怪人、メキシコのパビリオンを襲う(2)
メキシコパビリオンの中には思いがけずたくさんの人がいた。この騒ぎで博覧会の来場者はみんな逃げ出したかと思いきや、そうでもなかったらしい。ひょっとすると、外にいるより安全と考えて屋内に避難したのかもしれない。
ミョクミョクが入場すると、すぐに照明がみんな消えてパビリオンは真っ暗になった。その状態で1分ばかり待つと場内アナウンスが流れた。
「皆さん、大変なことになりました!何と、ミョクミョクを名乗る恐ろしい怪物がメキシコのパビリオンに攻めて来たのです!!」
ここで照明の一部がつき、パビリオン中央にあるプロレスのリングを明るく照らし出した。メキシコはプロレスが盛んな国だから、パビリオンにリングが設置してあるのも自然な成り行きだった。ミョクミョクはパビリオンの中央までてくてく歩いて行き、空気を読んでリングに上がった。するとなぜか来場者から歓声が起こった。
それから再び場内アナウンスが流れた。
「見てください、このみにくい姿を!怨念から生まれた妖怪を名乗るだけのことはあります。しかしご安心ください。このパビリオンの館長は、メキシコでチャンピオンベルトをほしいままにするプロレスのチャンプなのです。必ずや怪物を撃退してくれるでしょう!」
今度はパビリオンのスタッフ控室の扉に照明が当たり、派手なマスクをした男がチャンピオンベルトを腰に巻いて中から出て来た。パビリオンの館長だ。館長はリングへ駆け寄りさっそうとマットに飛び乗った。エキサイトした来場者たちから盛大な歓声が起こった。
レフェリーを務めるスタッフもリングへ上がり館長にマイクを渡した。館長はベルトをレフェリーに手渡してからミョクミョクを挑発するように何か語り始めた。
「この野郎!ミョクミョクだかニョクマムだか知らねえが……」
だが、話が長くなりそうなのでミョクミョクはマイクを奪い取って観客席へ投げ捨てた。怒った館長はミョクミョクの顔面に先制の空手チョップをぶち込んだ。