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万博の怪人(10)

どうにか立ち上がると、にゅうめんマンは、そばで倒れているミョクミョクへよろよろと近づいた。足を運ぶ度に体の節々が痛んだ。


「どうするつもりですか」

 三輪さんはたずねた。

「とどめを刺します」

「命まで奪うのは気の毒じゃありませんか」

「しかし、こんな危ない妖怪を生かしておくわけにもいきません。ミョクミョクは今までたくさんのパビリオンを壊してきたし、けが人も出ています」

「でも……」


三輪さんが悲しそうな顔をするので、にゅうめんマンはとどめを刺すのを先延ばしにし、とりあえず、細心の注意を払いつつ、ポケットから取り出した縄でミョクミョクの両手両足をしばった。ミョクミョクは生きてはいるようだが抵抗はしなかった。それどころかまったく動かないし、表情が乏しいせいで何を考えているのかも分からない。


「ここで話すのも何ですから」

 ということで、にゅうめんマンは三輪さんと2人がかりで、そばにある無人のパビリオンの中へミョクミョクを運び込んだ。他の者に話を聞かれない方が具合がいい。すぐそばにはミョクミョクの手下が1人いて様子をうかがっていたし、その他にも数人が離れた所からにゅうめんマンたちを見ていた。


拘束したミョクミョクを建物に運び込むとき、手下がついて来てしれっと一緒に中へ入ろうとしたが、にゅうめんマンがおどかすとあわてて逃げて行った。


* * *


無人のパビリオンの中へ移動してから、にゅうめんマンは三輪さんに言った。

「また破壊活動を始めたら困りますし、やはりここで息の根を止めておく方がいいんじゃありませんか」

「確かに破壊活動は困りますけど、ミョクミョクも話せば分かるかもしれません」

「うーん。そもそもなんでミョクミョクをかばうんです」

「博覧会の破壊者をかばうのは公益に反するのかもしれませんが、それでも殺されるほどの悪者ではないと思うし、ミョクミョクが世間を恨んで暴れ出したくなった気持ちも、何となく分かる気がするんですよね」

「そうだなぁ……」


すると突然ミョクミョクが口をきいた。

「もういいんだ」


2人は驚いてそちらを振り向き、にゅうめんマンはミョクミョクにたずねた。

「もういいとはどういうことだ」

「恐いだの気持ち悪いだのと言われ続けて俺はもううんざりしているんだ。世間に恨みを抱いて生きていくのも、いまいましい、くだらんことだ。俺だって好きでこんな妖怪に生まれたわけじゃないさ。とどめを刺したければ刺すがいい」


「せっかく私がにゅうめんマンを説得しているのにそんなことを言わないでください。人の恨みから生まれた妖怪だって、もう少し長く生きて一花咲かせなければ、何のために生まれてきたのか分からないじゃありませんか」

 三輪さんは言った。


「でも、すでにたくさんの被害が出ているし、無罪放免ではみんな納得しないかもしれませんよ」

 にゅうめんマンがそう言うと、三輪さんは答えた。

「被害を埋め合わせてもらえばいいと思うんです」

「どうやってですか」

「博覧会の宣伝をするんです」

「宣伝?」

「はい。ミョクミョクの姿は一見恐いですけど、よく見れば何となくかわいいし、インパクトは抜群だし、博覧会から生まれた妖怪でもあるし、きっと人気が出て優れた宣伝役になれます」

「こんなヘンテコな妖怪の人気が出るかな……?」

「もちろん出ます」

「だとしても国や運営者がミョクミョクを許すでしょうか」

「大きな声では言えませんが、彼らが許す必要はないんです。ミョクミョクを止められるのはにゅうめんマンしかいないのだから、罪ほろぼしのために博覧会を宣伝する活動がしたいとミョクミョクが言ったら、にゅうめんマンが止めない限り、黙って従うほかありません。破壊活動をやめて実際に売り上げに貢献すれば不満もないでしょう」

「なるほどね……でも、僕はそれでかまいませんが、博覧会の宣伝をしろと言われてミョクミョクが素直にそうするかな」


そこで三輪さんはミョクミョクに言った。

「あなたは、博覧会がにぎわっているのが気に入らないから中止に追い込みたいと言っていましたね」

「そうだ」

「それはつまり、自分も他の人たちと一緒に博覧会を楽しみたかったんじゃありませんか」

「……そうかもしれないな」

 つぶやくようにミョクミョクは答えた。


「どうです。興味はありませんか」

 三輪さんはたずねた。


「そんな大雑把な計画がうまくいくかどうか疑問だが、宣伝をしろというならしてもかまわない」

「よし。ただし二度と物を壊したり人を洗脳したりしないでください。そのときはきっと、にゅうめんマンがあなたを生かしておかないでしょう」

「ああ。分かっているさ」


* * *


にゅうめんマンはミョクミョクを信用し、手足をしばっていた縄を解いた。ミョクミョクはすでに歩けるまで回復していて、束縛を解かれると、のそのそとパビリオンを出て行った。それを見送るため、にゅうめんマンも三輪さんとともにパビリオンの外へ出たのだが、そのとき、地面に放置されたままのチャンピオンベルトに気がついてミョクミョクに呼びかけた。


「ベルトを忘れているぞ」

「あれはお前のものだ」

「三輪さんの助けがなければ俺は負けていたかもしれないし、そのベルトはお前の方が似合うから、お前が持っておけばいい」


ミョクミョクはまぶしく輝くベルトを拾い上げて立ち去った。


* * *


その後、にゅうめんマンは「ミョクミョクを殺してしまうと手下たちの洗脳が一生解けないのでやむなく生かしておいた」とか適当なことを言って運営と話をつけ、ミョクミョクは三輪さんの思惑どおり博覧会の宣伝をすることになった。


手下たちの洗脳を解いてから、ミョクミョクはメディアと交渉してテレビやラジオに出演したり、インターネットで動画を配信したり、卓越した身体能力をいかして博覧会会場でアクロバットのパフォーマンスを披露したり、様々な格闘家の挑戦を受けて公開試合をしたり、にゅうめんマンや三輪さんと一緒ににゅうめんの屋台に立たされたりして人気を博し、あり得ないほど強い妖怪のチャンピオン、きもかわいい「万博の怪人」として博覧会になくてはならない存在となった。そのおかげで来場者は増え、ミョクミョクグッズもバカ売れし、博覧会の売り上げに大きく貢献したミョクミョクは幸せに暮らした。


(終わり)

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