決意とやさしさ
潜伏場所に一同が会し今後の相談を行うシーンです。
彼らはどんな選択をするのでしょうか。
宿に入ると、そこは雑居部屋のようだった。
10人ほどが横になれる空間に、粗末なベッドが2つ。
客も一行以外はおらず閑散としていた。
明り取りの窓はなく、入口が一つだけの空間にランプのか細い灯りだけを頼りとした場所。
その薄暗い空間で、アイン、ミリー、そしてリタが待っていた。
不安そうな顔をするアインを元気づけるようにカイルが笑いかける。
「追手は捉えて、憲兵に突き出してやったぞ」
ホッとする少年たち。
「敵が分かったぞ」
全員をちらりと眺めてナージャの言葉が重く響く。
「坊主を狙っているのは、魔術師評議会の排除派じゃ」
「っ」
ミリーが青ざめた顔になり言葉を失う。
「まさか、魔法使い全員が敵になることはないよね?」
リタが顔を引きつらせながら聞く。
「どうじゃろうな」
「おそらく、一部の者が暴走したんじゃろうが。。。」
「坊主の村が襲われたのはそのせいかもしれん」
「。。。」
アインは、自分が原因で村が、両親が襲われたかもしれない事に衝撃を受けていた。
俺は薄々感じていた。
山間の小さな村を襲う理由。
野盗にしては手際のよい強襲。
あまりにも徹底した破壊。
英傑による襲撃。
執拗な追手。
偶然重なる事のない出来事が、すべて坊主を中心に起こっている。
暗い空気を散らすようにナージャは胸を張って宣言する。
「これでも、もとは評議会の一員じゃ。」
「理由もわからず弟子の子に手をかけようとは、わしの目の黒いうちは決して許さん!」
「ミリーもわしの弟子じゃからな、評議会には従わんでよい」
「はい!」
元気よくミリーも返事をする。
カイルとリタも頷きあいながら言う。
「雇い主がそう言うなら、俺たちに異存はねえ」
「そうだよ、アイン、あたしらに任せな」
アインは涙を浮かべて、皆の顔を見回す。
過酷すぎる日々が、少年の感情を抑え常に緊張させてきた。
そのせいで、あれだけ本気だった子供らしい感情がなりを潜めていた。
たった数か月の異常な日々が小さな少年の心を重石のように抑えつける。
大人たちの言葉は頼もしく、少年は普通の感情を取り戻し大声で泣いた。
泣きつかれて、眠る少年をベッドに寝かしつけて、今後のことを話し合う。
俺もこっそり参加する。
「それで、実際に相手にする敵に心当たりはあるのか?」
カイルが戦士の顔になり当面の敵の情報を聞き出そうとする。
英傑ゴウライは引き続き追手に加わるだろう。
「あの魔術術式には見覚えがある」
と、追手に施された魔法陣を思い出してナージャが考える。
「特殊な呪術を得意とする魔術師がおる」
「排除派の中でも特に執拗に排除を訴えておった男がいた」
「大魔術師、クラーク」
「奴がなぜそれほど強硬な手段に出たかは理由が不明じゃが、評議会の決定を待たずに暴走するとは思わんかった」
「なにか状況が変わったのか?」
カイルへの問いに答えに迷うナージャ。
「評議会からの連絡は届いておらん。今のままでは、何もわからん」
空を仰ぎ、老魔術師は言った。
「今から、学舎へ思念糸をつなげる」
こちらの存在を察知させずに共有思念体に接続し情報を視るこの魔術は、魔法使い同士の情報交換に使われていた。
「こちら側に意識を向けることが出来んでな、いたずらするなよ」
「だれが!」
カイルの憤りに同意。
ナージャが座禅を組み呪文を唱え、印を切ると体が揺れ始めた。
しばらく揺れが続いた後に、ピタッと止まり。
ゆっくりと目が開く。
「まずいことになっておる」
ナージャの話によると、今の魔術師評議会は、大魔術師クラークの専横によって混乱していると言う。
どうやって知り得たか不明だが、伝説の発現を予見し、懲罰部隊を派遣したらしい。
魔術師評議会の懲罰部隊、黒梟と呼ばれるその組織は下位組織の中でも荒事を役目としていた。
直接手をかける場合もあれば、野盗やごろつきを使うこともあり、目的を遂行するためには手段は選ばないことで有名だった。
本来は、悪事を働く魔法使いや魔術師を諫めるために設立されたが、諜報と戦闘に優れていたため裏仕事に手を染めることもしばしばあった。
それが、ヒャクガ村の惨劇へとつながる。
『そこにいる、金髪の子供を捉えて、連れてくること。
村人は全員始末すること。』
その命令書にはそう書かれていた。
評議会がそれに気づいたのはすべてが終わった後だった。
一つの村が消滅し、一人の少年が行方不明になった。
クラークは少年の存在と危機を切り抜けた事実を、伝説の発現であると声高に宣言した。
評議会の多くは懐疑的であり、クラークの暴走を激しく非難した。
しかしすでに時遅く、評議会の主要な構成メンバーはクラークの術中に囚われてしまっていた。
呪言という、その魔法は使用者の望まぬ言葉を発すると命を奪われる恐ろしいものだった。
追跡者の顎に残っていたものと同じだ。
この魔法は、呪法とも呼ばれ禁忌とされる呪いだった。
言葉を発さずとも、その意思を他人に伝えようとするその行為が引き金となり命を落とす。
評議会の大魔術師達は苦渋に満ちた表情で、彼の暴挙を追認するしかない状況ということだ。
ここまでの情報を、共有思念体の雑多な情報から組み立てる事ができるのはナージャだけだろう。
他の魔術師は違和感を覚えつつも普段の生活を送っている。
これを聞いた、カイル、リタ、ミリーは青ざめた。
「おいおい、それじゃあ、実質、魔術師評議会が乗っ取られたってことじゃねーか」
「。。。」
一同は不安を隠せない様子でナージャを見る。
ナージャは煙管を取り出しながら、
「安心せい。評議会のやり方に疑いを持つ魔術師は多い」
「やり方があまりにも乱暴で受け入れていない者が圧倒的に多数派じゃ」
「当の黒梟からも離反者が出ておる。組織立った攻勢はおそらく無かろう」
「しかし。。。」
カイルはまだ納得していないようだ。
たしかにそうかもしれない、それでも不安はぬぐえない。
実際に小規模とはいえ命の危険に遭遇している。
何より、あのゴウライを差し向けてきたくらいだ。
敵が本気であることは間違いない。
「奴らが手をこまねいている内に、隠れるのが好手じゃな」
「わしは学舎とも袂を分かれておるでな、今更戻る気もない」
煙管を撫でながら老婆は悔恨する。
「じゃがミリーには学舎での暮らしを経験させてやりたかった。それが心残りじゃ」
「ミリー、お前さんはこんなことに付き合わなくてもいいんじゃぞ」
ミリーは手に力を込めて思いを吐き出す。
「お師匠様、私はお師匠様に拾われていままで生きてこられたんです。」
「それに、アインは私の弟みたいなものですよ。姉が弟を守るのは当然です」
目に涙をためて少女は言う。
「足手まといかもしれません、でも。。。これからも一緒にいてはだめですか?」
煙管を優しく撫でながら、
「まったく、変なところばかり似おって。ほんに、お前はわしの弟子じゃな」
と老婆はうれしそうにつぶやいた。
そして、カイルとリタに目を向ける。
「お主らへの依頼は学舎までの護衛だったな」
「今回の依頼はここまででよいぞ。報酬はすでにギルドに渡しておる」
何やら芝居がかった様子でカイルがリタと会話を始めた。
「。。。なあ、リタ。」
「ん?」
「俺らの仕事って自由な冒険者だよな?」
「ああ、そうだよ?」
「依頼が済んで、その後にどうするかは俺たちの自由だよな。冒険者なんだから」
「あんた、何当たり前のこと言ってんの?」
「じゃあ、小さな子供の行き先と、たまたま一緒になることもあることだよな?」
「はぁ。。。あんた、めんどくさいね」
リタが呆れながらため息をついた。
老婆と少女は笑った。
仲間のやさしさに本来の子供らしい感情を取り戻したアイン。
一行は逃亡の旅へと向かう決意をします。
彼らの行く末に安息はあるのでしょうか。




