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第三章:不沈艦、東京湾の影


3.1 巨艦の誕生


それは、現代の常識では考えられない極秘プロジェクトだった。防衛省技術研究本部が中心となり、日本の名だたる民間造船企業が特別チームを編成し、建造した極秘艦。イージス艦が全盛を極めるこの時代に、誰が想像できただろうか、この艦種を。そう、それは戦艦だった。しかも、その規模は、かつての「キングオブバトルシップ」と称された超弩級戦艦をも遥かに凌駕するものだった。


基本の船体は、大型の原子力空母をさらに一回りスケールアップしたサイズ。あのイギリスのプリンス・オブ・ウェールズはもちろん、ドイツのビスマルク、そして我が国の長門、武蔵をはるかに凌駕し、日本海軍の象徴たる戦艦大和の4倍近い巨艦だった。艦は完全に外界からカバーされた超大型の海上ドックで建造された。洋上空港計画と密接にリンクしながら、まさにそれを隠れ蓑として、主要船体部分は着々と建造された。


艦の心臓部である動力は、日本初の原子力船「むつ」の基礎研究の成果を、埋もれた研究データの山から発掘し、それを参考に日本独自の原子力発電所建設で培ったノウハウをもとに、完全な国産の原子力ユニットを開発建造した。その出力は、想像を絶するものだった。


また、上部構造は7つのパートに分けて日本各地の造船所および陸上の工場で建造された。武装ユニット、防御ユニット、探索ユニット、通信ユニット、航海ユニット等、それぞれで最新のテクノロジーが注ぎ込まれ、多くの冒険的技術が導入されて、それらは形をなした。


そして今、それは東京湾のレインボーブリッジから南4キロの地点に浮かぶ巨大な浮きドックへと運ばれ、遮蔽用のシールドに隠されたドック内で接合され、ひとつの巨体を完成させた。その威容は、たとえ隠されていても、周囲の海を圧倒するかのようだった。


3.2 不沈の防衛思想


なぜ、今、巨艦なのか。航空勢力に打ちのめされた第二次世界大戦の時の状況を忘れてしまったわけではない。巨大な海上での標的となる大型艦は、多数の攻撃機の襲来により魚雷、爆弾を雨あられのように降らされ、その脆弱な対空火器では防ぎようのない嵐のような攻撃にさらされ、あえなく多くの巨大戦艦が海の藻屑となって消えていった。その戦訓を忘れてしまったわけではない。


当時の戦艦は分厚い装甲を持っていたという点で、今の多くの戦闘艦としては一線を画していた。しかしながら、その防御装甲は厚さのみに頼り、側面装甲をはじめとして、構造的には特に大型の魚雷攻撃に対して十分な防御力を発揮できていなかった。例えば、戦艦大和においては30センチを超える分厚い側面防御鋼板を有していたが、それをとりつける骨組みがそれに比較して軟弱であったがため、魚雷を被弾すると、防御装甲自体は十分に耐えていたが、その衝撃に骨組みが耐えられず、接続部分の隙間が拡大し、隙間から浸水するという事態を招いた。また上面装甲においても、いわゆるバイタルパートと呼ばれる動力部分を防御する鋼板は、いくつもの煙路を通す貫通穴が明けられ、実質の耐弾性能はその装甲板の厚さと比較して格段に劣っていた。


だが、今この目の前にある巨大なドック内でその完成を待ちつつある超巨大艦は、現代の最新の、正確にいえば日本の造船技術を核として、あらゆる分野、航空技術、陸上兵器技術、通信技術、原子力技術、ミサイル技術、などなど兵器産業をはじめとするあらゆる分野の技術の総力を結集してそれを形にしたものだった。


最も力を注いだのは次の3点だった。


1点目はその防御鋼板の材質だった。基礎技術は戦車の装甲板技術。これはいわゆる複合装甲板の技術を応用していた。特殊鋼とタングステン鋼、場所によっては劣化ウランをも使用した。さらにセラミックやカーボンを使用し、その積層構造によって強靭な防御力を持たせた。もちろん基本はその厚さだった。厚いところでは50センチ、側面の舷側に至っては空隙部分を含めるとなんと2メートルを超える防御装甲を有していた。それだけの重量を海上に浮かせるために、その排水量は100万トンを超えた。


2点目はハリネズミのような対空防御システムだった。長距離ミサイル、中距離ミサイル、短距離ミサイル、近接防衛システムと多段階であるうえ、それぞれの防衛段階で最低でも3種類の兵器システムが構築された。さらにこのような対空防御システムの要である探知システムも、あらゆるタイプのものが複合的に使われていた。最も遠距離を探知するのは人口衛星だった。これはすでに全海洋の95%以上をカバーする高性能な偵察衛星網を構築していた。これらから送られるリアルタイムの観測情報からのデータにより、超遠距離の脅威に対して、超長距離ミサイルを発射した。


次はこの艦が固有で運用している無人偵察機だった。これも超航空を人工知能により自動飛行する大型のターボファンジェットだった。これは水平線外の敵の脅威を人工衛星よりもより正確に探知、識別、追尾できた。これの誘導により、長距離ミサイルが発射された。水平線内は艦のもつイージスレーダーシステムで探知できた。


さらにこれをカバーするように、この超弩級の艦の周囲360度を常に8つのディテクターシステムが覆っていた。それは海中を航行する小型潜水艇のようなものだった。これも無人艇で完全な自立航行を行い、水面上から探知用アンテナを出し、水平線内外を中心にきめ細かいレーダー索敵を行った。もちろんこの無人艇は海中の探査も行い、艦艇にとって次なる脅威となる潜水艦およびそれから発射される魚雷を探知した。


ここで海底からの脅威に対する防御システムに少し触れよう。海底からの攻撃は一つだけだった。だがその脅威は計り知れない。高性能のホーミング魚雷だ。魚雷の破壊力はミサイルや航空爆弾とは比較にならない。現代の魚雷は舷側に着弾して爆発するのではなく、艦艇の真下を通過する途中で爆発する。その大型の弾頭の爆発力は艦の最も弱いキール部分を、下から上につきあげるような方向で破壊する。実はこの超弩級艦はこの魚雷攻撃を防ぐ3つのシステムを持っていた。一つはこの無人艇からの司令で、対空ミサイルならぬ対潜水艦ミサイルを発射できた。しかもその魚雷の推進システムはスクリュー推進ではなく、ロケット推進システムを使用していた。そのため極めて早い速度で迎撃が可能であったため、探知してから破壊するまで少なくとも2度の攻撃チャンスを持つことが可能だった。つまりそれだけ撃破できるチャンスが高くなるわけだ。


次に光学探知距離まで近づいた時点で、対魚雷用の速射砲で海面上から撃破する手段を持っていた。これは対空ミサイルに対するバルカンファランクスのようなものだ。そして最後のこの魚雷があらゆる防衛システムを突破して艦の底に到達した場合、艦艇に装備している超音波砲が艦底の一歩手前でこれを撃破、舷側で爆破させ、被害を最小限に抑えることができるようなシステムを有している。


同時に艦底は独特のV字型構造をしており、これによりすべての防衛手段をすり抜けて艦底で爆発した場合の衝撃波を巧みに両サイドに逃がし、キール損傷という最悪のダメージだけを防げるような艦底の構造となっている。この構造は一見見かけ倒しのようにも見えるが、実際陸上では対地雷処理車両の車両底面は同じような形状になっており、この構造は水上艦でも同様の効果があることが実験で実証されていた。


3.3 巨大砲兵ベースとしての使命


この艦の最大の目的は、海上からの陸上への圧倒的な火力支援であった。現代の主戦場はその多くが海から20キロメートル以内の場所にあることが、今までの戦闘のデータ解析で分かっている。特に他国への武力侵攻はそのほとんどが、海上よりなされている。もちろんこれはアメリカを見た場合である。アメリカは侵略のための領土戦争ではないという立場から、世界で紛争の種が発火するごとに最終的には陸上戦闘用の主力を海から上陸させている。その時最も多大な火力支援を要する敵前上陸という局面が多々発生する。


こういった場合、通常は空母機動部隊を主力とする航空戦力により、あるいはまた潜水艦や海上戦闘艦から発射される巡航ミサイルの攻撃力を多用することとなる。だが実際はミサイルといわれるもの、巡航ミサイルであり、ロケット弾であれ、その弾頭をジェットエンジンやロケットモーターで飛行させるため、一つは弾頭の大きさをあまり大きくできないという点がある。さらに飛翔体は弾頭プラス飛行動力を含んでいるため、大型の割には破壊力が小さいという点がある。上記の点からして、現代戦においてもいまだその破壊力の大きさとコストパフォーマンスの大きさでは、陸上戦闘の王様的位置にあるのは意外かもしれないが、実は砲兵部隊にある。


陸上戦闘でも野戦砲や自走砲は多大な攻撃力をもつ部隊の地位を占めている。いまでも多連装ロケットシステムがより近代化され、再装備され多大な戦果を収めてはいるが、それは一部の局地戦に貢献しているという意味であり、戦局全体からいえばやはり野砲の地位は揺るぎないものである。そう言った意味で海洋ではなぜかミサイル全盛であり、ロケットシステムは精密誘導のピンポイント攻撃が可能だとういう点でアドバンテージがあるにすぎない。安価で短時間に大量の弾道を集中投下できる兵器体系は砲兵システムであることは疑いない。


そう言った意味でまさにこの超弩級艦は、海上を移動する巨大砲兵ベースといってもよかった。まさにこれがこの艦の建艦思想であり、存在意義だった。かつて戦艦大和が片道燃料を積んで沖縄に特攻作戦を敢行したのも、沖縄の海岸に座礁させ、砲台として使うためだった。座礁させれば不沈である。まさに移動砲台という運用思想で、最後の日本海軍の巨大戦艦を3000名を超える将兵とともに特攻作戦に従事させたのである。


翻って現代によみがえった、しかも桁外れの大きさでつくられたこの艦は、浮きながらにして決して沈むことのない設計思想とともに、新たな不沈艦主義の権化としてその姿をこの21世紀に成したのである。その目的はただ一つ、首都ワシントンの沿岸からの特攻砲撃。過去の因縁が、この巨艦の存在理由となっていた。



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