れしすでに収穫を終えた穀倉地帯を抜ける。


正面に大きなやぐらが見える。

湖の水をくみ上げて穀倉地域に届ける仕組みのようだが、今の時期は動いていないようだ。

街は湖を中央にして同心円状に作られていた。

湖の周りは大通りになっており、市場がたっていた。

宿は大通り沿いに点在している。

突き当りを左に曲がり、櫓を右手に見ながら時計回りに町の大通りを歩く。

宿屋が見えてきた。

竜のしっぽ亭という、宿泊と食事処を兼ねた旅人向けの一般的なものだ。

入口から入ると、宿の受付と兼用の店のカウンターに恰幅のいい女性がいる。


「いらっしゃい、食事かい?泊まりなら一泊銀貨1枚だよ」

リタが宿の女将と交渉を始める。

「じゃあ、俺は情報収集してくる」

と、カイルはひらひらと手をふって一行から離れた。


宿の部屋に入ると、小奇麗に掃除が行き届いており思ったより良い部屋に見える。

4人部屋でテーブルもあり、夕餉ゆうげまではまだしばらく時間があるため、思い思いの格好でくつろいでいた。


夕飯をとる時間になってもカイルは戻らなかった。

「放っておいて食べましょ。たぶん勝手に済ましてくるから」


夜も更けてから部屋の扉を開けてほろ酔い顔でカイルが戻ってきた。

リタが水差しから汲んでくれたコップを渡す。

その水を一気に飲み干す。


やや冷たい口調でリタが問う。

「で、成果は?」


「あまり、役に立つ話は聞けなかったな」

アインの父親ダンの故郷について、獣族に話を聞こうとしたらしい。

獣族は、その身体能力の高さから冒険者を生業にするものも多い。

全体としての数は少ないが、冒険者ギルドにいけば1人か2人は目にすることは珍しくない。


併設する酒場で話をした内容は次の通りだった。


酒場で見かけた獣族の男に、故郷の話を聞かせてもらい話の流れでヒャクガ村の件を話題に挙げた。

すると、その男は胡散臭げな目を向けて、

「兄ちゃん、なんでそんな村の話が聞きたいんだ?」

獣族はその気さくな性格からあまり人を疑うことは無く、その話題を出すまでは気持ちよく話ができていた。


「そこの村の男に、知り合いの女が騙されてな。子供まで作って逃げられたそうなんだ」

でたらめな嘘でごまかす。


「それで、親元に怒鳴り込もうとしたんだが、どこに村があるかわからなくてな」


男は、鼻白んで、

「そりゃ災難だな」

「だが、見つけるのは難しいと思うぞ」


その男は、ヒャクガ村の名前の由来を教えてくれた。

「ヒャクと名の付く村は、俺たち獣族の間では疎まれている忌み名なんだ」

それは、隠れ里を意味する言葉で、何か後ろめたい事情のある獣族が集まっている地域だという。

村から追い出された者、事情があって村に住めないもの。

犯罪者ではないが、一人で暮らすことが出来ないはぐれ者が集まり百牙ひゃくがと名付けている。

他にも、百爪ひゃくそう百尾ひゃくびといった名前の村が点在している。


そんな村の話をされれば、疑いの目を向けられるのも道理だ。


「それで、その生まれた子は何歳なんだ?」

「今は4歳か5歳になってるはずだ」


男は考え込みながら、

「俺の知る村で、そんな年の子をもつ男には覚えがないな」

「それに、噂だがその村は今はなくなっているって話だ」


カイルはどんな情報が出回っているか知るため話を促す。

「野盗に襲われたらしいという話だが、奇妙なうわさも出ていてな」

「それは?」


男は声を潜めて、

「魔王復活に関するうわさだ」


「魔王?」

話を聞いていたリタが素っ頓狂な声を上げた。


「魔王って、大昔のおとぎ話に出てくるあれかい?」

「その魔王らしい」


カイルが話を続けると、

その男が言うには、「ヒャクガは魔王の復活に何らかの関りがあったらしい」

表面上は野盗に襲われたことになってるが、その襲った野盗もその後行方が分かっていない。

村一つ襲って懐が潤った野盗が、その後何の痕跡も残さず消えるのはいくらなんでも不自然だってことで、誰かが裏で糸を引いているんじゃないかって噂だ。


「突拍子のない話だね」

「魔王って?」


それまで黙って聞いていたアインが、興味を持ったようだ。


「大昔、そう千年以上も前の話じゃ」

老婆が話して聞かせる。


かつて、この世界には精霊という存在が満ち溢れていた。

それは人の願いを形にする万能の力であり、様々な奇跡を起こす存在だった。

人々はその奇跡を魔法と呼び、魔法は人々に豊かさと争いを生んだ。


「今使えている魔法も、原理は同じじゃ。じゃがその頃と今では精霊から受ける力がまったく違っておった」


最初のきっかけが何だったのかは記録に残されていないが、ささいな言い争いが喧嘩になり、魔法が使われ、大きな紛争へとつながった。


抑制が効かなくなった人々は自衛のため、あるいは略奪のため、戦いに魔法を使うことが日常となる。


世界が混沌へと進む中、魔王と名乗る者が現れる。


精霊の力を我が物とし、世界を手に入れる存在として人々を恐怖に陥れた。

異様な姿をした人型の魔族と共に大陸中を蹂躙した。


人々は、魔王への服従を良しとせず、魔王率いる魔族と人類の全面戦争となる。

その時に人類側に与したのが魔術師。魔族側に与したのが獣族を始めとした古代種と言われる者たちだった。


その戦いは世代を超えるほどの長きに渡った。


そして、戦いの中、魔道技術の粋を集めた最終兵器が魔法使いによって作成された。

その破壊力はすさまじく、圧倒的な力で魔王軍をねじ伏せた。

そして、戦いは、人類側の勝利として終った。


その戦いの後、なぜか精霊の存在が希薄になり、とうとう完全にこの世界からいなくなる。

しかし、魔法は消えず、ほんのささやかな力だけが発現するようになった。


それ以来、魔術は魔術師による魔法の研鑽と管理される対象となり、魔術師評議会が作られ、過ちを繰り返さないように監視されている。


老婆は語り終えて、さらにつけ加えるように言う。

「レッドリバーという名前の由来もこの時のものさ」


当時の戦闘の凄まじさを表すように、赤き血のレッドリバーと呼ばれたのが変節して今言われるようになったそうだ。


その夜、俺は夢を見た。

普段から眠る必要のない体だったが、坊主の体に入ると急に眠気が襲ってきた。


それは戦場の風景。


剣戟の音がそこかしこで聞こえる。


そこに馬に乗った金髪の男がいた。

周りには人の形をした異形の者たちがかしずく。


「あれが現れてから、戦線が後退し続けています」

誰かが報告する。


「。。。潮時だな」

金髪の男がつぶやく。


「撤退の準備を始めろ!、一度攻勢に見せかけて全力後退する!」

「全員、戦線を離脱して魔族領まで逃げろ」

男は最後の命令を伝える。


「しんがりは余に任せよ」


周りの臣下がどよめいて、反意を促す。


しかし、男は、

「余の野望は潰えたが、これは希望でもある。この戦いの後、世界は変革するだろう。そうなれば争いは無くなる」


男の言葉に涙する臣下の面々。

供を言い出すもの出たが、男は許さなかった。


世界に安寧と安らぎを求め、男は一人馬を駆る。


「こんなはずじゃなかったのになあ」

なんとも情けない独白を誰にも聞かれることなく、戦場を駆け抜けていった。




ヒャクガ村の成り立ちや魔王など不穏な話が出てきました。

父親ダンの故郷の話は聞けるのか。次回も聞き込みを続けます。


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