にゅうめんマン、怪人退治の依頼を受ける(2)
ガラステーブルの脇にある絶妙にクッションのきいたいすにそれぞれ腰を下ろしてから、男は言った。
「本日はお忙しいところをご足労いただきありがとうございます」
「どうぞお気づかいなく。博覧会のことで相談があるとのことですが、早速要件を聞かせてもらえますか」
「はい。数日前から、恐ろしい怪人がパビリオンを壊したりパビリオンのスタッフを洗脳したりして会場を荒らしているのはご存じですか」
「小耳にはさんだ程度ですが」
「怪人本人が言うところによると、怪人の目的は博覧会を中止に追い込むことらしいのです。もしそんなことになったら、国の面目もつぶれるし、収入も途絶えるし大変なことになります。だから、私たちはできる限りの手は尽くしたのですが、どうしても怪人の暴走を止められず弱り切っているんです」
「どんな手を尽くしたんですか」
「腕に覚えのある、あらゆる方面の方に怪人の退治を依頼しました。空手家、ボクサー、力士、サンボの達人、カポエラの使い手、ボディービルダー、浪士、超能力少年、バイオソルジャー、宇宙人——挙げればきりがありません」
「その人たちはまったく歯が立たなかったんですか」
「はい。万策尽きた私たちはもう、心労で食事ものどを通らないような具合なんです。私の部下など、食事がのどを通らないせいで5キロもやせたと言って、デパートに新しい水着を見に行きましたよ」
「何か楽しそうですね」
「楽しいどころか危機的な状況です。このままでは博覧会の中止は避けられません。そこで、とても強いと評判のにゅうめんマンさんに怪人の退治をお願いしたいわけです」
「なるほど。……1つ気になったんですが、すでに何日も怪人が暴れ回っているのに、今でも博覧会を開催し続けることができているのはどうしてですか。それほど危ない怪人ではないということでしょうか」
「怪人と怪人に洗脳された人たちは、物は壊しますが、こちらから手を出したり抵抗したりしない限り人に危害は加えないようなので、今のところ来場者が途切れることはなく、何とかなっています」
「それにしたって、そんな恐ろしい怪人がいる所に人が来続けるのは不思議ですね」
「むしろ来場者たちは、怪人が次々にパビリオンを攻略していくのを見るのが楽しいようで、今や怪人は博覧会最大のアトラクションになっています」
「殺伐とした博覧会だな。楽しんでいるならもう放っておけばいいのでは」
「他国のパビリオンが壊されるのを放っておくわけにはいきませんよ。それに、怪人がすべてのパビリオンを支配するのも時間の問題です。そのときは博覧会を中止せざるを得ません」