1.違和感
唐揚げが1つ減っている。今回こそ間違いない。僕は唐揚げが好物なのだ。なので自分の好きな食べ物の数を見間違うはずもない。
しかし、調理中に味見を兼ねて食してしてしまったという可能性もある。それも無意識に。
「……そんなことあるか」
独り言る。恐らく最初から数を間違えていたのだろう。
そう結論付けた。
はたりと思考を止め、盛り付けを始める。
中皿に盛られた唐揚げは山崩れを起こすような勢いで高々と積まれる。キャベツなんてものは敷き詰めない。茶色1色のエベレストだ。
その数17個。
本当は18個になる予定だったのだか。
……よし。我ながら惚れ惚れする仕上がりだ。
崩れないようにキッチンからテーブルに運び、そろりそろりと皿を置く。
ゴトンと鈍い音が静かな部屋に響く。型崩れすることなく綺麗に着地。
ふぅ……とここで一息。
さてと、茶碗にご飯を盛り、コップに麦茶をなみなみと注ぐ。
小さめのローテーブルには、そびえ立つ唐揚げ、つやつやと輝く白米、氷が涼しげな麦茶が三角形を描くように置かれた。
三種の神器とでも呼ぼうか。
よし、準備は出来た。
両手を合わせ、食材への感謝を称する。
「いただきます!!!」
誰もいないしんとした部屋に、開戦の合図が響いた。
小麦色の唐揚げにザクリとかぶりつく。醤油とにんにくのパンチの効いた香りが鼻に抜ける。そして歯を入れれば溢れ出る肉汁と旨味。
これだよ……これ!!!
止まらない。濃い味付けの唐揚げに白米が合わないわけがない。
唐揚げ、白米、唐揚げ、白米。あまりの美味しさに急いで食べてしまい喉に詰まりそうになる。それをキンキンに冷えた麦茶で流し込む。
「……っぷはぁっ!」
これ以上の幸せがはたして存在するのか。
ここで、一息つく。
まるで脳に肉汁が浸透したのかと思うほど、思考が鈍くなってる。
頬を紅潮させながらぼーっと一点を見つめてしまっていた。
おっとはしたない。
あまりの美味しさに意識が飛んでいてしまっていた。
「それにしても……誰にも邪魔されない食事ってのも、悪くないな……」
一人暮らしを始めてしばらく経った。
実家にいた頃は、兄弟が多く夕飯のおかずなんて取り合いだった。それはそれで賑やかで楽しかった……ような気がする。
しかし、こうやって一人で好き勝手食べれて、手が止まってもおかずは減らない。そんな環境も悪くない。
さて、食事の続きだ。せっかくの唐揚げも冷めてしまってた台無しだ。
気を取り直し、唐揚げを一気に頬張る。
「……!?!?!?」
な、なんだ!!
明らかに今まで食べていた唐揚げとは違う味がする!!
衣も水分でへなへなになってるし。
この酸味……どこかで……そうだ……これは……
ごくりと酸っぱい塊を喉に流し込む。
「レモンだ……これ……」
ありえない。唐揚げにレモンをかけるなんて、国旗を燃やすほどありえない。
「なぜだ……?」
辺りを見渡した。もちろん誰もいない。
僕が無意識にやったのか――否、そんなはずは無い。
これは断言出来る。僕は唐揚げが大好物なのだ。
唐揚げにレモン汁をかけるなんて、催眠をかけられてようが意識を乗っ取られていようがそんなことをするはずがない。
というかどんだけレモン汁をかけたらあんな酸っぱい唐揚げが出来上がるんだ。まるで唐揚げ味のレモンを齧ってるようだったぞ。
とりあえず口直しために麦茶を飲もう。
空になったコップを手に取り立ち上がった。そしてキッチンへ向かう途中に、足元に転がった︎︎"何か"を踏み潰して――視界が反転した。
重力が全身に降りかかる感覚。四肢の自由が効かず、ただ宙を泳ぐ。
視界には見慣れた天井。
あぁ……転んだ。
えらくスローモーションに見えた。
体が床と平行になるにつれ、ぐーっと、下に引っ張られるように重さが加算される。
ゴンっ、と鈍い音が誰もいない静かな部屋に響く。
その音を皮切りに徐々に視界が暗くなる。
そして最後に目にしたもの、それは床に転がったポッカレモンの70ml容器だった。
……頭……打ったか……。ていうか、なんでポッカレモンが……。
フェードアウトしていく意識の中で、疑問が多数浮かぶ中、うっすらと思っていた。
まぁ、唐揚げ食えたし……。もういいか。こんな人生。ああ、我が生涯に一片の悔い無しってやつだ。




