怪人、エチオピアのパビリオンを襲う
ミョクミョクは人々の怨念が集まって生まれた妖怪だ。——この国際博覧会は、西日本の人工島で「命きらめく未来の世界」をテーマに開催された。だが、仕事が辛いとか、人間関係がしんどいとか、ダイエットがうまくいかないとか、さまざまな理由で負の感情を抱える「命がきらめかない者たち」は、連日開催されるきらびやかな催しや幸せそうな来場者たちの様子を、うらめしい思いで見ていた。この者たちの怨念が博覧会会場に集まり、1つの形にこり固まって、顔の周囲にいくつもの目玉を持つ恐怖の怪人、ミョクミョクが生まれたのだった。
そんなわけで、にぎやかな博覧会に敵意を抱いていたミョクミョクは、近くを通りかかったパビリオンの1つを恐ろしい怪力で蹴飛ばしたり、物を投げつけたりして、破壊活動を始めた。
パビリオンの館長はすぐに異変に気づき外へ飛び出した。
「誰だ!エチオピアのパビリオンを荒らすやつは!」
館長はミョクミョクにどなった。
「俺はミョクミョク。人々の怨念から生まれた妖怪さ」
「妖怪だか何だか知らないが、うちのパビリオンを攻撃するのを今すぐやめたまえ。お前も聞いたことがあるだろう。いまだかつて、エチオピアを怒らせて平穏な生活を続けられたやつは1人もいないのだ」
この最後のフレーズは、2020年にダムのことで他の国ともめたときにエチオピア政府が公表した公式声明だ。「there has been no one who has lived in peace after provoking Ethiopia」で検索したら見つかるので、興味があれば調べてほしい。
だが、ミョクミョクは館長の警告を無視して破壊活動を続けた。
「ならば仕方がない。お前には、元プロボクサーである私の拳をへどが出るほど味わってもらおう!」
そう言って、館長は背後からミョクミョクに激しく殴りかかった。だが、ミョクミョクは軽々とその攻撃をかわし、館長の方を振り向いた。目がたくさんあるので、後ろから攻撃されてもばっちり見えているのだ。
「くっ!ならばこれはどうだ!」
館長は、今度は正面から、敵目がけてパンチを放った。ミョクミョクは素早く片手を上げて館長の拳を手の平で受け止めた。
「何だ今のとろくさいパンチは?準備運動でもしているつもりか」
ミョクミョクはその拳をつかんだまま敵の右腕をぐいとひねった。館長は苦痛のうめき声を上げた。
「ぐああぁぁ!」
ミョクミョクはその体勢から館長の体を蹴り上げ、戦いに決着をつけた。